【木村 隆志】不安視された「NetflixのWBC独占配信」が大好評でテレビ局に激震…その一方で浮かび上がった課題とは

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独占配信への賛否が飛び交う状態

大谷翔平の侍ジャパン合流以降、現在までエンタメの話題はWBC一色という状態が続いている。

10日夜で日本ラウンドの全日程が終わり、残すはアメリカでのトーナメント戦のみ。4戦全勝で準々決勝進出を決めた侍ジャパンは、15日(日)朝10時から優勝候補の一角ベネズエラと対戦する。

さらに勝ち進むと準決勝は17日(火)朝9時、決勝は18日(水)朝9時に試合開始予定。その際、ネット上には「仕事や学校をサボって観ている」という声があふれるのではないか。

初戦が行われた6日のチャイニーズ・タイペイ戦からここまで常に話題になり続けているのが、Netflixの独占配信についてだ。

知らなかった人から「どのテレビ局で放送されているのか」「無料では観られないのか」などと戸惑いの声があったほか、飲食店などで試合を映すこともNGなどのルールに不満の声もあがっていた。

一方で「Netflixの独占配信に変わってよくなった」という称賛の声もあがるなど、賛否両論が飛び交っている。さらにその間、放映権を獲得できなかったテレビの対応についても同様に賛否の声が錯綜。ただ、大会が進むにつれてNetflixにもテレビにもいくつかの課題が浮上していることも確かだ。

はたして今回のWBCはスポーツ中継をめぐる今後の行方にどんな影響を与えるのか。

野球ファンを喜ばせる万能性と演出

まずNetflixに向けられる賛否の声にはどんなものがあるのか。

称賛の声で最も多いのは画質の良さだ。感覚の個人差はあるだろうが「地上波より明らかにいい」というニュアンスの声が目立っている。次に多いのは「仕事や学校の合間にスマホやタブレットなどで観られる」「帰宅してからの追っかけ再生がしやすい」「巻き戻しボタンでリプレー映像のように観られる」という使い勝手の良さ。この点で地上波の放送は及ばないことは否めないだろう。

さらに野球好きからは「侍ジャパン以外の試合も容易にアクセスできる」というメリットをあげる声が増えている。特に12日午前は優勝候補・アメリカの行方を占うメキシコVSイタリア、勝ったチームが予選を勝ち抜くキューバVSカナダ、侍ジャパンの対戦相手が決まるベネズエラVSドミニカという3カードがそろい、朝から野球ファンを熱狂させた。

もう1つ野球ファンを喜ばせたのが映像演出だ。Netflixは「スタジアム以上の臨場感を目指す」と掲げて、投手や打者の背後などさまざまな角度・視点から巻き戻して見直せる立体的なリプレー映像「ボリュメトリックビデオ」、ホームベース周辺のカメラを通してボールの軌道やスイングを足元の目線から伝える「ダート・カメラ」、スタンド全体のうねりや球場のスケール感を上空からとらえる「インドアドローン」、球速・打球速度・打球角度・飛距離を表示する「スタットキャスト」を採用している。いずれも地上波ではなかなか観られない演出だけに、野球ファンを中心に称賛があがっていた。

それ以外では、民放のように大谷を過剰にフィーチャーした演出がなく、フラットに近い制作スタンスを称える声もあがっている。もし民放が今回も侍ジャパンの試合を放送していたら、彼らにとって重要な毎分視聴率のアップダウンを考えて、繰り返し大谷の映像をはさんでいただろう。その点、Netflixには毎分視聴率という縛りがないため、過剰に大谷ばかり映すことなく、多くの選手をピックアップした中継ができる。

思ったより「地上波と変わらない」物足りなさ

しかし、Netflixの中継をあまり評価していない人も少なくない。

今回、Netflixは試合中継を日本テレビに委託したため、「あまり地上波の放送と変わらなくてガッカリした」という声も散見された。前述した「ボリュメトリックビデオ」や「ダート・カメラ」などもPR不足なのか、それとも使用頻度の物足りなさか、「ほぼいつも通り」「もっと変わると思っていた」という印象なのかもしれない。

さらに「CMのタイミングなども含めてほぼいつも通り」と感じさせたもう1つの理由は芸能人の起用だ。実際、Netflix2026ワールドベースボールクラシックアンバサダー・渡辺謙とスペシャルサポーター・二宮和也、大会応援ソングの『タッチ』を歌う稲葉浩志の起用は、芸能人の起用でライト層を引きつけようとする民放の手法そのものだった。

現在の侍ジャパンは世界的なスター選手が多いにもかかわらず、芸能人に頼るというスタンスはいかにも前時代的に見える。高校生の恋愛を描いた歌詞の『タッチ』を起用し、センシティブな試合直前に生歌唱させるという判断も含め、国の威信をかけた真剣勝負のムードとの不一致を指摘する声があがっていた。

これらの指摘は現時点でのNetflixにおけるスポーツ中継、特に野球中継における現在地点を示している。今回は「地上波の放送とあまり変わらない」という印象の人も多かったが、もし次回があるなら、より独自性や進化を感じさせるものを見せたいだろう。

また、Netflixはこれまでも“入口”という点でドライなところがあったが、それは今回も変わっていない。Netflixのメインユーザーは10〜30代で年齢が上がるほど利用率は下がっていくだけに、オールドファンの多い野球は格好のコンテンツだ。しかし、「ほぼ半額」の期間限定割引を用意した一方で、登録手続きやネット環境の人的・組織的なサポートは少なく、「興味はあるけどあきらめた」という人々へのフォロー不足を感じさせられた。

さらに「野球への関心や大谷に好感を持った子どもたちが中継を観られない」という状況も推察される。これは後日、ヒアリング調査や少年野球への新規加入数などの影響を調べてほしいところだ。

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【つづきを読む】『「手書きボードでWBCを報じる」テレビ局の苦悩…《Netflix独占配信》が加速させたスポーツ中継の仁義なき戦い』

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