『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』©2026 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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 2026年も、大・爆・発! 4月10日から劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』(以下、『ハイウェイの堕天使』)が全国公開中。今年も事前の盛り上がりがすごく、映画の舞台となる横浜の劇場では最大で1日に59回も上映され(※)、分刻みで準備されたスケジュールに「山手線の時刻表か」などのツッコミもあがっている。

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 TVアニメが30周年という節目を迎える中、劇場版29作目として作られた本作。そのテーマは昨年に引き続き「残された者の想い、喪失感」でありながら、全く異なるアプローチで挑む爽快なバトルアクション作品だった。

※本稿では『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』の決定的なネタバレ(公式サイトのあらすじ以上の展開)は避けていますが、一切の情報を遮断したい方はご注意ください。

・今回の舞台は“神奈川県”

 コナン映画といえば、毎回注目されるのが“舞台”。今年は横浜……に見えて、実は“神奈川県”が舞台。

 最新鋭のバイクが集う「モーターサイクルフェスティバル」が横浜で開催される中、突如としてコナンたちの乗る車を飛び越え、謎の“黒いバイク”が暴走する事件が発生。神奈川県警交通部第三交通機動隊の白バイ小隊長・萩原千速が自身の白バイで追跡するも、凄まじいスピードで振り切られてしまう。

 その後、黒いバイクは都内にも出現し、警視庁の追跡網をも突破。目的不明の暴走を繰り返すが、その車体が最先端の新型白バイ「エンジェル」に酷似していることが判明する。警察は「黒いエンジェル」という意味合いから、この車体および犯人を「ルシファー」と呼称し、追跡を続ける。

 新型白バイの開発エンジニアである大前一暁らを交え、コナンたちが「ルシファー」の正体と暴走の目的を追う中、千速の脳裏には弟・萩原研二と、その同期である松田陣平の記憶がよぎっていく……。

 予告編でもみなとみらい付近の映像が散見され、『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌』以来の横浜舞台の作品かと思いきや、箱根と横浜など、神奈川県を広く扱っていく作品となっている。

 基本的にコナンはロケハンが細かく、今回も桜木町の駅前やパシフィコ横浜から元町商店街、横浜港本牧ふ頭に山下公園付近、横浜ベイブリッジなど、馴染みのあるランドマークが次々に登場。今回は車やバイクといった乗り物アクションが見せ場のメインを飾っているため、移動距離も多く、例年に比べて聖地巡礼の一環としてキャラクターが通ったルートを運転していく要素が加わっている。

・推理よりもアクション色が濃い作風に

 さて、アクションが見せ場となる本作。タイトルコールの前から高速道路で派手な衝突やスピード感満載のチェイスシーンが繰り広げられる。このシークエンスは本作のメインキャラクターの1人、萩原千速の紹介の役割を担うと同時に、これから映画が展開していく方向性を示しているようにも感じる。実際、本作には『名探偵コナン』お決まりの眠りの小五郎による推理シーンがなく、登場人物たちがそれぞれ点と点をあわせて犯人像を捉えていく形になっている。特に、千速と世良真純と共に手がかりについて調べるシーンが多い主人公の江戸川コナン。彼が誰よりも先に犯人に気づくのが定石だが、今作では千速が同タイミングでわかっていて、お互いに示し合わせるような形で協力している姿が印象的だった。

 犯人の手がかりも序盤からかなり丁寧に伏線が張られていた印象で、キャラクターそれぞれの思惑が交差する点が面白い。そしてもちろん、犯人の動機がわかったところで止めることもできないため、クライマックスからラストにかけては横浜の街もめちゃくちゃになりながら(爆発のオンパレード!)、“ノンストップで”駆け抜けていく。例年に比べて推理モノとしてのミステリー色は薄まっているが、その分アクションのハラハラドキドキに振り切っているような作品だ。むしろ前年の『名探偵コナン 隻眼の残像』が“静”を意識した大人のサスペンスドラマ色が濃かったため(とはいえクライマックスのアクションシーンの重量感は凄まじい!)、今年は会話劇というよりアクションでキャラクターを見せる作品としてバランスが取れているように感じた。どちらも“弟を失った兄・姉”の喪失と向き合う物語でありながら、アプローチの仕方が違うのが良い。

 本作の監督を務めたのは『名探偵コナン 黒鉄の魚影』で演出を担当した蓮井隆弘。彼は何を隠そう、2025年アニメにおいてアクションの演出・作画がトップクラスだった『真・侍伝 YAIBA』の監督でもあり、そういったところからもアクションに力が入っている背景が伺える。また、脚本は大倉崇裕が担当。劇場版を手がけるのはこれが5作目となり、特に『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』を書いただけあって、本作で登場する萩原研二や松田陣平の扱い方がうまい。残された者がどう前を進んでいくのか。そういったテーマも『ハロウィンの花嫁』に呼応していて、なんだか切ない気持ちになってしまう。松田と研二に関しては、劇場版恒例の「冒頭ナレーション」内で、とある“前例なしのとんでもないやりとり”が聞けてしまったことに度肝を抜かされた。

・萩原千速に惚れずにはいられない!

 さて、そんな本作だが、間違いなく主役は千速だ。シリーズの主人公はコナンだし、ヒロインは毛利蘭である。ただ、本作は「千速映画」といっても過言ではないくらい、彼女の魅力に溢れた作品なのだ。原作やアニメでも、そこまで登場回数が多いわけでもなく、まだまだキャラクターを深掘りする余地があっただけに、アクションシーンはもちろん、普段の過ごし方など様々な顔が見られる。なにせ、冒頭からあの我らがヒロインの蘭が「女神様……」と頬を赤らめて惚けてしまうほどで、大変綺麗で素敵なカッコいいお姉さんなのだ。それなのに、意外と苦手なものがあったり、人並みなところもあったりと、本作でかなり新情報が知れてしまうため、より彼女の人となりを理解して沼にハマってしまう人も多いだろう。

 そんな彼女に気がある横溝重悟とのやりとりも終始微笑ましく、まさに原作者・青山剛昌が本作の根幹におくラブコメ要素が堪能できるところが良い。

 また、千速に限らず本作は“カッコいい女性キャラクターの活躍”をフィーチャーしているように感じる。蘭は今回もその脚力でとんでもないものを止めてしまうし、何より千速に次ぐバイク乗りとして走行アクションを見せる世良が、お得意のジークンドーも披露。『名探偵コナン 緋色の弾丸』を彷彿とさせる、細かいコレオグラフィーが印象的で、コナンとのアクションにおけるバディ感も凄まじく、実はとにかく魅せに魅せまくっていた。また、警視庁交通部交通執行課の宮本由美と三池苗子も劇場版ならではの活躍ぶりを披露。ゲストキャラである神奈川県警の巡査・舘沖みなとや交通部の警部補・浅葱一華、工業デザイナーの龍里希莉子の3名も真が通っていたり、成功していたりと、カッコいい女性として本作で存在感を発揮していた。

 コナン映画に何を求めるかで賛否両論は分かれそうなものの、ラストに流れるMISIAが歌う主題歌「ラストダンスあなたと」が兎にも角にも素晴らしく、激しいアクションの熱を優しく包み込み、観る者を心地よい余韻に浸らせてくれるだろう。

(文=アナイス/ANAIS)