国立で神戸に完敗。タイトルの可能性は潰え、岩政監督は「完全に力負け」と唇を噛んだ。写真:滝川敏之

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 2023年シーズン。5〜7月を1敗で乗り切り、8月以降も上位の名古屋グランパスに敗れた以外は確実に勝点を積み上げた鹿島アントラーズ。9月16日にセレッソ大阪に勝った時点では、首位のヴィッセル神戸に勝点6差の3位まで浮上。悲願のJリーグタイトルもうっすら見えてきた。

 すでに天皇杯を3回戦で敗退し、ルヴァンカップも準々決勝で敗れている鹿島にしてみれば、リーグタイトルしかターゲットがなくなっていた。だからこそ、9月下旬から10月にかけての横浜F・マリノス、神戸、浦和レッズの上位陣との直接対決に勝つことが必要不可欠だった。

 9月頭に2018年ロシア、22年カタールの両ワールドカップを経験したレジェンド・柴崎岳が7季ぶりに復帰。ギアを一段階上げてくれるという期待もあって、機運は高まったが、鹿島は9月24日の横浜戦で1−2の敗戦。10月21日には神戸にも1−3で完敗し、7シーズン連続で国内無冠が決まってしまった。

 神戸戦に関して言うと、岩政大監督は、サイド攻撃から大迫勇也に至る得点パターンを封じるため、あえてSBに高い位置を取らせてボールを支配し、優位にゲームを運ぶイメージを描き、3週間かけて準備した。だが、結果的に相手にサイドを攻略され、前半から失点を繰り返すことになった。

「人選含めて自分の責任です」と指揮官は神戸戦後の記者会見でうなだれた。選手に、飛ばすところとつなぐところの的確な判断を求めながら、それを遂行させられなかったこと、高い領域まで導けなかった反省があったのだろう。

「神戸は大迫がいて、山口蛍、酒井高徳、武藤嘉紀といった経験豊富なベテランがいる。その彼に引っ張られてチーム全体の意識が上がり、お互いに要求し合えるような空気感が生まれた。でも今年のウチはそういうところが足りなかった。柴崎岳が入ってきて、そういう役割を期待したけど、岳も大事なところで怪我をしてしまって、ピッチ上でそういう存在感を示しきれなかった。それを含めて僕のマネジメント力が足りなかった」と、岩政監督は残念そうに話していた。
 
 11月24日の川崎フロンターレ戦で0−3の完敗を喫した後も、鹿島の選手たちはロッカールームで無言で打ちひしがれていたというが、常勝軍団と呼ばれた頃の彼らは、1つの負けや失敗を跳ね除けるだけの力強さとタフさがあった。

 レジェンドの岩政監督はそれをよく理解していたから、選手たちにあえて自主性と自己判断力を身につけさせ、自発的にアクションを起こすようなムードを作り、ピッチ上でもそうさせようと仕向けたのだ。

 とはいえ、Jクラブの指揮を執り始めてまだ1年余りしか経過していない経験不足の指揮官には、言葉足らずの部分もあったのかもしれない。そこは彼自身も反省している点だ。

 結局、上位陣に軒並み勝てず、優勝した神戸とは勝点19ポイント差をつけられた鹿島。その結果だけを見れば、岩政体制に区切りをつけるという吉岡宗重フットボールダイレクターら強化部の判断は妥当なのかもしれない。

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 ただ、あれだけ継続の重要性を強調し、若い力を伸ばそうとした岩政監督が、本当に強いチームを作れるとしたら、来年以降だったのではないか。そんな疑問がどうしても拭えない。個の成長やビルドアップの精度アップにフォーカスした岩政監督も、その成果には確固たる手応えを感じている様子だ。

「ビルドアップに関しては、最終節のサッカーを見れば、選手たちが苦しんだものを打ち破ったことが分かると思います。今週の紅白戦を見ていても、スタメン組もサブ組も何のためらいもなく、怖がらずにプレーするようになった。

 勝とうが負けようが、毎週毎週、繰り返すことを続けた結果だと思います。それがチームが良くなることの何よりの近道だと僕は思います」と、指揮官は最終節後の会見で力強くコメントしていた。

 個のレベルアップに関しても、最終節に躍動した松村優太が「岩政監督のおかげで成長できた」と語ったように、指揮官の粘り強いアプローチが大きかったと感じている選手は少なくないようだ。

「実のところ、僕は夏にレンタルで外に出ていくことを心の中でほぼ決めていたんです。そんな時、岩政監督と1時間半くらい話して『もうちょっとだ』と、ものすごく引き留められた。僕自身はメンバーの決め方とかも『なんでやねん』と思った時もあったけど、最終的には、あの人の考えた通りになった。大きな成長を実感できたし、本当に感謝してます」と、松村は偽らざる本音を吐露したのだ。

 そういった感謝の念を抱いているのは、日本代表入りした佐野海舟、良いシーズンを過ごしたディエゴ・ピトゥカも同じだろう。岩政監督も「鈴木優磨と安西(幸輝)がキャリアハイのゴールとアシストを記録し、植田(直通)もフル出場して素晴らしいパフォーマンスを披露した。仲間(隼斗)や樋口(雄太)もそうだった。苦労してキャリアを積んだ選手たちが、これまでの中で一番良いシーズンだと言って、良い活躍をしたのは確かだと思います」と、複数の選手名を挙げて前向きに評価した。勝負弱いイメージを残した岩政体制だったかもしれないが、収穫も少なくなかったのだ。
 
「序盤戦で勝てず、神戸にホームで1−5で大敗した時、岩政監督とはずいぶんと話をしました。自分たちがやろうとしたことを整理して、そこからはチームとして良くなっていったと思います。そのまま行って、マリノスに勝てれば状況は変わっていた。

 最後の6試合は、自分たちが立ち返るものが見えづらかった。そういう意味では自分たちのスタイルが少し明確にならなかったと思います」

 吉岡FDも残念そうに説明したが、横浜戦から終盤にかけての失速が致命傷となった。12月4日、契約期間満了に伴い、岩政監督の退任が正式発表。1つの時代が終わってしまった鹿島。5位で事実上の解任というのは、本当に厳しい出来事だ。

 岩政監督ほどクラブ愛の強い指揮官もそうそういなかっただけに、この結末は残念でならない。そう感じるファン・サポーターも少なくないはずだ。

※第2回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)