日本のインフラ問題をどうするか…今にも通じる、20年以上前に出された「7つの提言」
日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?
注目の新刊『日本のインフラ危機』では、私たちの暮らしを揺るがす「大問題の正体」を豊富なデータと事例から解き明かす。
(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)
「アセットマネジメント」とは?
日本では、2000年代に入ってからインフラに対する「アセットマネジメント」の重要性が指摘されるようになりました。
アセットマネジメントという言葉を聞いたことがない方も多いかもしれません。アセットとは「資産」のことです。アセットマネジメントとは、もともと金融や不動産の世界でよく使われる言葉で、「資産を効率よく管理、運用する」という意味です。
この言葉が、橋の新たな管理方法として、当時欧米を中心に注目を浴びていました。議会において、インフラメンテナンスに必要な予算を獲得するためには、客観的かつ合理的な説明が必要との考えからです。
たとえば、道路構造物であれば、「道路を資産としてとらえ、道路構造物の状態を客観的に把握・評価し、中長期的な資産の状態を予測するとともに、予算的制約の中でいつどのような対策をどこにおこなうのが最適であるかを考慮して、道路構造物を計画的かつ効率的に管理する」ということです。
日本において、私を含むインフラに携わる研究者・技術者の間でまだなじみのなかったアセットマネジメントという言葉が飛び込んできたのは、2002年6月に国土交通省内に設置された「道路構造物の今後の管理・更新等のあり方に関する検討委員会」から発信された7つの提言でした。
その第一にアセットマネジメントが明記されたのです。また、第二にライフサイクルコスト(LCC)の重要性も指摘しています。
1.アセットマネジメント導入による総合的なマネジメントシステムの構築
2.ライフサイクルコストを考慮する設計・施工法の確立
3.構造物の総合的なマネジメントに寄与する点検システムの構築
4.新たな管理体制の構築
5.技術開発と専門技術者の養成
6.支援策と制度の整備
7.情報提供と住民参加
いま読み返してみても、いずれの提言も現在のインフラメンテナンスにとって必要不可欠なものばかりです。7番目の「情報提供と住民参加」はこの後お話しする福島県の平田村や南会津町の取り組みを始めるきっかけを与えてくれたもので、その先見の明に感服するばかりです。
また、提言から20年以上経った今でも、まだまだ課題が山積しているところに、メンテナンスの難しさや奥深さを感じます。
その後、2004年から(社)日本コンクリート工学協会(現・(公社)日本コンクリート工学会)に「コンクリート構造物のアセットマネジメント研究委員会」が設置されました。このとき日本で初めてコンクリート構造物をアセットとしてとらえ、合理的かつ効率的に運用する方法論を議論する場が提供されたのです。当時私はまだ駆け出しの研究者でしたが、インフラに対するアセットマネジメントの重要性をひしひしと感じていたので、委員として参加することになりました。
そこで私が担当したのは、点検データに基づくアセットマネジメントの全体像を示すことでした(図表4-4)。
インフラのアセットマネジメントは点検データの質と量に依存します。点検データがない状態でも、仮定をおこなうことで各構造物の劣化を予測し、簡易なレベルのマネジメントをおこなうことは可能です。これにより、基本的な維持管理計画を立てることができます。
しかしながらそれでは不十分なので、点検データを収集し、点検データに基づく劣化予測をおこない、それに基づいてより詳細なレベルのマネジメントを実施することで、より具体的な維持管理計画の策定につながります。こうした点検データが蓄積され、質、量ともに確保されると精緻な劣化予測が可能となり、高度なレベルのマネジメントにより、戦略的な維持管理計画を立てることができます。
このような結果はアカウンタビリティ(説明責任)の向上、さらには市民との合意形成につながります。また、維持管理計画に基づき、次の点検や対策の実施につなげることが可能になるばかりでなく、新しく造る構造物の計画・設計・施工にもここで得られた知見を反映させることができるのです。この図の概念は20年経った今でも大きく変わることはないと自負しています。
さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。
