肌荒れ、疲れ、イライラといった自律神経の乱れが引き起こす不調を防ぐにはどうすればいいのか。順天堂大学の小林弘幸教授は「皿洗いが効果的だということが研究で明らかになっている。男性は30代、女性は40代から乱れやすくなる。特に大都会に住んでいる人ほど注意が必要だ」という――。

※本稿は、小林弘幸『科学的に証明された 自律神経を整える習慣』(アスコム)の一部を抜粋・再編集したものです。

写真=iStock.com/design box
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/design box

■「夫婦の仲」を悪化させる2つの要素

夫婦のちょっとしたケンカやいさかいごと。どこの家庭でも多かれ少なかれ起きることかもしれませんが、小さなほころびがやがて大きな不信につながってしまったり、子どもの成長によくない影響を及ぼしてしまったりする場合もありますから、決して簡単に見過ごせる問題ではないと思います。

第一、しょっちゅうケンカしているのは気持ち的にもつらいですよね。

ところで、夫婦仲が悪くなる状態には、見方によってふたつの解釈ができると思いませんか?

ひとつは、トラブルの原因や、考え方などの違いがはっきりしているもの。もうひとつは、なんだかイライラしていて「つい当たってしまう」「心にもない言葉をかけてしまう」場合のものです。

最近では、夫の言動にストレスを感じ、それが体調にも影響を及ぼしてしまうことを「夫源病(ふげんびょう)」、その逆を「妻源病(さいげんびょう)」といい、話題になっています。

写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

しかしここでとくに知っておいていただきたいのが、女性のイライラには「月経前症候群(PMS)」が影響していることも多いということです。PMSは月経開始の3〜10日前から始まる精神的・身体的症状で、イライラや不安感、のぼせや動悸、発汗など、自律神経失調症に似た症状が現れることがあります。

これらは月経とともに減退ないし消失する症状で、女性のなかには「なんであんなにイライラしていたんだろう」と思う方も少なくないようです。

■イライラには皿洗いがおすすめ

では、イライラしてつい当たってしまったり、または当たられてしまったりしたときは、どうすれば解決するでしょうか?

ぜひ覚えておいてほしいのは、単純な行動パターンをすることで、自律神経を整える方法です。具体的には「とにかく沈黙する」「階段をひたすら上り下りする」「皿を洗う」といったものです。家庭内ならとくに、皿洗いはおすすめです。

フロリダ州立大学のアダム・ハンリー博士らの実験によれば、ふたつのグループに「皿洗いの手順だけを書いた指示書」と「気持ちを込めて皿洗いをするための指示書」をそれぞれ読ませてから皿洗いをさせたところ、後者のほうがイライラを抑えられたといいます。

これをうまく応用するのはいかがでしょうか。

皿を洗うことで自分の意識は落ち着くんだ、こうして食器洗いをしている自分はすばらしい、決して一時の感情に流されることなく、自分らしくいよう……。こんな考え方とつねにセットで行なうようにします。

すると、イライラの感情が抑えられるようになり、あとで同じようなケースに直面しても、対処の方法がわかっている分、あせりにくくなるのです。自律神経も整い、台所も片づくので、一石二鳥ですね。

■男性は30代、女性は40代から低下

自律神経のバランスは、加齢とともに乱れやすくなっていきます。交感神経の活動力はあまり変わらないのに対して、副交感神経は男性は30代、女性は40代から低下していきます。これは私たちの実験データからも明らかです。そして、相対的に交感神経が強く活性化している状態が、つねに続くようになってしまうわけです。

この状況を、私たちは疲れや肌荒れ、不眠などを通じて、「老けたなあ」とか「20代のころはこうじゃなかったのに……」などと感じます。加齢とともに自律神経のバランスが乱れるのは、ごく自然なことです。

写真=iStock.com/Toa55
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Toa55

老化の進み具合を自律神経で見た場合、何も対策をとらなければ、私たちに備わっている自律神経の力は10年でおよそ15%ずつ低下していくといわれています。しかし、これはあくまで体の中身だけの話です。

実際、30代、40代となれば、会社や家族、子どもに対する責任も重くなるばかりで、ストレスは増え、さらに自律神経を乱すことになってしまいます。

■自律神経の乱れが「老け」の原因になる

自律神経が乱れると、血液の流れが悪くなることはすでにおわかりだと思いますが、結局、血の巡りが悪くなれば、人間の体は老化するしかありません。

自律神経が整っている人は、交感神経優位=血管の収縮、副交感神経優位=血管の拡張という機能がスムーズに入れ替わっています。すると、血液を通して体に届く栄養素はより届きやすくなりますし、排出しなければならない老廃物もまた、よく排出されるようになるわけです。

さらには自律神経が整うと、胃腸の調子がよくなることで、血液によって届けられる栄養素自体もよく吸収できるようになります。

自律神経が整っている人は、年齢にかかわらず、肌や髪につやが出ます。脂肪が蓄積されにくくなり、見た目も美しくなれます。病気にもかかりにくくなりますし、疲れも感じにくくなります。精神的にもイライラすることが少なく、より穏やかな状態でいられます。

これらがトータルで働くことで、「昔と変わらない!」「あの人、本当に○歳なの⁉」と周囲から驚かれることが多くなるということです。彼ら・彼女らのヒミツは、自律神経がよく整っていることだったのです。

また、笑顔が素敵な方は、印象がとてもいいですよね。じつは、笑顔には呼吸を安定させる効果があります。反対にしかめっ面は呼吸を浅くします。呼吸が安定すると自律神経も安定して血流もよくなり、筋肉の状態が最適になるので、どんなときでも笑顔を忘れないことも、若々しさを保つうえで大切です。

■日本一、自律神経が整っている意外な地域

みなさんは、「自律神経が整っていそうな地域は?」と質問されたら、どの地域を思い浮かべるでしょうか。温暖な気候と美しい海、開放的な空気が魅力の九州・沖縄地方、雄大な自然と豊富な食資源に象徴される北海道など、気候や自然と結びつけて思い浮かべる方が多いかと思います。

私たち研究チームは、自律神経の総合力を意味するトータルパワーをもとに、都道府県を8グループに分類して、多重比較を実施しました。

その結果、トータルパワーがいちばん高い地域は「四国」ということがわかりました。このことから、四国が「日本でいちばん元気に過ごせる地域」であることがわかったのです。

写真=iStock.com/elico-polo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/elico-polo

四国は、中央部を東西に四国山地が走り、北と南のふたつの地域に分けられます。北側の地域は年間を通じて降水量が少なく、南側の地域は太平洋の黒潮の影響で年間を通じて降水量が多いという特徴がありますが、どちらの地域も自律神経が乱されにくい温暖な地域であるということは共通しています。

また、警察庁が2017年に発表した、都道府県別刑法犯の検挙件数を地域別に見ても、いちばん少ないのは四国でした。単純には結びつけられませんが、「安心して過ごせる」という部分も、自律神経の総合力が高くなっている一因ではないかと考えられます。

■関東に疲労気味の人が多いワケ

一方で、トータルパワーがいちばん低い地域はどこでしょうか。答えは関東です。関東はほかの地域と比べて、疲労気味の方がとくに多いということが、研究結果からわかっています。

小林弘幸『科学的に証明された 自律神経を整える習慣』(アスコム)

これはほかの大都市圏にも見られる傾向ですが、高層ビルが立ち並ぶオフィス街が多く、仕事のスピードも速く、プレッシャーも多い日常にさらされている影響で、交感神経がつねに優位となり、その状態がキープされてしまっている方が多いからと考えられます。

その結果、トータルパワーが全国でいちばん低い状況を生み出してしまっているのでしょう。

日本人は総合的に見て交感神経優位の方がとても多いです。そして、とくに大都市圏に住んでいる方ほど、残念なことに自律神経が乱されやすい環境がそろってしまっています。だからこそ、整える術を早急に身につける必要があるのです。

----------
小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
----------

(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸)