フジテレビ元局員の転職先に驚愕!大手企業も映像メディアに乗り出す大戦国時代が到来 - 放送作家の徹夜は2日まで

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※この記事は2022年03月11日にBLOGOSで公開されたものです

昨年末にフジテレビが早期退職者を募り、約100人が退社することになりました。黄金時代を支えた人気アナウンサーや演出家が早期退職することがニュースでも報じられましたが、いまテレビ業界で何が起きているのか。仕事柄、局内の事情を耳にすることも多い放送作家がテレビ界の現状を綴ります。

放送作家の深田憲作です。今回は「最近のテレビマン事情」について書いてみたいと思います。

テレビの世界で大きな動きがあるのは4月と10月。この2つを「改編期」と呼び、視聴率で苦戦を強いられている番組のスタッフは改編期が近づくたびに番組打ち切りの通告に怯えます。そして、その通告が正式にされるのが改編の3~4か月前。その時期にテレビマン同士が顔を合わせると「あの番組が終わるらしい」「その枠であの特番をレギュラーにするらしい」など噂話に花を咲かせます。

このコラムが配信されている頃は、まだ1回も放送されていない新番組に関する噂話が飛び交っているはずです。「あの新番組はMCに●●を起用するらしい」「あの番組を作っていたチームが新番組を制作するらしい」「MCのタレントがスタッフへの注文が多くて大変らしい」「あの番組は制作費が全然無いらしい」「1回目が放送される前から会議が迷走しているらしい」「ネタが続かないだろう」「絶対にこける」などなど。

元テレビ局員をヘッドハンティングする企業

おそらくこんな噂話は何十年も前から行われてきているのですが、この1~2年で噂話のメインテーマの1つに加わったのが「テレビ局員の退職情報」。最近もフジテレビが50歳以上の早期退職希望者を募っているという情報でネットを賑わせました。当然ながらそのニュースを受けてテレビマン同士の噂話でも「誰誰が早期退職でフジテレビを辞めるらしい」「●●さんはフジテレビを辞めて●●に行くらしい」といった情報が飛び交っています。

具体的な名前は出せませんが、フジテレビに出入りしたことがある人間からすれば誰もが存在を知る大物の名前が何人も入っていました。そして、驚きだったのがその転職先。もちろん、転職先はそれぞれ異なるのですが、その中にとある有名企業の名前が。話によると新たに映像コンテンツの事業に乗り出すため、テレビ局員をヘッドハンティングしているというのです。それも一社ではありません。(あくまで噂話ですので確定情報でないことだけは了承ください)

現時点でNetflix、Amazonプライム・ビデオ、YouTube、Disney+、ABEMAなど様々なメディアが乱立しており、映像コンテンツがインフレを起こしている状況なのに、ここからさらにそれが加速していくというわけです。

この2~3年でテレビマンの民族大移動が起こり、その移動先はYouTubeがメインでした。これからはその行き先、すなわち選択肢が増えたことで移動を試みるテレビマンも増えていくことでしょう。当然、これはテレビ局にとっては由々しき事態。数年前まではADの仕事の厳しさをテレビ番組でも平気でネタにしていましたが、あの3K的なイメージを払拭しないと有望な人材が入ってこなくなりますし、人材の流出にも繋がってしまいます。

そんな背景があるかどうかは知りませんが、AD(アシスタントディレクター)という呼称を辞めてYD(ヤングディレクター)にするという情報がネットニュースで話題になりました。この呼称が定着するかどうかはさておき、テレビ局員だけでなく、出入り業者も含めて雇用者のケアや配慮はこれまでよりも丁寧にしなければいけなくなりそうです。

テレビ局側の視点で考えると厳しい時代に入ってきている感じがしますが、雇用される側にとってはいい時代と言えるのかもしれません。

映像制作者の仕事の数と幅は増える

もちろん、メディアが乱立することによって視聴者(ユーザー)も分散されるため、1つのコンテンツにかける制作費はテレビ全盛期と比べ低くなることが予想されます。(Netflix、Amazonプライム・ビデオなどの外資は別ですが)ということは、制作者のギャラも安くなるということ。

ただ、それでも映像制作者の仕事の数と幅はどんどん増えていくはずです。1つの場所で大きく稼げなくとも、複数のメディアを股にかけて仕事をこなすことで着実に稼ぐことができるのではないかと思います。私がテレビ業界に足を踏み入れた15年前は「放送作家の寿命は45歳くらい」と言われていました。しかし、このメディア乱立時代に突入したことによって、その寿命は伸びているはず。20代の頃は「45歳になって仕事がなくなったらその時に考えればいいか~」と楽観的に考えていましたが、普通に考えて45歳の若さで特別なスキルを持たない放送作家が、テレビの世界からいきなり放り出されるなんて過酷すぎます。少しでも寿命が伸び、仕事の選択肢が増えたのならば制作者にとってはいい流れと言えるのかもしれません。

そして個人的な感覚なのですが、放送作家の価値観も変わってきているように感じます。少し前までの放送作家の価値観は「レギュラー番組を何本やっているか?」が大きかったように思います。もちろん今もそれは残っていますが、近年は仕事の量に価値を置く考えは薄くなっている気がします。

これまではテレビ番組のレギュラーを10本持っていれば売れっ子放送作家と言われていたのですが、今ではテレビに限定しなければレギュラーの仕事を10本以上持っている人はざらにいます。みんな平気で15本ほど持っています。YouTubeも入れたら約30本抱えている人もいます。やりすぎです。たくさん働いているという意味でそういう人を「凄いなぁ」とは思いますが、尊敬心や嫉妬心での「凄いなぁ」という気持ちはない気がします。

それに伴い、仕事への価値観は「仕事をどれだけやっているか?」ではなく「どんな仕事をやっているか?」「どんな立ち位置でその仕事に関わっているのか?」「その仕事は楽しいのか?」という点に重心がシフトしてきているように思います。

自分が仕事に求めるモノがテレビにあるのか?YouTubeにあるのか?ABEMAにあるのか?新興メディアにあるのか?もしくは映像メディア以外にあるのか?ということを多くの人が探っています。

数多くの人に自分が関わった作品を見てもらいたい人はテレビ。自分が裁量権を持って作品を作りたい人はYouTube。ゼロからメディアを作り上げる経験をしたいという人は新興メディア。自分の可能性を試してみたいという人は映像メディア以外。まさに“働き方意識の過渡期”にあるのではないでしょうか。

そのため放送作家も映像コンテンツを作る以外にも様々なジャンルに触手を伸ばす動きを見せています。小説を書く人、コラムを書く人、タレントのマネジメントをする人、企業のコンサルをする人、おもちゃやゲームを開発する人、服を作って売る人、など。

企画のフリー素材サイトに寄せられた反響

ここからは個人のお話をさせていただきますが、私はというとそのどれにも当てはまらないwebサイトを作っています。サイト名は「企画倉庫」で、一言で説明する時には「企画のフリー素材サイト」という言い方をしているのですが、YouTubeなどのバラエティコンテンツで使える企画案を「グルメ」「クイズ」「ドッキリ」「トークメイン」などのジャンルごとに掲載しています。

特徴としては、誰でも企画案を投稿できて、投稿の中から管理人の私が面白いと思った企画を採用して掲載。投稿者の名前やSNSのアカウントを企画と併せて載せています。

なぜこのようなサイトを作ろうと思ったかというと、YouTubeの台頭によって我々放送作家のように日々企画を考える人が劇的に増えたであろうと思い、その数字を調べてみました。すると、2022年1月の時点で、登録者数が5万人を超えるYouTubeチャンネルは9,000以上。登録者数が3万人以上のチャンネルは12,000以上も存在することが分かりました。これら全てがバラエティコンテンツを作っているわけではありませんが、少なくとも数万人が日々企画考案に苦しんでいるという状況であると思ったのです。

テレビの世界では他の人の企画をそのまま使うことは「パクり」とされ、禁じ手のような空気がありますが、YouTubeの世界では「100の質問」「モーニングルーティーン」「バッグの中身」「ドライブトーク」など、むしろ定番企画をやった方が数字は伸びやすいと言われています。

テレビマン出身の制作者ですらそういった定番企画をそのままやることが少なくありません。そのためYouTube制作に関わる方に、サイトに掲載されている企画をそのまま使ってもらうもよし、少しアレンジして使ってもらうもよし、といった感じで企画を無料開放するサイトを作ろうと思ったわけです。

実際にサイトを開設してみると、YouTubeの制作者だけでなく、ラジオやポッドキャストといった音声メディアで配信をしている人たちからの反響もいただきました。私が音声メディアで仕事の経験がなかったためその需要は想定していなかったのですが、音声メディアで配信をしている人たちもトークの材料となる企画に困っているというのです。

また、ライブ配信者、ネットや雑誌で記事を書くライター、お店などの経営者、広告代理店の方などからも「このサイトに載っている企画案は参考になる」という声をいただき、お笑い芸人からは「ライブやイベントでやる企画の案が掲載されていたら嬉しい」という要望もいただきました。当たり前ですが、企画に困っているのはテレビ・YouTube周りの人たちだけではないということです。

今後はそういった幅広いジャンルの方にとって役立つ様々な企画案を掲載し、サイトが大きく育っていった先には、サイト発でオリジナルコンテンツを生み出したいと考えています。色々な展開を考えているのですが、近々の動きとしては「テレビ制作者向けのページ」を作り、多忙なテレビマンのアイデアの種や時短になる情報を多数載せるつもりです。

今後、エンタメ界がどのように流れていき、自分がどこに流れ着くのか?全く想像もできませんが、自分としてはこの「企画倉庫」をホームグラウンドとして様々な企画を打ち出していきたいと思っています。もちろん、これまで通りテレビやYouTubeの仕事も続けていきたいと考えています。

このBLOGOSさんでコラムを書かせてもらうようになってから早2年。月1回というペースではありましたが非常に勉強になりました。自分の考えを分かりやすく伝え、興味を持っていただく難しさはテレビやYouTubeの制作ではできなかった経験です。数字(記事のPV数)だけを追うのであれば時事ネタや芸能人について書く方がいいとは思ったのですが、数字よりも自分が書きたいモノを優先して書かせてもらってきました。

名前だけで読者を引っ張ってこられるような人間ではない私に、特にテーマの指定もせず、自由に書かせていただいた編集部の方には感謝の気持ちでいっぱいです。今後、仕事をするうえでどんな時も数字から逃げてはいけないとは思っています。ただそれ以上に「自分が何をしたいのか?」「何をしている自分が好きなのか?」を優先していきたいです。それを実現していく場所として「企画倉庫」というサイトを作りたいと思いました。

このコラムをお読みいただいている読者のみなさんの中にも、自分の好きなことや自分の思いを発信したいと考えている人がいるかもしれません。今や、映像制作のプロでなくても発信をすることのハードルは高くなくなりました。お金が無くても、知名度が無くても、スキルが無くても、何かを発信するためのメディアは揃っています。ただ1つ、強い思いさえあれば、数字はともかく、発信することはできます。

たとえ収益が出なくても、その発信によって自分や他人の人生を少しだけ豊かにすることもできるでしょう。そんな志を持った方を「企画倉庫」というサイトが手助けすることができれば幸いです。叶うものなら、今、このコラムを読んでくださっているあなたと、いつか「企画倉庫」で何か一緒に作ることができれば最高です。

それでは2年間、ありがとうございました。またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

深田憲作
放送作家/webサイト「企画倉庫」管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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