『金糸の業』(甘夜にふる)

写真拡大

 神秘さとグロテスクさは対照的ではあるが、むしろ対照的だからこそ混ざり合った時の相性はとても良い。Xに3月下旬に投稿された『金糸の業』はまさにその2つが入り混じったSF作品になっている。

 変声期前の少年の歌声を食料にしている種が統治する世界。とりわけ、人類と鳥類の遺伝子を掛け合わせた家畜“金糸雀(カナリア)”の歌声を好物にしている。そんな金糸雀の世話だけではなく“処理”も担当している青年・セドリックは、王様のお気に入り金糸雀・アルモニの世話を引き受けることになるが――。

 神々しくも血生臭い本作を手掛けた甘夜にふるさん(@amayo2_full)に、本作を描くうえで意識したことなど話を聞いた。(望月悠木)

参考:【漫画】『金糸の業』を読む

◼︎歌声でしか腹を満たすことができない一族

――『金糸の業』制作の経緯を教えてください。

甘夜:もともと大学の創作サークルに所属したことをきっかけに漫画を描くようになりました。本作もサークル活動の一環で制作した作品になります。サークルの冊子に載る作品だったため、ページ数制限があり、「限られたページ数でどう物語を展開させていくか」をとても悩みました。

――“歌声を食料とする種”という斬新なテーマがどのように思いついたのですか?

甘夜:食事は生命活動に不可欠な要素であり、幸福を感じる瞬間でもあります。ただ、不意に「“歌声でしか腹を満たすことができない呪いを受けた一族”について物語を描いてみたい」と思い、本作の制作を始めました。

――そこに“金糸雀”という要素を追加した背景は?

甘夜:もともと人外と人間の関係性やバディものが好きなのと、“歌を歌う種を家畜とする王族”というテーマから動物的な要素を入れようと思い、生まれたのが“金糸雀”です。金糸雀にはどこか神聖な雰囲気を持たせたかったので、「天使のように羽があり、鳴き声がメロディのような鳥類のビジュアルが本作のテーマにもピッタリだろう」と思って作り上げました。

――確かに金糸雀は神秘的なビジュアルでしたね。

甘夜:また、金糸雀が暮らしている施設は白を基調とした、どこか神聖な場所をイメージしていたため、金糸雀の服も白一色にしています。

◼︎美と醜のコントラスト

--「成長したアルモニがセドリックと一緒に逃げる」というハッピーエンドでは終わらない展開が衝撃的でした。

甘夜:実は裏テーマとして、「人外と人間の間に本物の絆は生まれるのか」というものがあります。「果たしてセドリックとアルモニの間にあった感情は本当にお互いへの好意や友愛だったのか」という疑問を投げかける形で終わりたかったためです。最後のシーンを入れました。

--ストーリーだけではなく、神秘的な空気感を演出した作画もインパクトのある内容でしたね。

甘夜:金糸雀たちは純真無垢な存在で、良い意味でも悪い意味でも外の世界を知りません。そのため、綺麗、そして何もないという印象がある白ベースの世界観になっています。外の世界の雑音や喧噪などを感じさせない、どこか閉鎖的な世界を描写しようと意識しました。

――なるほど。だからこそ、出血するシーンがより生々しく感じられました。

甘夜:いくら外側が綺麗でも、金糸雀は人間と同じく肉や血でできています。そして、どこか浮世離れしている存在の金糸雀ですが、用済みとなれば待つのは非情な「死」です。美しさとグロテスクのコントラストを上げるべく、彼らの現実はぼかさずに描きました。

――今後はどのような作品を制作していきたいですか?

甘夜:『金糸の業』は趣味の創作作品ですが、今年の夏ごろまでには同じ世界観の続編を描き上げたいなと思っています。完成したらまずXにポストしようと思っているので、よければ続編も読んでもらえると嬉しいです!また、本作がキッカケで、商業漫画として読切漫画を描かせてもらうことになりました。『金糸の業』とは別の世界観の物語ですが、私の好きな要素を盛り込んだ人外と人間のバディものになる予定です。もし興味がありましたら、そちらもチェックしてもらえればと思います!

【プロフィール】甘夜にふる

主にX(旧Twitter)上で活動をしているイラストレーター。不穏な雰囲気の男性のイラストが得意。個人様/企業様問わずイラスト等のご依頼を受け付け中。

(文・取材=望月悠木)