(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢期に差しかかる親世代と、子育てや住宅ローンに苦しむ現役世代。両者の利害が一致した“親子の同居”は、家計的にも精神的にも「支え合いのかたち」として注目される一方で、価値観の衝突や生活スタイルの違いから、想定外のストレスを抱えるケースも少なくありません。“助け合い”のつもりで始めた親子同居は、なぜ崩壊寸前にまで至ったのでしょうか。

「孫の顔を見ながら暮らせるなんて、幸せだと思っていた」

千葉県内の一戸建てに暮らす渡辺啓一さん(仮名・68歳)。妻の美佐子さん(同・65歳)との間に成人したひとり息子・翔太さん(仮名・34歳)がいます。

2年前、翔太さん夫婦に第一子が誕生したタイミングで、「家賃がもったいないから…」という理由から同居を提案されました。

「私たちも年金暮らしに入るし、家も広いし、“助け合えるならいいね”と話して。孫の成長を間近で見られるのも嬉しかった」

総務省『家計調査報告(2024年)』によれば、無職高齢夫婦の月平均支出は約25.6万円。一方、可処分所得は平均22.2万円で、月3.4万円の赤字が生じています。当時、夫婦の年金は月19万円。退職金などを含めた貯金は約2,100万円。家のローンはすでに完済しており、「大きな出費がなければ、なんとか暮らしていける」と考えていました。

同居から半年が過ぎたころ、渡辺さん夫婦はあることに気づきます。

「翔太たちが生活費を一切入れないんです。食費も光熱費も、最初は“今月は出すね”と言っていたのに、そのままズルズルと」

また、翔太さんの妻・麻衣さん(仮名)は育休中で家にいることが多く、昼食やおやつも用意するのが当たり前のようになっていったといいます。

「“お義母さん、今日カレーが食べたいです”なんて言われた日には、私が台所に立つしかなくて…」

さらに、育児の主体も徐々に祖父母に移っていきました。

孫の夜泣き、深夜の洗濯音、休日の騒がしさ。穏やかな生活を思い描いていた渡辺さん夫婦にとって、それはじわじわと心身を蝕む日々でした。

「昼間は麻衣さんがスマホを見ながら育児を“任せる”スタンスになっていて、孫の面倒は全部私。翔太も帰宅が遅く、何か言えば“子育てって大変なんだよ”と返されるだけでした」

ある日、美佐子さんがキッチンで洗い物をしながらぽつりと呟きました。

「…私たち、家政婦と保育士みたいだね」

「お願い、出ていってください」…本音を伝えた夜

それから数週間後、ついに啓一さんが翔太さんに向かって、静かに口を開きました。

「――お前たちには、出て行ってほしい。俺たちの生活を、取り戻したいんだ」

その言葉を聞いた瞬間、麻衣さんは黙って涙を流し、翔太さんはわずかにうなずいて「……わかった」とだけ答え、自室へと戻っていったといいます。

「申し訳ない気持ちはありました。でも、このままでは、私たちが壊れてしまうと思ったんです」

啓一さんはそう振り返ります。

“家族だから安心”“一緒に暮らせば助け合える”――そうした理想とは裏腹に、現実には同居がストレスや疲弊を生むこともあるのです。

その後、翔太さん一家は近隣にアパートを借りて転居。同居を解消して約1ヵ月が経った頃、美佐子さんが口にした言葉が印象的でした。

「もちろん、さみしさはあります。でも……それ以上にホッとしています。“私たちの生活”が、ようやく戻ってきたような気がして」