上背のある選手はサッカーが巧くないと言われ続けてきた。日本のみならず世界に共通する傾向だが、その高い、低いを示す基準は国によって異なる。180センチ以上を長身とする国もあれば、185センチ以上を長身とする国もある。190センチの国もある。それはその国の平均身長と深く関係している。

 前回ロシアW杯の本大会に出場した国では、平均身長186.7センチのセルビアがナンバーワンで、ペルーの177.6センチが32チーム中、最下位だった。日本はと言えば178.8センチで、32チーム中30位。セルビアとの差は7.9センチあった。

 日本で186.7センチは大型サイズだが、セビリアでは普通。日本人には、セビリアが大きいのに巧い選手がゴロゴロしている国に見える。しかしそれが、どこまで試合に決定的なものとして作用するかは定かではない。小さいが故のメリットもあるからだ。俊敏性や巧緻性もサッカーには不可欠な要素になる。それぞれの要素を差し引きしてどうか、という話になる。

 サッカー界から必ずしも歓迎されない要素をもう一つ挙げるならば、それはスピードになる。スピードという要素を単体で見れば好ましく見えるが、サッカーは速い選手ほど巧くない傾向がある。

 上背のある選手が概して巧くないのは、俗にサイズ感で物事を解決しようとするあまり、技術の習得が疎かになるためと言われるが、こちらも同様に、スピードで物事を解決しようとするあまり、技術の習得が疎かになりがちなためだと言われる。

 しかし世界的にも国内的にも、身長が高くても巧い選手は増えている。平均身長の伸びと、それは深く関係していると思われるが、スピード系の選手はどうだろうか。こちらも、増加傾向を示しているように見える。

 いまスピード系の代表と言えば、キリアン・エムバペになる。筆者はこの選手を、定説に従い、疑いながら見てきたつもりだが、肝心のサッカーも少しずつ巧くなっている。メッシ、クリスティアーノ・ロナウドの時代が終了しようとしているいま、バロンドール候補にまで名前が挙がるようになっている。所属のパリSGがチャンピオンズリーグを制したり、フランス代表がユーロを制したりすれば、その可能性は急速に高まるだろう。

 歴代のバロンドール受賞者を眺めたとき、スピード系と言えるのはオレグ・ブロヒン(1975年)とイゴール・ベラノフ(1986年)ぐらいだ。いずれもウクライナ系のソ連代表選手だが、それに続く選手は四半世紀、現れていない。エムバペは近い将来、その座に就くことができるのか。

 日本で速い選手と言えば、古くは武田修宏、岡野雅行を想起する。元日本代表選手だが、こう言ってはなんだが、速いけれど巧くない選手の代表格だった。現役選手でこのカテゴリーに入るのは永井謙佑(FC東京)になる。現在32歳のベテランだが相変わらず速い。技術的にもいまなお着実に上達している。大学卒業したばかりの頃より明らかに巧くなっているが、その弊害がないわけではない。

 しかし、永井以降になると話は少し変わってくる。現在28歳。日本代表の右ウイングに定着している伊東純也(ヘンク)は、速いけれど、速すぎる選手にありがちな臭みがない。ゼロではないが僅かだ。技術的に稚拙な、見る側を落胆させるようなプレーはない。「速い選手は巧くない」の概念を破った選手として評価したくなる。同じく日本代表で、依然としてやや粗さが残るのは浅野拓磨だ。伊東の出場機会が浅野を上回っている理由と言ってもいいだろう。 スピード系の台頭はJリーグでも目立つ。一昨季、JリーグでMVPに輝いた横浜F・マリノスの右ウイング、仲川輝人がなによりスピード系だ。スピード系がJリーグのMVPを獲得したことは、エムバペがバロンドールに輝く日が近そうな欧州の流れと、呼応していると言うべきか。