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ガラス板1枚に4.84TBのデータ。しかも書いたら終わりでメンテいらず。

ハードディスクの寿命は約5年、磁気テープでもせいぜい30年、といわれます。いまこの瞬間、私たちがクラウドに預けているデータや、図書館が必死にデジタル化している古文書は、気をつけなければ実は儚いものなのです。

そんなデータの「死」という問題に、Microsoftが驚くべき対策を出しました。

2026年2月18日、学術誌『Nature』に掲載された論文で発表した「Project Silica」の最新成果。それは、室温で100万年以上データを保存できるガラス製ストレージです。

レーザーでガラスの「内側」に書き込む

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使われているのは、耐熱ガラスの食器や実験器具でおなじみのホウケイ酸ガラス。急激な温度変化にも割れにくく、化学的にも安定した素材です。

12cm四方・厚さ2mmのガラス板1枚(だいたいCDと同じサイズ感ですね)に、フェムト秒レーザー(1フェムト秒は1000兆分の1秒)を精密な座標で照射します。レーザーはガラスの内部に、肉眼では見えないほど極小の「点」を打ち込んでいきます。この点の一つひとつが、データの記録単位です。

平面の写真が無数のドット(画素)で構成されているのと同じように、このガラスは縦・横・奥行きの3方向に点が積み重なった、立体的なデータの塊を構成しています。今回は301層にわたって点を刻みました。

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データの読み出しはカメラ付きの自動顕微鏡で行った画像をデコードして行います。それこそCDが多少傷ついても音楽が再生できるように、このガラスストレージもデータが1ビットも欠けずに復元できる仕組みだそう。

(ものすごく簡易的に説明してしまっているので、興味が尽きない方は『Nature』の論文をどうぞ)

収めることに成功したデータは最大で4.84TB。印刷された本に換算すると約200万冊分、4K画質の映画(1本約30GB換算)なら約160本分に相当します。

「1万年と2000年前から愛してる」も余裕で実現

ガラスへの高速データ書き込みを実現する「ライター」
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従来のHDDや磁気テープは、10年ほどで劣化してしまいます。大切なデータを守るには、定期的にコピーし直さなくてはなりません。コストも手間もかかる、永遠に終わらない作業です。

でも、このガラスストレージは違います。一度書き込んだら、温度管理もメンテナンスも不要。どれくらい放っておけるかというと、290℃の高温環境に晒し続けても、1万年以上データが保持されると加速劣化試験で確認されています。

かの有名な「1万年と2000年前から愛してる」という想いも楽勝で残せますね。

しかも。室温環境ならさらに数十から数百倍の期間、つまりは10万年から100万年以上は保存できるのでは、と推定されています。HDDやテープなんて、もはや比較するまでもない長寿命です。

実験室を出て、現実世界へ

Silicaのシステム構成図
image: nature

Project Silicaが始まったのは2017年。以来、このプロジェクトはずっと「すごいけど実用には遠い」という壁と戦ってきました。

最大の課題はコストと速度。以前の実験では、より耐久性の高い融解石英ガラスを使っていましたが、製造コストが高く、書き込みも読み出しも遅い。「研究室の成果」の域を出なかったのです。

今回、安価なホウケイ酸ガラスへの対応によって、書き込み・保存・読み出しのすべてを自動化したシステムとして初めて実証されました。将来的な商業化においてもコストや入手性の問題がクリアしやすくなります。

ただ、まだ課題もあります。現在の書き込み速度は最大でも毎秒約8MB。4.8TBのガラス1枚を書き尽くすのに150時間以上かかります。それでも、「実装」への一歩を踏み出したことは間違いありません。

データが書き込まれたガラス板
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もっとも、私たちの生活のなかで使うにはオーバースペックなテクノロジーでしょう。それよりも、気候変動のデータ、絶滅危惧種の遺伝子情報、古代文書のデジタルアーカイブ……など、何世紀にもわたって残すべき情報は想像以上に多いものです。

1万年後の人類が、ガラスの板に刻まれたデータを読み取る。かつてロゼッタストーンが古代エジプトの言葉を未来へ届けたように、このガラス板は私たちの時代の記憶を、遥か先の誰かへと手渡すのかもしれませんね。

Source: Nature , Microsoft via IT之家

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