【深層インタビュー】″夜職専門″税理士・夜野仁が語る…新宿歌舞伎町「カネと欲望の事件ファイル」
夜の世界と税金
″眠らない街″新宿・歌舞伎町--そこから歩いて十数分、喧騒を抜けた先にネオン街で話題の税理士事務所がある。
営業時間は「応相談」。深夜でも朝方でもOKで、「夜職専門」なのだという。
「夜の世界で生きる人の多くが、税に関して何の知識もない。納税することで信用が生まれることも理解していない。知らないまま稼ぎ、知らないまま破滅していく。困っている人が多いのを知っている私は彼らを放っておけなかったんです」
端整な顔立ちが人目を引く夜野仁(よるのひとし)氏(32)。彼が抱える顧客600名の約7割がキャバ嬢、同じく約3割がホストだという。何より異色なのは、夜野氏自身が歌舞伎町のホストクラブで年間1億円を稼ぐ現役のホストだということだ。
「帳簿の数字だけではわからない、現場の空気やおカネの流れを体感しているので、夜職業界のリアルがわかるのです。たとえばホストって、同伴やアフターでは女性の飲食代を払う側なんですよ。店の売り上げだけを見ているとわからない支出が山ほどあるし、付き合いで消えていくおカネも多い。そういう夜職の仕組みを理解しているからこそ、″何が経費になり得るのか″ ″どこが危ないラインなのか″を具体的に説明できるのです」
もともと、夜職とは無縁の人生を送っていた。小学生のときに野球を始め、広島の名門高ではエースで4番。「本気でプロになれると思っていた」(夜野氏)。
だが、夢破れて税理士を目指した。
「小さいころ、プロ野球名鑑を見ていて、″1億円稼いでも3000万円くらい税金で持っていかれるんだ″って衝撃を受けたんです。そこから税金にボンヤリと興味を持っていて……キッカケはそんな些細なことだったんです」
一念発起して放送大学に入学。猛勉強の末に29歳で税理士試験に合格。公認会計士の女性と都内で税理士事務所を始めた。初めての顧客となったのが″オーナーが夜逃げしたニューハーフバーのチーママ″だった。
「チーママによれば『オーナーの夜逃げはよくある』らしく、問題は『マネージャーを名乗る男が現れてバーを仕切りだしたこと』でした。チーママたちが売り上げの7割を立てているのに『売り上げが足りないから給料を下げる』と言い出し、その一方で自分は″付き合い″と称してキャバクラで豪遊。帳簿を調べるとバーのママまで店のカネを使い込んでいました。
私はチーママに経費と娯楽費の違いを説明しました。常連客とキャバクラで遊んでも、それが御礼を兼ねた接待であり、売り上げに貢献するなら経費になる、と。『数字が苦手』だと言うチーママは私と顧問契約を結んで税務の一切を任せ、自分は営業に全振り。新規顧客開拓のための異業種交流会を開き、ちゃんと経費精算して還付金も貰って--家賃すら満足に払えていなかったニューハーフバーは1年を待たずに黒字となりました」
口コミと紹介で夜野氏は顧客を増やしていった。当時、インボイス制度の登録申請が始まっていたことから、「夜職の人々は税金で困るのでは?」と予想した夜野氏は30歳で独立して開業。事務所を新宿に出した。
「夜職の人って……新宿から離れた場所だと来ることができないんですよ(笑)。二日酔いやら何やらで4分の3がリスケ。だったら、彼らが働いている歌舞伎町や新宿二丁目の目と鼻の先に事務所を出せば来やすいだろうって発想です」
ホストとの″二刀流″を始めたのも、「営業の一環だった」と夜野氏は言う。
「ホストクラブの税務を頼まれたときに、『キャストが足りないから手伝ってほしい』と相談されたんです」
夜職人脈を駆使して初月から8700万円を売り上げ、ナンバーワンの座を獲得。TikTokで「税のお話」を配信する姿に惚れ込んだ太客も掴み、夜野氏は1億円プレイヤーとなった。
1億円の納税命令
カネと欲望が渦巻く歌舞伎町には、夜野氏のように年間で1億円以上稼ぎながら「一度も確定申告をしたことがない」というホストがゴロゴロいるという。
「あるとき、知り合いのホストから『東京国税局から電話が来ました』と相談がありました。聞けば、電話してきたのは国税局の資料調査課--″リョウチョウ″と呼ばれる、税務署では扱えないような大口で複雑、または悪質な不正が疑われる事案を専門に調査するエリート集団で、彼は数年間、無申告だと言う。正直、″これはヤバい……″と思いました」
彼が5年分の領収書を保管していたこと、調査官と会う前に相談してきたことが不幸中の幸いだった。
「大型のゴミ袋5袋とボストンバッグにパンパンに詰め込まれた領収書を見て思わず、『うわぁ』と声が出ました。帳簿も申告もない状態ではありましたが、″証拠が残っているなら戦える″と、税務調査に向け、急ぎ資料作成に入りました」
ただし、無申告である以上、加算税も延滞税も避けられない。
「生い立ちからヒアリングする刑事ドラマのような取り調べが行われました。ただ、雑談にも応じてくれる優しい調査官で″調査官ガチャ″としては当たりだったのですが--最終的に彼に提示された納税額は4000万円でした。
つい最近も、歌舞伎町の売れっ子ホストに税務調査が入り、1億円納税させられていました。稼いでいるのに無申告で『危ないよ』『そろそろ来るよ』って忠告していたんです。で、ようやく打ち合わせの日が決まったと思ったら、その1週間前にやられて……。申告さえしておけば6000万円くらいで済んでいたはず」
税務調査は6月ごろから秋にかけて行われ、まず店に国税が入り、芋づる式にキャストが挙げられるパターンが一般的だ。10〜11月になるとライバーやパパ活女子からの相談が増えるそうで、「無職なのにいきなり預金残高が増えている人が狙われているようです」(夜野氏)。
彼が「いまも忘れられない」と語るのが、「収監される前に確定申告したい」と相談してきた風俗嬢だ。
「闇バイトの片棒を担がされてしまったそうで……『5年近く入ることになる』と。そんな状況で納税しようという姿勢に感心しつつ話を聞くと、彼女は税金の知識がないために苦労した被害者でもあったのです。衣装はもちろん、化粧品やネイル代、エステ代も内容次第で経費になりますよ、と説明して申告したところ『こんなに税金が還ってきたのは初めて』と驚いていました。
美容整形だって経費で落ちるんです。上野のキャバクラで働いていた子が整形したことで六本木の高級店に採用されたら、時給が4000円から2万円にアップします。立派な営業努力だと税務調査官に説明できるわけです。もちろん、経費の一括計上には枠がありますから、『整形するなら来年度がいいよ』と時期も含めて私はアドバイスします。太客から高価なプレゼント攻勢を受けているキャバ嬢には『贈与税がかかる』と警告もしています」
税の知識を身に付け、自らを守ってほしい--そんな想いを込めて夜野氏は『夜職税理士 歌舞伎町の底辺と頂点で目撃した、税金と人生の実録』(イマジカインフォス)を上梓した。
「税金からは誰も逃げられない。自己破産しようが納税の義務は残るし、極論、死んだとしても親族に引き継がれます。カネは人を豊かにも、殺しもするのです」
ネオン街の裏側で、夜野氏は今日も夜職の人々と向き合っている。
『FRIDAY』2026年3月13・20日合併号より
