医師がシニアの食事に「マックと吉野家」を勧める“意外な理由”
要介護の高齢者が年々増え続けている。経済産業省の発表によれば、要介護認定者数は、ピークを迎える2040年に988万人にもなると推定されている。
「日本に寝たきりの高齢者が多いのは、“痩せ”が原因。65歳を過ぎたら、血圧や血糖値を気にする前に、十分な食事量が大切です」
こう警鐘を鳴らすのは、医療法人社団悠翔会 理事長の佐々木淳先生だ。
在宅医療のエキスパートで、著書『年をとったら食べなさい』(飛鳥新社)では高齢者の命を守る食事法を指南している。
日本の75歳以上の高齢者のうち、約6割が低体重というデータもあるという。確かに中高年に比べると、「太っている高齢者」は想像しづらいがーー。
なぜ、高齢になると多くの人が痩せてしまうのか。
「そもそも人間は、年を重ねると生理的に筋肉量が減少します。30歳以降、1年間で約1%ずつ減少し、80歳時点でおよそ半分程度になるといわれています」(佐々木先生、以下同)
筋肉が減少すると、動くことがおっくうになり、日常の活動量が減る。飲み込む力も衰えるため、食事への関心が薄まり、食事量も減る傾向にあるという。これが筋肉量の減少に拍車をかけ、だんだんと動けなくなってゆくのだ。
「痩せ」指標の一つには、体格指数である「BMI」が用いられる。厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」では、年齢別に目標とするBMIの範囲が定められている。
「BMIは、22程度が最も健康によいといわれますが、これは高齢者には当てはまりません。表では下限が21.5に設定されていますが、女性の場合はBMI23.5から24.9ぐらいの少し太め程度のほうが長生きできるといえます」
「痩せ」は寝たきり以外にも、誤嚥性肺炎、骨折などの要因にもなる。要介護と死亡のリスクを増やさないためには、筋肉を守り、体重を減らさないことが大切だ。
「まずは、カロリーを取ることが必要不可欠です。以前、かなり痩せ型で寝たきりに近い80代の男性がいました。老人ホームで、三食しっかり食べていた方でしたが、体重は減り続ける一方。そこで、1本375kcalの栄養補助食品を飲んでもらったところ、体重減少が止まりました。
さらにもう1本追加すると、体重はゆっくりと増加し、寝たきりから歩くリハビリができるまでに回復。最終的に、老人ホーム入所時より10kg以上体重が増えました」
この男性はもともとは肺炎で入退院を繰り返していたが、体重が増えたことで健康を取り戻し、平均寿命を大きく超えて長生きしたという。
しかしながら、一度痩せた状態から体重を増やすのに、700kcal以上も必要だったのは驚きだ。痩せる前に「守る」意識が大切だとわかる。
■体重と筋肉を守る「ジャンクフード」
そこで、シニアにこそおすすめしたいのが、意外にも、“ジャンクフード”なのだという。
「特に、ハンバーガー、牛丼チェーンはシニアに理想的だといえます。体重を守るためのカロリーと、筋肉を守るためのタンパク質量、両方を効率よく取れるメニューがそろっているからです」
佐々木先生によれば、高齢者の1日あたりの必要摂取カロリーの目安は、運動強度や体の大きさにより、2,000〜2,500kcal程度。タンパク質は、通常は体重1kgあたり約1gの計算(体重52kgの場合52g)だが、筋肉量が減少する高齢者は1.5倍程度摂取すると安心だという。
今回、佐々木先生への取材を参考に、編集部が提案するおすすめメニューをまとめた。あくまで一例だが、1食置き換えるだけで、カロリーだけでなく、1日に必要なタンパク質の半分以上を補うことができるメニューなので、参考にしてほしい。
最近の研究では、運動量が少なくても、タンパク質さえ取れていれば、筋肉はあまり減らないこともわかってきている。
ただし、カロリーとタンパク質、両方を増やすことが不可欠だ。そもそものカロリーが不足していると、タンパク質を取ってもそれがエネルギーとして消費されてしまう。
「ジャンクフードは、『油分や塩分が多く不健康では?』と心配する方がほとんどだと思います。しかし“高密度なカロリー”という意味で、むしろ脂質は味方です。脂質は1gで9kcalあるので、10g取れたら90kcalになります。
同様に、塩分も大きな問題はありません。高齢者はある程度動脈硬化が進んでいるため、この年齢から制限しても、死亡リスクが大幅に低減される望みは薄いと思います。
年を取ると味覚が衰え、薄味だと味がわからず、食への関心が薄れることも。それで体重が減少するくらいなら、濃いめの味付けにしても構いません」
味噌汁やヨーグルトにオリーブオイルを加える、お米を炊くときにMCTオイルを混ぜる、などの方法もおすすめだ。ギトギトの揚げ物は継続して食べにくいという人は、無理のない形で脂質を取ろう。
「カロリーの取りすぎはよくない、血圧や血糖値はとにかく下げるべきだ、といった常識にとらわれすぎて、かえって健康を損ねている高齢者をたくさん見てきました。体重が減少し始めたら、健康管理の方向を改めて見直してほしいです」
65歳を過ぎて、少し疲れやすくなった、動くことがおっくうになるなどしたら、要注意だ。ジャンクフードをうまく取り入れて、できるだけ長生きしよう!