竹中平蔵「中国は日本に”攻撃”してくる」ベネズエラ侵攻で世界激変!サツキノミクス化した日本経済、高市総理に求められる大胆な改革
米国によるベネズエラ侵攻は世界に衝撃を与えた。経済学者の竹中平蔵氏は「テレビのコメンテーターなどは『国際法違反だ』と批判します。しかしそんなことを言ってもしょうがない」と指摘する。ではこの混沌とした世界情勢で、日本がやるべきこととはなんだろうか。竹中氏は「高市政権がこれをやらなければ日本経済は停滞の深淵へ転落する」と語る。一体、そのやらなえればならないこととは何なのか。これから世界はどう変わっていくのか。竹中氏が詳しく解説していく――。
「国際法違反だ」と批判してもしょうがない
アメリカのベネズエラ侵攻とマドュロ大統領の連行を見て私は、世界がいま完全に「19世紀型の帝国主義」の時代に入ったと考えています。アメリカは今、北南米で帝国を作ろうとしています。ベネズエラには石油という利権があるわけです。
かつて、国際社会は「主権国家はすべて平等である」という前提、いわゆるウェストファリア体制的な平穏の中にありました。しかし、もはやその建前は崩れ、力を持つ巨大な帝国が周辺を抑え込み、自らのルールを強いる「剥き出しの力」の時代に入ったのです。テレビのコメンテーターなどは「国際法違反だ」と批判します。しかしそんなことを言ってもしょうがないのです。もう国連も国際司法裁判所も機能しなくなってきているのですから。
アメリカという帝国、中国という帝国。そしてこれにインドやロシアがどう絡むか。この「帝国主義の再来」において、日本は極めて危うい境界線上に立たされています。本来、日本はアメリカ帝国の最前線に位置しながらも、地政学的には中国との「緩衝材(バッファ)」としての役割を果たすのが外交の妙手でした。しかし、昨今の「存立危機事態」を巡る踏み込んだ発言などから、もはや中国側は日本を緩衝材とは見なさなくなっています。
では、日本は「帝国」になれるのか? なれません。第二次世界大戦で擬似帝国を目指して敗北した歴史もありますが、何より人口と経済力の趨勢がそれを許さない。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の調査報告書「2050年の世界」によれば、2050年の日本のGDPは世界8位にまで転落すると予測されています。帝国になれない以上、日本が生き残る道はただ一つ。「無視できないほど質の高い、強い経済」を持ち続けること、これ以外に生存戦略はありません。
これはサナエノミクスではなくてサツキノミクス
こうした厳しい国際情勢の中で船出した高市早苗政権の経済政策「サナエノミクス」には、国内外から大きな注目が集まっています。しかし、その内実を細かく分析すると、そこには支持層が期待する「勇ましさ」とは別の、極めて現実的な力学が働いていることがわかります。
象徴的なのが、先ごろ発表された2026年度の政府予算案です。一般会計歳出は122兆円と史上最大を更新しましたが、前年度の116兆円から見れば、実はそれほど驚くような膨張ではありません。なぜなら、この予算の骨格は石破茂前政権による概算要求をベースにしているからです。高市総理は、既存の予算枠組みを無理にひっくり返す「アマチュア的な混乱」を避け、補正予算で自らの独自色を出すという「ベテランの味」を見せました。
たしかに2025年度の補正予算案は大胆でした。「国債はいくらでも刷っていいのだ」と主張するMMT論者たちと一緒に18兆円を超える補正予算案を政府は閣議決定しました。しかし来年度の予算に関してはその勢い緩めているようにも見えます。
この状況を、サナエノミクスならぬ「サツキノミクス」と呼ぶべきではないでしょうか。財務省の主計官まで務め、財政と金融の裏表を知り尽くした片山さつき財務大臣が、高市総理の掲げる「高圧経済」の看板を維持しつつ、市場の信任を失わないよう財務省との間で絶妙なバランスを取っている。積極財政を標榜しながらも、片山氏の手腕によって「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の回復すら視野に入っている。これが、今の日本経済を支える奇妙な均衡の正体です。
なぜ株高・円安が同時進行しているのか
いま、市場では「株高」と「円安」が同時に進行しています。一見、矛盾しているようですが、これらは同じ根っこから生じています。
まず株高についてですが、これは市場が「期待インフレ」を織り込んでいるからです。高市政権が掲げる高圧経済によって名目成長率が上がり、企業の売り上げが増えるという期待、そしてプライマリーバランスも重視している雰囲気が、日経平均株価を史上最高値圏へと押し上げています。
一方で、深刻なのは円安です。これは日本経済の「供給サイドの弱さ」を如実に示しています。需要をプッシュしても、それに応えるだけの供給能力――つまり労働力や生産性――が日本には足りないのです。
正気の沙汰とは思えない高市政権の農業政策
需要が供給を突き抜けてしまっているから、インフレが続き、一方で金利上昇は緩やかだから円建資産は低下し、通貨価値が下がり続けるのです。労働市場が硬直化し、成長産業への労働移動が起きないまま需要だけを煽れば、円安という形で日本の国力は漏れ出していきます。高市政権が実施している、供給サイドの改革を伴わない「ビッグプッシュ(大規模な財政出動)」は、通貨の信任を損なう諸刃の剣なのです。
かつて朝鮮戦争特需の際、日本経済がビッグプッシュで復活したのは、有効求人倍率が0.3倍程度で、仕事にあぶれた労働力という「供給余力」が大量に存在したからです。しかし、現在は人手不足が常態化しています。供給能力が限界に近いところでさらに需要を煽れば、起きるのは「良いインフレ」ではなく、実質賃金の低下を伴う「悪いインフレ」です。
供給サイドを強くしなければならないこの局面で、私が最も危機感を抱いているのが、農業政策の先祖返りです。政府がいま再び「減反政策」へと舵を切ろうとしているのは、正気の沙汰とは思えません。
経済の「体質」そのものを変える構造改革が不可欠
お米の価格を維持するために、補助金を出して作付けを制限する。これは、経済学的に見れば「生産性を上げるな」と言っているのと同じです。せっかく小泉進次郎・前農水省が改革に乗り出したのに、新政権下でいま「農水族」の政治的圧力によって台無しにされようとしています。
日本経済を真に強くするためには、財政という麻薬や、減反のような非効率な補助金に頼るのではなく、経済の「体質」そのものを変える構造改革が不可欠です。
まず、労働市場の流動化です。AI(人工知能)という革命的なツールが登場した今、日本にとってこれは救世主になり得ます。しかし、日本の厳しい解雇規制に基づいた「終身雇用」や「メンバーシップ型雇用」という昭和の遺物が、その導入を阻んでいます。金銭解決による解雇ルールの明確化を断行し、衰退産業から成長産業へ、労働力がスムーズに移動できる仕組みを作るべきです。
また税制の抜本改革も必要でしょう。現在議論されている「103万円の壁」の引き上げは、政策としては極めて「筋が悪い」。所得税の累進構造において所得控除を増やすことは、高い税率が適用される富裕層ほど減税の恩恵を受ける「金持ち優遇」そのものです。「給付付き税額控除」であれば、低所得者に確実に恩恵が行き渡り、将来的な「ベーシックインカム」への入り口ともなります。
中国がどんな攻撃を日本に仕掛けてくるのか
そして社会保障改革についても本格的な議論を始める必要があります。平均寿命が伸びている以上、年金の支給開始年齢を後ろにずらすのは算数上の必然です。現役世代から社会保険料を吸い上げ続ける構造を壊さなければ、若者の手取りが増えるはずがありません。国民負担率が50%に迫る現状は、もはや異常事態です。
さて帝国主義時代を迎える世界で、台湾有事が起きる可能性は上がっているのでしょうか。たしかに上がっているのでしょうが、ドンパチと大砲をうって台湾の経済を台無しにするようなことを中国はしないでしょう。香港のように、じわじわと、闘いをせずに侵略していくことを目指すのではないでしょうか。
そして緩衝材ではなくなった日本に対しても、今後は様々な形で攻撃を仕掛けてきます。訪日渡航者への自粛要請、レアアースの輸出規制などもそうです。そうやって少しずつ日本をスケープゴートにして中国国内の不満をかわそうとするでしょう。
高市政権が予算に自分たちのカラーを存分に出せるようになるのは2027年度からです。その時にどんな予算を建てるのか。2026年度予算案で見せた「現実的な管理」を、次のステップである「大胆な構造改革」へと繋げられるか。それができなければ、高市政権の積極財政は、日本経済を停滞の深淵へと「ビッグプッシュ」してしまうことになりかねません。

