上司が追いつめられるケースも(写真はイメージです)

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 第2回【“被害者を精神的に追い詰める”だけではない…「フキハラ」が職場を崩壊に追い込む“2つのリスク”を専門家が解説】からの続き──。警視庁が「不機嫌ハラスメント」を認定し、処分を下した警視正の男性には約100人の部下がいたという。ところが「フキハラ」を巡ってはネット上で「不機嫌になった部下が上司を威圧するという“逆フキハラ”も相当に多い」との訴えが非常に目立つのだ。(全3回の第3回)

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 担当記者は「普通、職場で問題となるハラスメントは、権限を持つ上司に部下は逆らえないという上下関係が背景にあります」と言う。

上司が追いつめられるケースも(写真はイメージです)

「ところがパワハラの概念が広まるにつれ、部下が上司に暴言を吐いて精神的に追い詰めるといった事案も浮かび上がってきました。上下関係のベクトルが逆なので、これを“逆パワハラ”と呼んでいます。“逆フキハラ”に関する記事やSNSの投稿もありますが、まだフキハラは比較的新しい概念なので、それほど認知度は高くないようです。それでもXやテレビの街頭インタビューでは、『フキハラは上司より新入社員のほうが目立つ』とか『部下をやんわりと叱責したら、逆ギレされて睨まれた。「納得できないなら言ってほしい」と頼んでも「別に」と不機嫌そうに言われた』といった具体例が報告されています」

 日本ハラスメント協会で代表理事を務める村嵜要氏は「この逆フキハラは、職場のハラスメント研修で取り上げるテーマの一つだと考えています」と言う。

部下も加害者になり得る

「旧来型のハラスメント研修では、どうしても『加害者は上司』、『被害者は部下』という図式が強調されてしまいます。しかし部下も被害者だけでなく加害者にもなり得ると示すことで、ハラスメントは働いている人、みんなの問題だという認識が生まれます。さらに『部下のフキハラ』を研修で取り上げると、上司のためにもなります。『なぜ自分たちだけがハラスメントに気をつけなければならないんだ』という不満や、『いつも笑顔を浮かべなければならないのか』という不安を和らげる効果が期待できるからです」

 とはいえ、研修で取り上げる必要性は分かっても、「部下の上司に対するフキハラ」は具体例が少ないと考える人も多いのではないだろうか。ところが村嵜氏は「すでに判例があります」と言う。

 調べてみると新聞も報じていた。2025年12月5日、朝日新聞の栃木県版は「『部下からハラスメント』和解 不遜な態度をされ適応障害、2カ月休職」の記事を掲載している。栃木県内の自治体に勤務する30代の男性上司が、女性の部下を訴えた民事訴訟だ。

 男性と女性は業務資料の作成を巡って意見が対立したが、男性の提案が採用された。これに女性は反発。周囲に聞こえる声で二人の上司に「明日、お休みいいですか? (男性の)顔も見たくないので」と話しかけるなど反抗的な態度を示し続け、男性は心身のバランスを崩して約2カ月休職した。

 確かにフキハラの加害と被害の具体的事例だと言える。

職場の上下関係は相対的

 男性は慰謝料を求めて民事訴訟を提訴した。最終的には女性が反省し、3万円を支払うことで和解が成立したという。

「ポイントは男性の上司は異動で職場に来たばかりで仕事の経験が浅く、部下の女性は経験が豊富だったという点です。つまり表面的には上司と部下ですが、部下のほうが上司よりも力量を持っていると言えます。上司からすると、部下に働いてもらわないと仕事が回らない。そのため上下関係が逆転してしまったわけです。このような事例を見ても、職場における上下関係は相対的なものだと分かります」(同・村嵜氏)

 とはいえ、ネット上では「不機嫌になったくらいでフキハラに認定されるなんておかしい」という意見も多い。そして村嵜氏は「その気持ちはよく分かります」と理解を示す。

 第1回【警視庁幹部の“フキハラ認定”に「不機嫌ぐらいでハラスメント?」とSNSで異論殺到 …専門家が「納得できないという気持ちも分かります」と理解を示すワケ】では、村嵜氏が「不機嫌とフキハラの違い」を詳細に解説する──。

デイリー新潮編集部