ふだんの食堂がカラフルなダンスホールに!介護士やスタッフらも一緒に盛り上げる

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 ミラーボールが七色の光をホールに満たし、大音量の音楽が流れる。色とりどりのペンライトを手に身体を揺らし、満面の笑みを浮かべているのは……後期高齢者

 東京・目黒区。目黒川沿いに建つ高齢者施設、社会福祉法人三交会『青葉台さくら苑』で昨年末、高齢者向けのダンスイベント『ロマンディスコ』が開催された。日頃は団らんを楽しむ場である食堂がイケイケのダンスホールと化し、施設利用者たちは大音響のなか、“非日常空間”を楽しんでいた――。

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音楽に合せてノリ始め…

 さて、いつもの食堂がダンスホールへと変わった『青葉台さくら苑』。どんなことが始まるのか、と興味半分、怖さ(?)半分の施設利用者たち。やがて室内は暗くなり、ミラーボールが回り始め、投影されたビデオ映像がムードを盛り上げていく。

ふだんの食堂がカラフルなダンスホールに!介護士やスタッフらも一緒に盛り上げる

「これから始まる『ロマンディスコ』は、高齢者の健康増進などを目指して介護施設などで実施しているディスコイベントです。興奮しすぎて、入れ歯が飛ばないようにね(笑)。では今から、最高の時間を作りましょう!」

 DJの呼びかけとともにイベントはスタート。鳥羽一郎の『兄弟船』、美空ひばりさんの『川の流れのように』、フィンガー5の『学園天国』――。'70〜'80年代の演歌や歌謡曲のヒット曲が、メドレーになって流れ始めた。開催地にちなんで、桜が満開になった目黒川や、昔の目黒の街並みの映像が壁いっぱいに映し出される。

 最初は怪訝そうな表情を浮かべていた参加者も次第にペンライトを振り、身体でリズムをとり始める。DJから差し出されたマイクで歌い始める人も。中盤には、日本舞踏春謡流名取師範の岸田里佳さんが曲に合わせて舞踏を披露。静岡で行われた『ロマンディスコ』に続き、2回目の参加という岸田さんは、

「古典ではなく、歌謡曲などに合わせて踊る“新舞踏”といったものです。もしかしたら、ご覧になっている方のなかにも日本舞踊をやられていた方もいるかもしれないので、そこで懐かしさなどを感じていただければな、と」

“こういうの初めて”

 明かりを消し、大音響を怖がる人もいるのでは? と心配もしていたが、参加者は終始ノリノリ。イベントは大成功のまま幕を閉じた。最前列で参加した女性は、

「楽しくて楽しくて。私、こういうの初めてなんですよ。今まで田舎に住んでいたんだけど、こんな楽しいものが見られるなんて、東京に来て本当によかったわ(笑)。またやってくれないかしら」

 と、ご満悦。実は、'70年〜'90年代初頭のディスコブームを牽引したのが、現在の60代から70代だ。

「ハルメク 生きかた上手研究所」が50〜86歳の女性490人に行った調査によると、ディスコに行ったことがあると答えたのは全体の58・8%と、6割近くに。非日常を楽しめて、音楽を聞きながら全身運動をすることによって、脳の活性化も期待できると、いいことずくめなのだという。

 また、このディスコイベントの開催直前にはDJ体験ができるブース、ネイルやメイクを楽しめるブースなどが作られ、お祭り気分を盛り上げた。最新のDJ機材を提供したAlphaThetaの担当者は、

「みなさん、DJ機器に触るのはもちろん初めての方たちばかり。でも、自分たちで選曲した曲に合わせて機材に触れていく中で“この年になって新しいことに挑戦できて嬉しい”といった声もいただきました」

 と話す。中には97歳で初めてDJを体験したという人もいて、参加者全員が夢中になってDJ気分を味わっていたという。

ドキドキワクワクを

 このイベントを企画しているのは、介護福祉士でDJの「GEN」こと大滝亮輔氏。なぜ高齢者施設でディスコイベントを始めたのだろうか。

「僕は介護士の資格を持っていますし、DJもやっています。最初、このふたつは関係ないものだと思っていたのですが、ひとつにしてみたら面白いのでは、と思って。そこからスタートしました」

 と、GEN氏。6年ほど前に自身が勤めている施設で始めたという。その時はDJのGEN氏と、ビデオ映像などを投影するVJ係の2人だけだったという。

「最初はみなさん、ボーっと見ていただけだったんですけど、次第に身体を動かすようになってきて。何歳になっても、ドキドキワクワクする新しい体験をしてほしくて始めたので、これはうまくいくかな、と思いました。

 音楽だけではなく、その土地の昔の映像も一緒に流したのがよかったのだと思います。介護もその人に合ったケアの仕方があるように、流す映像も昔の記憶を辿れるように、開催場所それぞれで変えるようにしています」(GEN氏)

「楽しむ福祉」を全国に

 今回、イベントを開催した『青葉台さくら苑』の施設長、坂井祐さんは、

「正直、どんな感じになるんだろうと私は不安でした(笑)。音はどれだけ大きいのか、真っ暗にしたら利用者さんが転んでしまうのでは……とか。でも、うちの職員もノリがよくて“やってみましょう”と。そこはすごく助かりました。利用者さんもですが、職員のほうも楽しんでくれたみたいなので、やってよかったと思います」

 こんな声を聞きながら、GEN氏はこれからの展望をこう語る。

「もちろん全国展開したいと思いますし、今だとSNSでバズりやすいので、オリジナル曲を作って簡単な振り付けをみんなでシェアするのもいい。TikTokなどで露出していきながら、福祉や介護に全然興味がなくて、知らなかった人に知ってもらうことが大事だと思うんです。このイベントが広がることで、業界自体も盛り上がればすごく嬉しいですね」

 1月には宮崎と岐阜で、2月には世田谷、茨城で開催された。4月には名古屋で開催される 大規模福祉音楽イベントに出演、5月には山陰での開催も予定されている。まさに全国規模のイベントとなってきている。

「支えるだけじゃない、楽しむ福祉。福祉×エンタメは最強です」

 人生100年と言われる現在。ただ生きているのではなく、日々を楽しく生きてこその人生ではないだろうか。『ロマンディスコ』は、その希望のひとつになり得るのかもしれない。

取材・文/蒔田稔

デイリー新潮編集部