なぜ実写を活用するVTuberがいるのか バーチャルな人たちのさまざまな“在り方”を知る
バーチャルとリアルの姿、両方で活動する配信者「XTuber」という語が株式会社PANDORAによって商標登録され、話題だ。
(関連:【画像】もはやバーチャルは概念なのか 完全実写化を果たしたVTuber・おめがシスターズ)
PANDORA社のプレスリリース(※1)を読むと、あくまでも概念として確立するための提案とのことで「個人・団体を問わず、自らの活動を表す文脈で『XTuber』と名乗ることは、基本的に自由であり、当社としてもそのような形で言葉が広がっていくことを歓迎しています」と明記されている。「特定の企業やサービスによる独占的・排他的な利用」を防いだり、「先使用権についても認識している」ことを明確にしており、いわゆる「商標トロール」のようなことをするつもりはない、ということだ。
同社が先使用権について触れているように、かつてからバーチャルアバターだけではなく、リアルな姿も活用して“2.5次元”的に活動するVTuberは多く存在している。そこで今回の記事では、こうしたVTuberたちの在り方の変遷と、特に全身を実写で見せてリアルとバーチャル両方を行き来しているVTuberたちを紹介していきたい。
■「アバターを身にまとう配信者」だけじゃない、VTuberの在り方
VTuberといえば、なんらかのキャラクターアバターをまとって配信をしたり動画を撮ったりするもの、というのが一般的な認識になっていると思う。
アバターをまとうことには多くのメリットがある。まず、なりたい姿で活動することができるというのは大きいだろう。性別、種族、年齢などを飛び越えて、好きなビジュアルを選択することができる。キャラクター性を持たせ、自身の世界観を作ることができるのも大きな利点だろう。お姫様、魔王、宇宙人、学生、動物など、好きな物語的背景を持った存在になってロールプレイしながら配信活動をすること自体に楽しさを見いだす者も多い。
また、実写の姿を出さないことでプライバシーを保護できるというのも、大きな利点のひとつだろう。リアルの生活を匂わせなければ、日常にネガティブな影響をきたすことなく、たとえば会社員として働きながら目いっぱい配信活動を行うことも可能だ。
しかし、こうしたVTuberたちの中にはきちんとしたアバターを持っているにもかかわらず、あえて実写の姿を見せて活動する者もいる。そして、そんなVTuberたちは年を追うごとに増えている。
■なぜVTuberが「実写動画・配信」を行うのか
そもそもの前提として、現在でもVTuberの大半は実写の姿(アクター)を映すことがほぼない。あくまでも2Dや3Dのアバターをメインに用いて活動している。VTuberを見ている側からしたら、しゃべっているのはアバターのキャラクターに他ならないのだから、黒子に近いアクターの姿は見えなくて当然だ。むしろ、実写の手足や身体が映るのは放送事故とされることのほうが、かつては多かった。
ただ、VTuberがアバターのみで活動する場合、企画の内容に制約が生じてしまうのも事実。Vlogのような外出ロケ動画や、食べ物を扱う動画、物品の開封動画、ボードゲーム動画、リアルな人間とのコラボ動画など、現実に干渉するような企画を行うときが顕著だろう。
この制約を乗り越えるために、アバターが実写に混じりこむAR技術を用いたり、自身のアバターに近い着ぐるみやパペットを用意したりしてキャラクター性を保持するVTuberもいるが、これには大変な労力がかかる。
こうした中で、思い切って自身の手など、、顔以外の実写の姿を映すVTuberが現れ始めた。加えて、普段はバーチャルの姿で活動しつつ、ライブイベントに出演する際は生身で出演するVTuberも、多くはないが出てきている。
こうした変化を語る上では、発信側だけでなく受け手側--つまり、視聴者側の受容の変化についても触れる必要がある。視聴者側が色々なネット文化(ストリーマー文化や歌い手文化など)の文脈を咀嚼したうえで、VTuber側の表現の意思を尊重するようになり、実写でも「アバターと同じ人物(キャラクター)」だと受け入れられるように変化してきたことは、非常に大きな要素だろう。
■はんなま系XTuber「ナギナミちゃんねる」の衝撃
ここからは、バーチャルの姿とリアルの姿両方で活動するVTuberたちの中から、主に全身を出したことのある面々を一部ご紹介したい。
海月ナギと飛鮫ナミのふたりが活動していた「ナギナミちゃんねる」は2019年7月の活動当初から「はんなま」を売りにしてきたVTuberだ。バーチャルな自分たちがリアルの世界とクロスすることから「XTuber」を初期の段階から名乗っていた。
そもそも2019年当時は、実写の世界を撮影するVTuber自体があまり多くなかった時期だ。そんな中「アバターの姿で実写世界に飛び出す」映像は、多くの人を驚かせた。
基本的にはアバターでの動画が中心だが、このふたりはアクターの実写の手や身体を撮影する動画も頻繁に出しているのが特徴。実写とバーチャルの垣根を行ったり来たりする様子は当時としては斬新だった。
2022年3月31日にナギナミちゃんねるは休止を宣言したが、その後もゆるやかなペースで活動は行われている。 2025年12月の配信でも、バーチャルアバターの姿と実写の姿両方が同時に映され、はんなま系XTuberとして活動する姿を見ることができる。
■VTuberは自由だ! おめがシスターズの変遷
おめがシスターズ(以下、おめシス)は現在、バーチャルアバターだけでなく、「顔だけアバター」「身体は実写」という特殊なスタイルで活動をしている、かなり珍しいタイプのVTuberだ。今となってはこのスタイルを見慣れた人も多く、逆にバーチャルの姿のおめシスのほうがレアなくらいだ。
もっとも、おめシスのふたりもいきなりこのスタイルで活動をしたわけではない。ここに至るまで「リアル」と「バーチャル」の垣根を越える挑戦を彼女たちは幾度も繰り返してきた。
2018年初頭というかなり早い段階から「バーチャルの姿でリアルに飛び出す」動画を撮っているおめシス。当時としては非常に珍しいスタイルの動画で、その技術力の高さも相まって、リアルに飛び出すVTuberの先駆けとして多くの人を驚かせた。
2022年には実写+バーチャル顔のVTuberとして活動を本格化。最初はおめがリオも、実写で登場したおめがレイに対して「なにやってんの!? ちょっとやめて! 出てこないで」と制止していたほど。以降は赤と青のパーカーを着た実写おめがシスターズが、顔だけバーチャルな姿で登場するのがデフォルトになってくる。
おめがシスターズの場合は、自身の見せ方を技術実験的に捉えている部分もあるようだ。2023年には、アバターの姿でリアルに登場し物体に干渉する様子を撮影、XR技術のテストとして動画でアップしている。
また、2023年11月にはかぶりものを作ることで完全実写化。2024年3月2日にはサンリオピューロランドで1stリアルライブ『モンスターカミング』をこの姿で行っている(※2)。
バーチャルとリアルの両方を使い分けているおめシス。既成概念にとらわれず新しいことに挑む姿勢を持っているふたりにとって、リアルへ飛び出すことは表現の幅を広げる意味では必然の挑戦だったのだろう。ふたりなら、今後さらに新しい撮影スタイルを見せてもおかしくはない。
■暗黙の了解を“あえて”突き破っていくあおぎり高校
「中の人」「転生」などのような、VTuberの間で暗黙の了解的に避けられている言葉でも、バンバン使ってタブーを破り続けているのが、VTuberグループ・あおぎり高校の面々だ。彼女たちも基本的にはアバターを利用した配信を行っているのだが、メンバーの中には手や身体を出すことに躊躇のないタレントもいる。
たとえば上記の動画はあおぎり高校の公式チャンネルの企画だが、素手の写真を参加者に撮ってもらい、誰の手か当てるというゲームを行っている。見ている側のほうが「身バレするのではないか」と心配してしまうくらいのあけっぴろげっぷりだ。
ロケ動画では全身を映すことも多く、ときにはかろうじて顔だけアバターの写真で隠したり、ぬいぐるみだけ持っていることなどもある。必ずしも全員が全身を映すわけではなく、メンバーによっては足は撮影NGなどのように、個々で線引をしているようだ。
メンバーの中では、特に音霊魂子や栗駒こまるなどがバンバン実写動画を出しており、普通であれば絶対に見せないようなモーションキャプチャー時の姿(トラッキングスーツを着た姿)まで公開している。この「なんでもあり」感があおぎり高校のフリーダムなスタイルとして人気になった。
動画には「コレ見せて全然問題無いあおぎり高校最強だよな」「やっぱこういうことできるあおぎりは最高やな」といったコメントも寄せられており、実写を見せるスタイルはすっかり「あおぎり名物」になりつつある。
■釣りをするなら実写は必須 うおむすめの積極的実写活動
魚や釣りをもっと身近に感じてもらいたい、という思いをきっかけにスタートしたVTuberプロジェクトの「うおむすめ」。公式WEBサイト(※3)では「お魚たちの魅力を伝えるために、VTuberとして活動する女の子たち」と、あくまでもVTuberであることを明言している。
しかし、「うおむすめ」は実写のロケ動画がものすごく多い。比率としてもバーチャルよりリアルのほうが多いのは、VTuberとしては珍しいだろう。これは「うおむすめ」が“釣り”を題材にした活動をしているからに他ならない。3Dアバターを所有していればまた変わるかもしれないが、釣りと魚の魅力をダイレクトに伝えられるのはやはり実写ということなのだろう。
このスタイルが人気を博し、メンバーのひとりである桃川ニジマスは9.63万人(2026年3月18日現在)もの登録者数を誇るチャンネルになっている。
ただ、バーチャルと実写の比率の問題で齟齬が生じ、トラブルが起きたこともあった。活動者のひとり紅波マダイ(の初代)は、最初から実写ロケがあることは話されていたそうだ。しかし本人はVTuberとしての活動をメインにしたかったようで、リアル寄りの活動が増え続けていく中、運営との方向性の違いが発生。話し合いの結果、現在は紅波マダイの“二鯛目(にたいめ)”にタレントがバトンタッチしている。
他のメンバーはリアルでの活動にはかなり積極的なようで、釣り大会の際も「リアル参加して、リスナーさんと一緒に釣りがしたい」と申し出があったほどだという。グループとしての活動の場合、「リアルとバーチャルのバランス」の統一化は繊細な問題のようだ。
■声優との関係はいかに? 熊野ベアトリーチェ、夜羽咲クロネ
MEWLIVE所属で「声優の小岩井ことりに飼われている」という熊乃ベアトリーチェも、2D、3Dのバーチャルアバターの他に「生身ボディ」を使用しているひとりだ。彼女は自身のスタイルを「半生VTuber」と名乗っているのが特徴。初配信の次の配信で早速正拳突きを実写で披露し、察しのいいファンを盛り上げた。
普段はバーチャルアバターを主に用いているのだが、ライブやお渡し会のときは生身で登場している彼女。配信でもプラモデル制作などのときは生身を映すこともある。
同じくMEWLIVE所属の夜羽咲クロネは、基本的にはバーチャルアバターを用いた配信や動画をアップしているVTuberだ。彼女は「声優の鈴原希実のいとこ」らしい。
北九州ポップカルチャーフェスティバル2025のライブイベント出演の際、夜羽咲クロネと鈴原希実の精神が入れ替わってしまったことがある。その際「夜羽咲クロネ (⇆鈴原希実)」という名義で、ステージに登場。「いとこの鈴原希実」の身体を借りつつ、夜羽咲クロネのいつもの衣装をまとって登壇し、ライブを行った(※4)。
そして、このロジックを解説するために、ボイスコミックを制作しているのは注目したいポイント。バーチャルなキャラクターの世界観を大切に保持しつつ、「他人の姿を借りる」という形式でリアルに登場した、珍しい例だ。
■リアルとバーチャルをつなぐパラレルシンガー、七海うらら
元々シンガーとして活躍していて、その後VTuberになった、という来歴を持つのが、七海うらら。VTuberとして活動する以前から音楽・クリエイター活動をしていて、2022年6月24日にVTuberとしてデビュー、初配信を行っている。
「リアルとバーチャルを行き来するパラレルシンガー」であることを明示している彼女は、現在エイベックス・エンタテインメント株式会社の「muchoo」に所属している。
公式サイト(※5)や公式Xでのアーティストビジュアルもユニークだ。実写の身体を写しつつ、顔はフレームで隠し、そこにバーチャルの姿を投影している。彼女のパラレルシンガーとしてのスタンスがよくわかる1枚だ。
ライブ配信などは基本的にバーチャルアバターを活用しているが、動画では時折顔を隠した状態で実写のシンガーとして登場しているのが見られる。
パラレルシンガーならではの姿は、ワンマンライブでの映像が最もわかりやすいだろう。彼女はこのライブで、リアルとバーチャル両方の姿でステージに登場し、数多くのファンから声援を受けている。
■猫から人へ、そして実写へトランスフォームした奏みみ
2019年にバーチャルなぽっちゃり猫の姿でデビューした奏ミミ。後に2020年に猫耳人型の姿に生まれ変わると、2023年10月には実写の人間の姿にもなれるようにさらなる進化を遂げた(※6)。
彼女は自身を「トランスフォームシンガー」と呼んでいる。変身出来るようになったのは「色んなイベントやフェスに出たい」「アーティスト人生で出来る限りチャンスを掴みたい」という理由からだと語っている。
■バーチャル身体を持ちつつリアルの姿でもライブを行う心世紀、VARIS
御莉姫・佳鏡院・硝子宮の3人組によるアーティストユニット、KAMITSUBAKI STUDIO少女革命計画の「心世紀」は、「リアルとバーチャルという二層の狭間から声を届ける、3人組のXtuberユニット」だ(※7 公式WEBサイトより引用)。現実の身体とバーチャルの身体両方でライブや動画投稿を行うユニットとして、2024年から活動している。
普段の動画投稿や配信活動ではバーチャルの身体を使用しているが、ライブは現実の身体で出演するスタイルをとってきた心世紀。しかし、直近開催された『サンリオバーチャルフェスティバル』ではバーチャルアバターでのVRライブを行い、ファンを歓喜させた。
SINSEKAI RECORDのVALISもバーチャルの姿、リアルの姿両方でライブや動画活動を行っているグループだ。CHINO(チノ)、MYU(ミュー)、NEFFY(ネフィ)、NINA(ニナ)、RARA(ララ)、VITTE(ヴィッテ)の6人(NINAは2024年3月8日に卒業)で活動していたVALISは、アバター姿での活動を主軸としながら、リアルの姿を「オリジン」と呼び、そちらの姿でも積極的なライブ活動を行っていた。
2025年6月11日にグループの無期限活動休止が発表され、現在は主だった活動はなされていない。バーチャルとリアル、両方において復活が待たれるグループだ。
■バーチャルとリアルをまたいで活動する覚悟
実写撮影の技術的な苦労、メリット・デメリットについては、おめシスの動画を参照するとわかりやすいだろう。実写だと衣装小物が楽、食べ物系を見せやすい、身振り手振りの表現がしやすいなど、数多くのメリットがあると同時に、デメリットとしてリアル衣装の置き場問題、ライトやバッテリーなどの物理的問題などを挙げている。
おめシスの挙げた例に限らず、VTuberがリアルとバーチャルをまたいで活動することには、一定程度デメリットがあるだろう。特に大きいのは世界観が崩れることだ。バーチャルなアバターにキャラクター性を持たせ背景も作っている場合、実写の身体を出すことは自身の物語性にノイズを乗せてしまうことになる。
またバーチャルアバターが好きでファンになった人たちからすれば、実写のアクターに困惑するかもしれない。上記のような先駆者たちの活動の甲斐もあって、今でこそ実写でも受け入れられやすい土壌ができているが、それでも実写が苦手なファンが離れてしまう可能性は十分にありうる。
それでもリアルとバーチャルの両方で活躍しようとする人が増えているるのは、実写で表現したいと感じているものがあったり、活動をする上での利便性など、それぞれの理由があるからだろう。実写に挑む際は「なぜVTuberなのに実写の姿も見せるのか」を視聴者に納得してもらうためのはっきりとした方向性の明示と、両方でやっていく覚悟が必要になってくる。
VTuberは、あくまでも表現の幅を広げるための自由な手段であって、しばりや枷ではない。アバターで世界観を守るタイプのVTuberもいれば、実写を見せるタイプのVTuberもいる現在は特に、「VTuber」という言葉でひとくくりに語るることはできないところまで広がってきている。そんな今だからこそ、言葉に束縛されることなく、活動者それぞれの信念で、自由に新たな表現を模索していってほしい。
〈参考〉※1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000159425.html※2:https://panora.tokyo/archives/81645※3:https://uomusume.com/※4:https://e.usen.com/news/news-event/-2025-2025121328.html※5:https://avex.jp/nanamiurara/※6:https://www.moguravr.com/real-vtuber-mimi/※7:https://girlsrevolutionproject.jp/
(文=たまごまご)
