海外では『ジャンプ』作品の楽曲が最強? DJ WILDPARTYと照沼健太が語る「アニソンとダンスミュージック」
今回は、ジャンルレスなスタイルで活躍し、9月13〜14にお台場で開かれるダンスミュージックフェス「ULTRA JAPAN2025」にも出演するDJ WILDPARTYさんと、フリー編集者・ライター・カメラマンとして活動しながら、YouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報|今の音楽がわかる」で音楽の最新解説を発信する照沼健太さんが対談。

DJ WILDPARTY(左)
エレクトロ、ヒップホップ、アイドルポップ、アニソン、ゲーム音楽、ブレイクコア、歌謡曲まで貪り尽くすウルトラ・ボーダーレスなスタイルで活躍するDJ、作曲家、編曲家
照沼健太(右)
音楽・カルチャー・広告等の分野でフリー編集者・ライター・カメラマンとして活躍。批評家・ライターの伏見瞬さんとのYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報|今の音楽がわかる」での音楽解説が好評
エレクトロ、ヒップホップ、アイドルポップ、アニソン、ゲーム音楽、ブレイクコア、歌謡曲まで貪り尽くすウルトラ・ボーダーレスなスタイルで活躍するDJ、作曲家、編曲家
照沼健太(右)
音楽・カルチャー・広告等の分野でフリー編集者・ライター・カメラマンとして活躍。批評家・ライターの伏見瞬さんとのYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報|今の音楽がわかる」での音楽解説が好評
照沼健太さん(以下、照沼):はじめまして! よろしくお願いします。
DJ WILDPARTYさん(以下、DJ WILDPARTY):よろしくお願いします! 照沼さんはいろんな形で音楽情報を発信されていますが、普段はライターがメインですか?
照沼:フリーのライター・編集者や写真家としていろんな音楽メディアで仕事をしつつ、最近は、批評家・ライターの伏見瞬くんと一緒にやっているYouTubeで音楽解説をしています。
DJ WILDPARTY:自分は18歳からDJのキャリアをスタートして今37歳です。ハウスやテクノといったダンスミュージックだけでなく、J-POPやアニソンを含めた様々な曲を現場に合わせてかけるスタイルでやっています。

照沼:もちろん、活躍は存じています。僕もアニメがすごく好きで、大学時代は仲間とよく好きな曲のプレイリストを作りながらお酒を飲んでいたのですが、インディーロックやテクノにアニソンも並べるみたいな、ジャンルレスの楽しみ方をしていました。でも、DJ WILDPARTYさんは、それを遊びじゃなくてDJプレイとして成立させているからすごい。
クラブで日本語の曲をかけるのはNGだった
DJ WILDPARTY:自分の世代ぐらいから、そういうふうにフラットに音楽を聴く人が増えたような気がしています。
照沼:確かに。昔って、特にロックバンドの人はアニソンを聴いていることを表に出せないみたいな雰囲気がありました。
DJ WILDPARTY:クラブ業界でも昔は、アニソンどころか“日本語の曲をかけるのがNG"みたいな時代が結構長くて。それがだんだん自分の世代やちょっと下くらいから、「J-POPをJ-POPとしてかける」流れが生まれてきましたね。

照沼:カルチャー的な側面も大きいと思いますが、クラブの大型スピーカーで鳴らされる前提のダンスミュージックと、家庭用スピーカーやテレビなどで聞く前提のJ-POPやアニソンでは、曲の作りが違いますよね。
DJ WILDPARTY:そうですね。だからPerfumeが出てきた時は、かなりDJたちに衝撃が広がりました。「そのままクラブでかけられるJ-POPが出たぞ!」みたいな(笑)
照沼:2000年代中盤から後半ぐらいですね。タイミングとしてはボーカロイドの「初音ミク」が世にでてきた時期でもありますね。ボカロの存在も、今の日本の音楽を語る上で重要な存在だと思っています。

DJ WILDPARTY:徐々にいろんなカルチャーが重なり合って変化していきましたよね。それでも、まだまだ2010年代前半あたりまでは、いわゆるオタクカルチャーにフラットじゃない時代が続いていました。
2013年に、アメリカのDJ・音楽プロデューサーであるポーター・ロビンソンと対談しましたが、当時、「アメリカでアニメ好きやオタクを公言するのはちょっと怖い」みたいなことを言っていたのが印象的でしたね。
TikTokの流行で日本のアニソンが世界のスタンダードに?
照沼:2010年代後半はオタクカルチャーと音楽業界が急激に混ざり合った印象があるのですが、そのきっかけになったのは何なんだろう…。

DJ WILDPARTY:ひとつは2018年ごろから、日本で10代を中心に広まっていったTikTokの存在がかなり大きいような気がします。「1分間でインパクトのある曲」となると、やっぱりアニソンやアイドルソングといったJ-POPってかなり印象に残りやすい。
照沼:確かに少し前までは、海外の人がJ-POPを聴くと「Aメロ、Bメロ、サビで全部違う曲に聴こえる」という声が上がっていました。TikTokなどの出現で、日本のそういった曲構成が世界的なスタンダードになってきている感じはします。

DJ WILDPARTY:短い時間でも印象的で退屈しない曲づくりが、アメリカでも相当意識されるようになって、どのジャンルでもそういう曲が作られるようになりましたね。
ULTRA JAPANで『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』が流される時代に
照沼:時代の要望に、元々キャッチーなアニソンが思わずハマった部分も大きそうですね。DJの視点で感じた変化はありましたか?
DJ WILDPARTY:それまではハウスやテクノの曲でじっくりと繋いで、雰囲気を作っていくというのが王道でしたが、フェスカルチャーの影響もあって、1曲の派手さでどんと爆発させる、みたいな形に特化するようになりました。そういった変化の中でアニソンもかけられるようになった印象が強いです。

ダンスミュージックのDJはいろんな国のフェスやクラブで、多い人は年間300本近くプレイするので、その国のヒットチャートに合わせて、ドロップ(盛り上がり)を作っていくカルチャーが強くあります。その文脈でアニソンが選ばれるようになりました。
ULTRA JAPAN2022かな、シドニー出身のDJティミー・トランペットが『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』の曲をかけて会場を盛り上げていました。誰に教わったのかわかんないですけど、最後は24時間テレビのテーマ曲『サライ』だった(笑)
ULTRA JAPANのどでかいステージでサライが流れているのはめちゃくちゃ衝撃でした。
ULTRA JAPAN2024ではスティーヴ・アオキが『ONE PIECE』の「ウィーアー!」で会場を盛り上げた(動画の54:09あたり)。今年はアニメカルチャーを取り入れたパフォーマンスが話題のBlack Tiger Sex Machineらが出演する
アニソンの曲作りに増すダンスミュージックの要素
照沼:日本語の曲がNGだった時代からすると信じられない変化ですね(笑) トラックメーカーの視点で感じる変化はありますか?
DJ WILDPARTY:バンド出身の人たちの、機材やPCでの作曲(打ち込み)がめちゃくちゃ上手くなっていると思っています。元ボカロPでアニソンにも多く参加している、キタニタツヤさんの楽曲にもダンスミュージックっぽい曲があったり、米津玄師さんが「Plazma」(『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』オープニング)で、打ち込みを改めて自分でやったことが話題になっていたりと、ダンスミュージックの要素が増えている印象です。
そういった人たちの曲がアニソンに採用されて、日本の音楽全体に大きな影響を与えているような気がしています。
照沼:リスナー側も音楽のリテラシーが上がっていると思っているのですが、学校でのダンス必修化の影響もあって、特にダンスリテラシーは高まっているんじゃないでしょうか。
DJ WILDPARTY:昔よりかなり浸透してきているのは感じます。DJとしてはめちゃくちゃやりやすいです(笑)。

必修化に加えて、さっき言ったようなポップスとアニソンとの融合が大きいような気がします。アメリカのアニメエキスポなどでDJをすると、オタクの人たちのダンスリテラシーの高さをすごく感じます。向こうではみんな昔から日常的にダンスミュージックを聴いている。踊りが自然と身についているから、アニソンでも、当たり前のように踊っているし盛り上がっています。
アメリカではみんなジャンプ作品のアニソンが大好き
照沼:そういう場面でDJ WILDPARTYさんが重宝するアニソン系のトラックはありますか?
DJ WILDPARTY:最近だとYOASOBIの「アイドル」(『推しの子』オープニング)なんかは、すごくわかりやすく盛り上がりますね。アメリカの方が好きなアニソンって結構はっきりしていて、ジャンプ作品の曲がみんなめちゃくちゃ好きですね。特に『NARUTO』はハズレなしです(笑) いきものがかりの「ブルーバード」(オープニング)とかは鉄板ですね。
照沼:ジャンプってやっぱりすごい(笑)

DJ WILDPARTY:そのなかで、マガジンの『進撃の巨人』が、別軸の大きな盛り上がりを生んでいたのを現場で感じていました。
照沼:日本だとどうですか?
DJ WILDPARTY:日本は難しくて、全体でめちゃくちゃ流行っているアニソンが昔と比べると、はっきりとはない感じがあります。サブカルチャーも広くなっていて、世代差も少なくなっている。だから、アニソンのDJイベントで盛り上がる鉄板曲は絞りづらいですね。
照沼:なるほど。色々な現場でDJをする中で、その場に合わせて全体の方向性を変えることもあるんですか?
DJ WILDPARTY:ざっくりとですね。たとえば、「今日は昼間のイベントで、未成年の人が多いから、アニソンよりも、ボカロやVTuberの曲のほうが盛り上がりそうだな」みたいな判断をしています。

照沼:DJ WILDPARTYさんはアニメイベント系とクラブ系と両面で活躍されていますが、クラブ系の現場でアニソンをかけることはありますか?
DJ WILDPARTY:あんまりないですね。棲み分けがあった方が個人的には面白いと思っているので。ただ、クロスオーバーできそうな可能性がその場にあったらちょっとずつかけています。
クラブのスピーカーで流れる時に、ダンスミュージックとそれ以外の楽曲だと音圧の違いで顕著に聞こえ方の差が出るので、曲の魅力が損なわれないか、そしてその日のお客さんが少し斜め上の選曲でもノッてくれるかを判断できた時に、アニソンを選択してもいいかなという感じですね。
DJと音楽ライターが注目する最近のアニソン
照沼:普段の生活で、アニメを見ているときは、どういうふうに音楽に注目していますか?
DJ WILDPARTY:最近は『アポカリプスホテル』というアニメにハマっていたんですが、オープニングとエンディングにaikoさんの曲が使われていました。特にオープニングの「skirt」が凄くて。Aメロでわざとめちゃくちゃ不協和音を出す演出なんかがあって、「これ何なんだ?」みたいな(笑)
そういうインパクトのあるアニソンに出会うと注目してしまいますね。あとは劇場版でめちゃくちゃ曲がかっこいいケースなんかは、「お!」って思っちゃいますね。
照沼:わかります(笑)
僕は最近だとジークアクスが印象的でした。主題歌が先ほど話に出た米津玄師さんの「Plazma」でしたが、挿入歌もすごくよくて。
DJ WILDPARTY:挿入歌はVTuberの星街すいせいさんと、ボカロPのツミキさんの音楽ユニットNOMELON NOLEMONが歌っていて、評判になっていましたね。
照沼:アーティストの人選がすごくアニメの内容を象徴しているなと思って。鶴巻和哉監督が意識したのかはわからないですが、アニメ自体が「ニュータイプ」というテーマを扱っていて、音楽でもそれを意識しているのではないかと。ボカロPのある意味ひとつの頂点である米津さんを据えながらも、そこに新しい世代のボカロPやVtuberがいて…、みたいな考察をすごくしていました。
DJプレイで新しいアニメと出会うきっかけを
DJ WILDPARTY:本当に今、いろんなジャンルの楽曲がアニソンに使われていますよね。DJをやっていてたまにあるんですけど、「知らなかったけど良い曲だった」とお客さんの興味につながって、そこからアニメ見るようになってくれることもあって。やっぱりいい曲を聴いてもらって、新しい発見になってくれたりすると嬉しいですね。

照沼:それはすごく良いですね。好きなアニメの曲がかかるかもしれないからDJイベントに行くのもいいし、そこで聞いた曲をなんだろうと気になって作品に入るのもアリだと思うんです。
さて、まだまだ色々お聞きしたいところですが、時間なので最後の質問です。ULTRA JAPAN2025に出演されるとのことですが、そこでアニソンをかける可能性ってありますか?
DJ WILDPARTY:なしではないかもしれないですが、雰囲気を見つつですね(笑) いろんなダンスミュージックの魅力が味わえるので、ぜひ当日を楽しみに会場に来ていただけたら。
▶️ DJ WILDPARTYが出演するULTRA JAPAN2025の詳細はこちら
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