『あんぱん』写真提供=NHK

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 朝ドラことNHK連続テレビ小説『あんぱん』が第4週に突入。主演の今田美桜をはじめ、北村匠海、中沢元紀、河合優実、原菜乃華ら若手俳優たちが輝きを放つ一方で、第1週から作品を支えているベテラン俳優陣たちがいる。その中でも異彩を放っているのが、柳井千代子役の戸田菜穂だ。

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 戸田が演じる千代子は、柳井寛(竹野内豊)の妻であり、嵩(北村匠海)と千尋(中沢元紀)の育ての親。艶やかな着物を着こなし、食事も洋食をたしなむ、“ハイカラ”な人物として登場した。最初は“お高く止まっている”キャラなのかと思いきや、そんなことはなく、柳井家の女中・しん(瞳水ひまり)にも優しく接し、何よりも父・清(二宮和也)を亡くして身を寄せてきた登美子(松嶋菜々子)と嵩にも、別け隔てなく寄り添っていた。

 むしろ、“お高く止まっている”キャラなのは登美子だったのだ(それも一種の強がりではあるのだが)。登美子が我が子を置き去りにした後は、千尋と同じく嵩の面倒を見るよき母に。子どもの頃は病弱だった千尋がたくましい青年に育っていること、嵩が好きな漫画を愛し続け、母が去った後もしっかり成長できた背景に、千代子の優しさがあったのは間違いないだろう。

 そんな優しい千代子の心を揺さぶり過ぎているのが、また柳井家に帰ってきた登美子だ。一度は子を捨てた身でありながら、離縁されたことをきっかけに再び柳井家で暮らすことに。当たり前のように居座ることさえ図々しいのに、あろうことか登美子は、嵩の成績がよくないことを千代子たちの育て方が悪かったのようにつぶやく。

 これには、千代子も「いっつも、ご立派なお心遣いですこと」と嫌味たっぷりの返し。第4週は嵩と千尋の兄弟喧嘩も描かれているが、それ以上に登美子と千代子の母のぶつかり合いが“昼ドラ”のようだと盛り上がっている。

 とはいえ、どんなに嫌味たっぷりの物言いをしても、本質的に昼ドラにならないのは戸田と松嶋の演技力があってこそ。ふたりともかつて朝ドラヒロインを務めていることもあってか、2人の言葉の端々にはしっかりと“子”への思いがあり、どちらも悪人ではないことがハッキリと伝わるからだ。

 さらに面白いのが、2人とも本作の前には広瀬すずが主演を務めた『なつぞら』(2019年度前期)にも出演していること。『なつぞら』では、松嶋は主人公・なつ(広瀬すず)の育ての親に、戸田は出演シーンはわずかではあるが、なつの実の親を演じていたのだ。『あんぱん』と役割が正反対になっており、制作陣もどこかで意識していた部分があるかもしれない。

 戸田は『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 あんぱん Part1』にて、「気まぐれな登美子には少し手厳しいですが、いざとなれば母親どうしで協力する柔軟さも。それも嵩と千尋を思うからこそです」と千代子の優しさの本質について語っている。

 厳しい時代を生きる女性同士、嵩と千尋を愛する者同士、千代子と登美子が今後意外な形で仲を深めていく展開もあるかもしれない。朝ドラにおける“母親”役は、主人公たちの舞台が変わると出演シーンは減ってしまうのが通例ではあるが、願わくば彼女たちが楽しそうに会話する姿を観続けたい。

(文=石井達也)