GDP成長率は前期比0.3%増だが…

10月26日、韓国銀行が7〜9月期の国内総生産(GDP)の速報値を発表した。それによると、実質ベースのGDP成長率は前期比でプラス0.3%増だった。需要項目別に確認すると、純輸出は増加した一方、個人消費など内需の落ち込みが大きかった。

目に付くのは、純輸出が増加した分を、国内の個人消費の落ち込みが消してしまう格好で、経済全体の成長率が想定されたほど伸びなかったことだ。韓国政府によると、2021年9月の月間の輸出額は統計開始来の過去最高額を記録した。それにもかかわらず、成長率は伸び悩んだ。それについて専門家の一部では、「輸出関連の収益が、家計全体へと行き渡っていないのではないか」との見方もある。

また、新型コロナウイルスの感染再拡大によって、動線が寸断され個人消費が盛り上がりにくかったこともあるだろう。それに加えて、韓国内の雇用環境の厳しさや家計債務などの影響もありそうだ。そうした問題は短期間での解決は難しい。今後、韓国では内需が追加的に弱含み、景気の減速懸念は高まる可能性を覚悟したほうがよいかもしれない。

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2021年10月27日、韓国・ソウルの青瓦台で行われた東南アジア諸国連合10カ国、中国、日本の首脳との首脳会談で発言する韓国の文在寅大統領 - 写真=EPA/時事通信フォト

■「想定以上に内需の落ち込みは深刻だ」

年初来、韓国の実質GDP成長率は、1〜3月期は前期比でプラス1.7%、4〜6月期は同プラス0.8%、7〜9月期が同プラス0.3%と推移してきた。成長率は鈍化しており、景気の回復ペースは徐々に弱まっている。

7〜9月期の成長率鈍化の主たる要因は、個人消費を中心とする内需の落ち込みだ。需要項目別にGDP成長率への寄与度をみると、民間の最終消費支出は0.1ポイントのマイナス、政府支出が0.2ポイントのプラス、設備投資などの総資本形成が0.5のマイナス、純輸出は0.8のプラスだった。内需の弱さと、外需の堅調さは対照的だ。

過去、輸出が増加した局面と比べると、7〜9月期の実質GDP成長率はかなり低い。過去、中国向けを中心に輸出が増える局面において、韓国の企業業績は上向き、個人消費が緩やかに持ち直す傾向にあった。2021年9月の韓国の輸出額が統計開始来の過去最高を記録したため、7〜9月期の実質GDP成長率は前期比で0.6%程度になるだろうと予想する韓国経済の専門家が多かった。しかし、成長率0.3%とは予想を下回った。GDPの発表後、ソウル在住の知人エコノミストは、「想定以上に内需の落ち込みは深刻だ」と話していた。

■感染再拡大による動線の寸断が打撃に

韓国銀行は、内需落ち込みの主な要因として、外食や宿泊などサービス関連の個人消費が減少したことを指摘している。その背景要因を考えると、6月下旬から韓国国内で感染が再拡大し、動線が寸断された影響は大きい。韓国政府も、動線が寸断されたことによる消費の減少に世界的な供給制約が上乗せされたことが7〜9月期の内需を圧迫したと評価している。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Young K Song

世界的に見ても夏場の感染再拡大によって飲食、宿泊、交通関連の支出が減少し、景気回復ペースが弱まった国は多い。また、東南アジアで感染再拡大によって動線が寸断されて自動車部品や車載半導体の調達が減少したことは、韓国国内での設備投資を減少させた。

ただし、感染の再拡大だけが7〜9月期の内需落ち込みの要因ではないだろう。個人消費などの減少には、複合的な要因が影響しているはずだ。

■雇用環境の悪化、家計の過剰債務、物価上昇の三重苦

消費が伸びない主な要因に、雇用環境の悪化、家計の過剰債務、物価上昇がある。コロナ禍以前から雇用と債務の問題への懸念は高まってきた。一つの見方として、コロナ禍は韓国経済の構造的な問題を一段と深刻化させ、内需が追加的に圧迫されている可能性がある。

まず、韓国の雇用環境は失業率のデータが示す以上に厳しいとみられる。2017年から2020年の間、韓国では従属型の労働者(企業などに勤める人)に占める臨時の雇用(非正規雇用)者の割合が20.62%から26.1%に上昇した。同じ期間、OECD加盟国での平均割合は12.18%から11.42%に低下した。一つの解釈の可能性は、正規社員として働きたいものの非正規職に就かざるを得ない人の増加だ。正規雇用の機会が減少しているといってもよいだろう。

■約8年ぶりに電気料金が値上げされる

また、家計の債務残高の増加も深刻だ。その背景要因は多い。アジア通貨危機の後、韓国政府は個人消費の増加と税収強化のためにクレジットカードの普及を重視した。その結果、カードでの支払いを選択する人が増え、社会全体で借り入れへの抵抗感は低下し、債務が増え始めた。

近年の韓国では首都圏のマンションなど不動産市況が上昇し、住宅取得のための借り入れも増えた。その後、コロナ禍の発生によるサービス業の業況悪化、本年の6月ごろからの利上げ期待を反映した短期ゾーンを中心とする金利上昇などによって、借り入れに慎重になる、あるいは返済負担の増加を懸念する個人が増え、消費が減少したとみられる。それは内需を圧迫する。

3点目が物価上昇だ。韓国では生産者物価が上昇し、徐々に消費者物価も上昇している。物価上昇は消費者の節約心理を強める要因であり、7〜9月期の個人消費に負の影響を与えただろう。10〜12月期、韓国では世界的なエネルギー資源の価格上昇によって約8年ぶりに電気料金が引き上げられるが、政府はすでに値上げが決まったもの以外の公共料金の年内据え置きを表明した。それは、物価の上昇を一段と警戒する消費者が増え、内需に追加的な下押し圧力がかかるとの不安が高まっているからだろう。

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■景気の減速はさらに鮮明になる恐れ

今後、韓国経済では内需が追加的に落ち込み、景気減速が鮮明化する可能性がある。

まず、感染状況は懸念材料だ。10月最終週に入っても韓国の新規感染者数は十分に低下していない。その一方で、11月から韓国では段階的にソーシャルディスタンスが緩和される。感染者が減り、徐々に韓国国内で動線が修復されれば、飲食、宿泊などサービス業の業況が持ち直しに向かう可能性はある。韓国政府はそれを年4.0%の実質GDP成長率目標の達成につなげたいようだ。

しかし、感染再拡大が落ち着かない中で人流が増えれば、感染者数が反発する恐れがある。その展開が現実のものとなれば、韓国の経済と社会にはかなりの負の影響があるだろう。中国や英国などでの感染再拡大の状況を見ていると、そのリスクは過小評価できない。仮に、11月以降に韓国の感染者数が再度増加し始めれば、動線は寸断され、サービス関連を中心に個人消費は一段と減少して内需が落ち込み、景気減速が鮮明化する可能性がある。

■中国経済の下振れリスクも悩みの種

それに加えて、韓国では車載半導体の不足が深刻であり、現代自動車は2021年の販売計画を下方修正した。最先端のロジックを中心に演算処理に用いられる半導体は世界全体で需給が逼迫(ひっぱく)している。その状況は2022年の後半から2023年初めにかけて続く可能性がある。自動車生産の減少は、韓国の輸出にブレーキをかけ、国内の設備投資にもマイナスの影響を与えるだろう。

それは韓国の雇用・所得環境の不安定化につながり、内需は圧迫される可能性がある。また、現代自動車では労働組合が工場での雇用の長期化を求めて、新規の採用が減少しているとの報道がある。労働組合による既得権益の維持と強化は、新しい雇用機会の創出を妨げる。それは、個人消費はもとより韓国経済の潜在成長率にマイナスだ。

韓国経済は外需の下振れリスクにも直面している。不動産市況の悪化と電力不足の深刻化によって中国経済の減速懸念が高まっている。10〜12月期、中国の実質GDP成長率は前年同期比で3.5%程度に一段と鈍化するとの見方もある。内需を中心に韓国経済の減速懸念は追加的に高まる恐れがある。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)