【小山 のぶよ】フランス「観光地の外国人向け二重価格」が国民のあいだで賛否…「入場料が安すぎる」日本で検討すべきこと
観光客の数に対して、交通や宿泊施設、ごみ処理など観光地側のインフラが追い付かなくなる状態を「オーバーツーリズム」と呼ぶ。文字通り、観光地側の受け入れ能力を越えた数の旅行者が集まることで生じる様々な問題を指す。昨今は、このオーバーツーリズムを解消するためのひとつの手段として、「観光地の入場料の二重価格」というものが議論されるようになってきている。博物館や寺院などの入場料を、日本人と外国人で別の価格に設定するというものだ。
しかし、日本社会ではそう簡単に二重価格を導入するわけにはいかないようだ。「日本の遺産なのだから日本人の価格が安く設定されるのは当然」という声もあれば、「外国人だけ割高な料金を払わせるのは差別にあたるのではないか」と危惧する声もある。
このように、是非が議論される観光地入場料の二重価格であるが、観光立国として古くから多くの旅行者を受け入れてきた諸外国ではどのように対応しているのだろうか。
前編【トルコの観光地「外国人向け二重価格」が衝撃の値段に…トルコ国民との「驚きの価格差」】では筆者が実際に旅した国の中でも観光客の数が飛び抜けて多いトルコの例を見た。後編ではフランスの例も見ながら、それらを踏まえ、日本の観光地はどのように対応していくべきかについても考えていく。
平等を掲げるフランスも二重価格を導入
続いては、なんと年間一億人以上の観光客が訪れるという、圧倒的世界一の観光客受け入れ数を誇るフランスの状況を見ていこう。
「自由、平等、博愛」を国のスローガンに掲げるフランスでは、いくら多くの観光客が訪れようが、観光地の二重価格を設定したり、レストランで外国人価格を提示したりということは、文化的に起こりにくい。何に置いても不平等であることをひどく嫌う人たちなので、「国籍によって値段を変える」という考え方自体が定着しにくいのだ。
もちろん、フランスにも観光地価格というものは存在する。世界遺産のモン・サン・ミッシェルにある有名なオムレツ屋なんて、オムレツ一つが最低でも40ユーロ(約7400円)はする。しかしこれは、フランス人であろうが外国人であろうが関係なく課される「観光地の割高飲食店価格」だ。それに価値を見出せる人は食べれば良いし、高すぎると思うのなら食べなければ良い。こうした「万人に対して平等に設定された価格をどう捉えるかはその人次第」といった感覚はいかにもフランスらしい。
こうして見ていくと、外国人観光客に対してもある程度平等に思えるフランスであるが、今年の初めにそれまでの価値観を大きく揺さぶる出来事があった。ルーブル美術館やヴェルサイユ宮殿など、世界的有名観光地の入場料における二重価格の導入である。
フランス国民の間では賛否
ルーブル美術館の例を見てみよう。これまでは、フランス人であろうがEU市民であろうが、それ以外の外国人であろうが、入場料は一律大人22ユーロ(約4000円)であった。日本人の感覚だと美術館に4000円というのはやや割高に感じるかもしれない。しかし、ルーブルは一日ではまわりきれないほどの広大な敷地に貴重な文化財が数多く展示されているわけで、フランスという国の物価水準を考えると、4000円という入場料は決して高すぎるというわけではないと思う。
しかしながら、2026年1月より、EU域外出身者のルーブル美術館入場料は、32ユーロ(約5900円)に大幅値上げされることになった。フランス国民やEU市民は値上げの対象とはならず、これまでと同じ22ユーロのままだ。
このいきなりの値上げ発表に対し、フランス国民の間でも賛否が分かれたという。「出身地によって価格を変えるのは平等の精神に反する」と言う人もいれば、「世界一の観光立国が発展途上国のような二重価格を設定して恥ずかしくないのか」と憤る声もあった。しかしながら、この値上げによってもたらされる経済効果は非常に大きいと試算されているようで、客足への影響はまだ出ていないようだ。やはり世界的に知名度があるルーブル美術館であるから、いくら値上げされようが行く人は行くのだ。
日本の観光地の現状
日本よりも長い期間にわたって、観光立国として多くの旅行者を受け入れてきた国々の状況を見ると、観光地入場料の二重価格というのは世界的な流れだと言えるかもしれない。上で挙げた国以外にも、エジプトのピラミッドやインドのタージ・マハル、カンボジアのアンコール・ワットやアメリカの国立公園など、世界的知名度がある観光地の多くでは、すでに二重価格が導入されている。しかも、どの場所も現地人料金と外国人料金の間にはかなりの価格差があり、驚かされる。
それでは、日本の観光地の状況はどうだろうか。数ある名所の中から外国人にも知名度が高い場所の入場料は以下の通りだ。
・清水寺(京都府):500円
・東京国立博物館(東京):1000円
・原爆資料館(広島):200円
・東大寺(奈良):800円
・富士山入山料(静岡・山梨):4000円
※価格は全て2026年3月現在の大人料金。筆者調べ。
いかがだろうか。トルコの各見どころにかかる5000円以上の入場料やルーブル美術館の6000円近い入場料が信じられなくなるほどに、安い。あまりにも安すぎると言っても良いくらいではないか。さらにいずれの場所も、現状では外国人価格というものはなく、大人料金と子ども料金が設定されているだけだ。
もちろん、広島の原爆資料館など「より多くの人に原子爆弾の恐ろしさを知ってほしい」という理念から、あえて低額の入場料を設定している施設もある。富士山の入山料4000円に関しては、他の施設に比べて少し割高であるように感じるが、実はこの入山料が導入されたのは2025年とつい最近のこと。それまでは完全無料で入山できていたというのだから驚く。
「高くても行く」層を大切にしてもいい
こうして見ると、日本という国は「先人が築いた遺産で金儲けをする」という概念が非常に薄く、「貴重な遺産だから多くの人が見て触れられるように」という考え方が先行している。世界遺産の歴史あるお寺がたったの数百円で見られてしまうなんて、外国人観光客からすると天国のような国だろうし、フランスなど比ではないほどに平等だと言える。しかし、世界的に見るとこれは普通のことではなく、「知名度がある場所にはそれなりのお金を払うのが当たり前」という考え方が主流なのだ。
日本の観光地のあまりにも安すぎる入場料設定を見ていると、さすがにこれは値上げするべきだと筆者は思う。お寺であれば1000円以上、博物館なら規模によっては1500円や2000円ほど取っても良いのではないか。修繕やメンテナンスにもお金がかかるわけだし、スタッフの人件費だってかかるのだから。入場料の値上げによって来なくなる層というのは存在するだろうが、諸外国の例を見てもそこまで大きな影響があるとは思えない。何度も書くが、その場所に価値を感じている人は、どれだけ値上がりしようが行くのだ。
また、現在の日本の観光地入場料の安さでは、「興味はないけど有名な場所だし安いからとりあえず行っておく」という層が集まりやすい点にも留意が必要だ。もちろん、どんな理由である場所を訪れようが自由だし、実際に行ってみたら良さに気がつくということもあるだろう。しかしながら、「安いから」で集まる層というのは、リスペクトに欠ける行動を取ったりマナーを守らなかったりする傾向があるというのは、残念ながら事実である。
「高いなら行かない」という層を篩にかけて、「高くても行く」という層を大切にすることは、観光地でのマナー向上に繋がるのはもちろん、過剰な混雑の緩和にも繋がっていくだろうし、旅行者自身の満足度の向上にも繋がる。正直、現在の安すぎる入場料で日本が得られるメリットは、あまりにも少ないように思う。
日本も入場料を見直すべき
日本は観光地の入場料を大幅に底上げするべきであるという筆者の考えを書いたが、それでは日本人と外国人の間で二重価格を設定するのはどうだろうか。
個人的には、現在の世界的な流れを汲んだ上で、日本人と外国人で異なる価格を設定することには賛成だ。むしろ基本料金を高めに設定しておいて、日本国民割引のような設定をするのがスマートかもしれない。この割引は日本人のみならず、外国人居住者や外国人学生など日本に合法的に住む外国人にも適用可能とすれば、不平等感は生まれにくいのではないか。外国出身であろうと日本出身であろうと、日本国内に居住している人なら平等に割引が受けられるのだから、外国人差別にも当たらない。
とにかく、今の日本のオーバーツーリズム状態においてこの観光地入場料の安さでは、釣り合わないことがあまりにも多くあるだろうし、各種問題は一向に解決しない。日本は、これまでの「おもてなし」の概念を根本的に見直すフェーズに入っているのかもしれない。
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