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東京23区をはじめ、都市部の賃料上昇が続いています。特に更新時やオーナー変更のタイミングで「家賃値上げ」の知らせが届き、その一方的な決定に不満を抱いている人もいるのではないでしょうか。そこで今回、60代男性の事例をもとに、家賃値上げに「応じる」「拒否する」以外にとれる現実的な選択肢について、弁護士が解説します。

「家賃の値上げ!? また!?」

東京23区内の築40年を超えるアパートで暮らすカズオさん(仮名/60代)は、管理会社から届いた「家賃値上げの通知」を思わず二度見しました。

穏やかな日常が暗転したきっかけは、高齢だった前大家の逝去です。物件を相続した息子は早々に物件を売却し、聞いたことのない海外の会社が新たな大家となりました。

それ以来、血の通った交流は消え、事務的で無慈悲な通知だけが届くようになったといいます。

「これまで6万円だった家賃を、来月から7万円に上げるそうです。2年前、業者が入ってすぐ5,000円値上げされたばかりなのに……。文句があるならメールで連絡しろという一点張りで、電話も通じません」

収入は年金のみ、その受給額も月あたり約15万円のカズオさんにとって、1万円の増額は無視できない問題です。節約を積み重ねてようやく維持している生活に、これ以上の余力はありません。

業者が提示した値上げ理由は「地価高騰に伴う近隣物件の賃料上昇や、管理費・修繕費の高騰を踏まえた見直し」とのこと。

しかし、実態としては立地のよさを背景に、マンションへの建て替えやより高い賃料で入居者の入れ替えを狙っているように見えました。

「長年ここに住んで、この地域への思い入れもあります。でも、近くの物件はどこも家賃が高いから、近くに引っ越すのは難しいです。それに、この歳で別の賃貸に引っ越しなんてできるんでしょうか……」

前大家と交わした「ずっと住んでいいからね」という約束は、もう通用しません。資本の論理で動く現大家にとって、カズオさんのような入居者は、利益の最大化を阻む邪魔な存在でしかないようです。

「このまま言いなりになって、思い出の詰まった部屋を去るしかないのか。それとも、なけなしの貯金を切り崩して徹底抗戦すべきか……」

はたして、現大家の“追い出し作戦”に抗い、平穏な住まいを守ることはできるのでしょうか。

弁護士の助言

LIFULL HOME'Sマーケットレポート (2026年1〜3月版)によると、2026年3月の賃貸物件の掲載賃料は、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)シングルタイプで9万9,690円(前年同月比+21.3%)と、2020年の集計開始以降の最高値を更新しました。

近年、本事例のような家賃増額をめぐるトラブルが相次いでいます。とりわけ駅近や都心部では、更新時やオーナー変更のタイミングで賃料見直しが行われるケースが増えているようです。

もっとも、賃貸借契約における家賃の増額は、貸主が一方的に決められるものではありません。借主との合意が原則です。

また、仮に合意に至らなかったとしても、ただちに退去を求められるわけではなく、最終的には裁判所が相当賃料を判断します。よって、通知が届いたからといってすぐに応じる必要はありません。

一方、近時は不動産価格や賃料水準の上昇を背景に、一定の増額が認められる場面が増えているのも事実です。

したがって、「感情的に拒否する」か「言われるまま応じる」かの二択ではなく、周辺相場や物件状況を踏まえ、妥当な水準を見極めたうえで「交渉する」ことが重要です。

具体的には、近隣の類似物件の賃料を確認し、「いくらであれば相当か」という客観的な根拠を持ったうえで、書面やメールで冷静に意思表示を行うことをおすすめします。また、いきなり提示された金額をただ受け入れるのではなく、「段階的な増額」や「一定期間の据置き」といった条件の交渉も現実的な選択肢でしょう。

特に高齢の入居者にとっては生活基盤に直結する問題であるからこそ、早い段階で専門家に相談し、現実的な落としどころを探ることが重要です。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士