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総務省の調査では移住相談件数が過去最多の約40.8万件を記録するなど、地方移住への関心が高まっています。生活コストの削減を目的に移住を選択する子育て世帯もいる一方で、家賃が下がっても“目に見えない別のコスト”が家計を圧迫することも考えられるでしょう。本記事では、地方移住したものの、交通インフラが整備されていないために夫婦で車2台が必須となり、年間80万円の維持費と安くない物価の前に「貯蓄ゼロ」の生活を強いられる世帯年収570万円・30代夫婦の事例を紹介します。

移住者を苦しめる「生活コスト」の落とし穴…データで見る地方移住の実態

総務省の「移住相談窓口等において受け付けた相談件数(令和5年度)」によれば、全国の窓口等で受け付けた相談件数は40万8,435件となり、過去最多を記録するなど、地方移住への関心が高まっています。特に子育て世帯においては、広々とした住環境や家賃などの生活コストを下げることを目的に、都市部から地方へ移住するケースは少なくないでしょう。

しかし、移住によって住居費を削減できたとしても、見えにくいコストの増加によって、家計を圧迫することも考えられます。その代表的なものが「交通費」です。

国土交通省の「二地域居住等の最新動向について(2023年)」によると、地方などへの居住実践者が感じるデメリットとして、「移動が負担となった(交通費、移動時間など)」が29.3%、「生活拠点にかかる費用が負担となった(家賃、税金、家財の購入など)」が18.1%となり、想定外の金銭的負担を感じている実態があります。

公共交通機関が発達していない地域では、一人につき一台の車が必要になることも珍しくなく、ガソリン代や保険料、車検代といった車の維持費が負担となるでしょう。

実際に内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」を見ても、今後節約したい生活費として「交通費、自動車維持費等の費用」を挙げた人の割合は、大都市(東京23区・政令指定都市)で40.1%であるのに対し、町村部では48.5%と、地方における車社会の負担の重さが客観的な数値からも読み取れます。

目先の家賃の安さだけでなく、移住後の生活全体にかかるトータルコストを把握しておかなければ、思わぬ経済的困窮に陥る危険性があります。

今回は、トータルコストを甘く見て地方移住の選択を悔いている30代夫婦の事例を見ていきましょう。

「この広さで家賃5万円!?」…生活費削減を狙った30代夫婦の決断

「家賃が安くなれば、子どものためにもっと貯金ができると考えていました。でも、現実は車を維持するためだけに、夫婦で働いているようなものです……」

サトシさん(仮名・36歳)は、妻のミカさん(仮名・33歳)と小さな子どもの3人家族です。少しでも生活費を抑え、自然豊かな環境で子育てをしたいと考え、都市部から離れた町へ移住しました。

サトシさんの会社員としての給与とミカさんのパート代を合わせた世帯年収は約570万円。以前の住まいは手狭な2LDKでしたが、移住先では庭付き3LDKの平屋でありながら家賃は月5万円に収まり、サトシさんは移住の成功を確信していました。

「ウソだろ、この広さで家賃5万円!? 東京じゃ考えられないな。これならガッツリ貯金に回せるぞ!」

ところが、実際に地方での生活を始めてみると、都市部では気づかなかった問題に直面します。

甘く見ていた地方の「車社会」…想定外だった“1人1台”の現実

「もちろん地方なので車社会なのは覚悟していて、家族用に1台持ってきたんです。でも、まさか1台じゃ生活できないなんて想像もしていませんでした……」

家の周辺は公共交通機関がほとんど機能しておらず、どこへ行くにも車が必要不可欠。当初は「家族で1台あれば大丈夫だろう」と考えていたサトシさん。しかし、車で通勤してしまうと、残されたミカさんは日中の買い物や子どもの病院、さらにはパート通勤すらできなくなってしまったのです。

結果として、サトシさんの通勤用とミカさん用として、夫婦でそれぞれ車を所有しなければ生活が成り立ちませんでした。慌ててミカさん用の中古の軽自動車をローンで購入したため、家計への負担はさらに増えてしまったのです。

車2台分のガソリン代をはじめ、毎年の自動車税、自動車保険料、そして定期的な車検代やタイヤなどの消耗品代を合わせると、車両のローン返済を除いた純粋な維持費だけでも年間で約80万円に達しました。

さらにサトシさんを悩ませたのが、日常的な買い物でした。近所にあるスーパーは競合店がないためか、都市部のスーパーよりも物価が高く、食費も決して安くは済みませんでした。

「確かに家賃は下がりました。でも、ガソリン代と保険料、それに意外と高い食費で家計は毎月カツカツです。子どもの将来のために移住したのに、まったく貯金ができないなんて本末転倒です……。これなら都会にいたほうがマシでした」

生活コストを下げるという最大の目的が果たせず、サトシさん夫婦は不安な日々を送っています。地方移住に伴う車社会の現実を甘く見ていた結果、余裕のない生活を強いられています。

[参考資料]

総務省「移住相談窓口等において受け付けた相談件数(令和5年度)」

国土交通省「二地域居住等の最新動向について(2023年)」

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果