『伊藤家の晩酌』〜第十八夜2本目/お茶碗&湯呑みで飲みたい「天穏 ひやおろし 純米生詰原酒」〜
弱冠22歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 第十八夜のテーマは秋だけのお楽しみ「ひやおろし」。3本目は神様に捧げる島根県の日本酒。(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第十八夜3本目は、栗のようなこっくりさ「天穏 ひやおろし 純米生詰原酒」。
島根県出雲市にある板倉酒造の代表銘柄「天穏」。神様への供物“御神酒(おみき)”を目指す。アルコール度数18度と高めながら、すっきりとした飲み口。
「天穏 ひやおろし 純米生詰原酒」720ml 1768円(税込・ひいな購入時価格)/板倉酒造有限会社
娘・ひいな(以下、ひいな)「ひやおろし3本目は『天穏』です。知ってる?」父・徹也(以下、テツヤ)「『てんおん』って、どんな字を書くの?」ひいな「天に穏やか。島根の出雲のお酒なの」テツヤ「へぇ。出雲のお酒か」ひいな「この『天穏』を初めて知ったのは……」テツヤ「お? 馴れ初め?」ひいな「そう。私が21歳の時に、お母さんの友達からいただいたの」テツヤ「『天穏』を?」ひいな「そう。すごくおいしいお酒だなと思ったんだけど、日本酒通の人が飲むお酒だなっていう風にも感じたのね。そこから2年が経って、今ならこのお酒のおいしさを共有できるかなと思って」テツヤ「度数が18度って、結構高めなんだね」ひいな「そう」テツヤ「このシールも、雲の形になってるのいいね」ひいな「出雲のお酒だから」

テツヤ「あぁ、そうか。出雲といえば神様だもんな」ひいな「神様に捧げるお酒を造ってる蔵なの。他の『天穏』もいろいろ飲んだことがあるんだけど、このひやおろしはまたぜんぜん違う、『天穏』の新しい顔を見たなって感じた」テツヤ「このラベルと酒器が、なんとも秋っぽさを感じるねぇ。こんな背の高い湯呑みみたいな酒器で飲むの?」ひいな「そう。今回はそこがポイントなの」テツヤ「そうなんだ。でも、アルコール度数18度の日本酒を湯呑みで飲むって、なんだか危険だと思うんだけど(笑)」ひいな「まぁまぁ。『天穏』のために買ってきた、この器で飲んでほしいの」テツヤ「おいおい、なみなみ入ってるぞ!?」
たっぷりと入る湯呑みでいただきます。
たっぷりと入った日本酒を湯呑みで飲む、秋の夜。
(注)お茶を飲んでいるみたいに見えますが、度数高めの日本酒です。
ひいな「じゃ、乾杯しましょ」ひいな&テツヤ「いただきます!」テツヤ「これは結構、コクがあるね」ひいな「そうなの」テツヤ「こっくりしてるというか。でも、濃いんだけどさらっとしてもいる」ひいな「1本目の『酉与右衛門』の重心が前だったとしたら、これは後ろにあるというか」テツヤ「へぇ。後ろ重心なんだ」ひいな「いま、馬にたとえて考えてるでしょ?」テツヤ「わかった(笑)? 確かに、最初に入ってきた時より、後に来る感じわかるなぁ」ひいな「このお酒はね、ひやおろしのなかでも、こっくりとした重さで、頭一個分抜け出てると思う」テツヤ「そうだね。後ろ重心な余韻を味わおう。夜にゆっくりと、しみじみ飲みたい時にいいかもね」ひいな「秋の夜長に、ね」テツヤ「今回あえて、湯呑みにしたのってどういう意図なの?」ひいな「飲み口のぽってりさが必要かなと思って。このこっくりさを感じるためにも」テツヤ「なるほど。厚みがあったほうがいいってことか。湯呑みだったら何でもいいってことだな」ひいな「そうだね。そばちょことかもいいかも」テツヤ「あぁ、いいねぇ」ひいな「なんか、このこっくりした感じ、栗っぽさもあるよね」テツヤ「うんうん。でも酸味もフルーティさもあって。いやぁうまいね」ひいな「ゆっくり注いで、ゆっくり口に含んで味わって、飲み込んで余韻をさらに味わってほしい。蔵としても、ワイングラス、お茶碗、湯呑みで飲んでほしいとのことなんだよね」テツヤ「お茶碗で飲んでみたい! 昔の荒くれ者みたいに!」

ひいな「このお茶碗、誰が作ったか知ってる?」テツヤ「えーと……ひいなだっけ?」ひいな「ひびきが11歳の時に作ったお茶碗です。いい味出てるでしょ?」テツヤ「おぉ、そっか。お茶碗で飲むと、気分が出るよな。しかも、なんかもっとおいしく感じるっていうね(笑)」
「天穏 ひやおろし 純米生詰原酒」に合わせるのは、簡単レンチン「封筒ぎんなん」。
封筒に入れて電子レンジでチンするだけ!
ふっくら大粒!
ひいな「これのお酒はね、食事がいらないお酒だなと思ったの」テツヤ「そうだね。食後にゆっくりお酒だけ飲むのがいいかも」ひいな「そう。ちびちびと飲むのに合わせるなら、と思って、シンプルにぎんなんを合わせてみました!」テツヤ「これが来たか……!」ひいな「私が小学生の頃から、晩酌でお父さんがやってたよね」テツヤ「伊藤家の秋の定番ですね(笑)。封筒に入れて電子レンジでチンするだけの、手抜きぎんなん(笑)」ひいな「違う! 手抜きじゃないの。素材を楽しむ!」テツヤ「そういうことにしよう(笑)」ひいな「塩を振ったぎんなんを殻ごと封筒に入れて、電子レンジでチンします」テツヤ「ポップコーンみたいに爆発するから、電子レンジが臭くなっちゃんだよな」ひいな「ちょっといいぎんなんでしょ?」テツヤ「ぷっくらとしてて、おいしそう 」ひいな「なんかね、余計な味で、このお酒を邪魔したくなくて」テツヤ「なるほどね。ぎんなんの殻を剥きながら、お茶碗で酒を飲むって最高だな」

ひいな「最後にブラックペッパーを少しかけて食べようかと」テツヤ「大人味だね」ひいな「ぎんなんを食べながら、父親と『天穏』を飲むって、いい晩酌だと思うんだよね」テツヤ「娘と一緒に語りながらね。俺は幸せな父親だなぁ」

ひいな「熱々のぎんなんができましたー!」テツヤ「うわ〜、きれいなヒスイ色! あぁ、うまい! 茶碗といいぎんなんといい、気分がね、最高にマッチしてる。今回は、演出がいいね」ひいな「狙い通り!」テツヤ「いやぁ、できた娘だ。あぁ、本当にうまいよ」
日本酒の飲み方も酒器も、もっと自由になれば、さらにおいしくなる。

ひいな「この蔵について思いが強すぎて、言いたいことがたくさんあるので、もう少し聞いてもらってもいいですか?」テツヤ「はい」ひいな「奥出雲産の五百万石を使っていて、ミネラル感と渋みがあるすっきりとした酒質になりやすいんだけど、このひやおろしはそうじゃないな、と思ったの。そこがまずすごくない?」テツヤ「はい」ひいな「清らかでやさしい穏やかな酒質を目指し、飲む人の心を穏やかにするような御神酒を造りたいっていうのが蔵の思いなんだって」テツヤ「なるほど、やっぱり神様のお酒なんだな。これは確かに心穏やかになるわ」ひいな「なるよね。出雲杜氏流の吟醸造りのことを“山陰吟醸造り”っていうんだけど、神や自然に供えて、祈りを捧げる御神酒であるっていう考え方が反映させられてる吟醸造りなんだなって」テツヤ「なるほど。出雲地域特有の造り方なんだな」ひいな「『天穏』は18度もあるから、お湯と1:1で割るのもおいしくて」テツヤ「えぇ? 焼酎のお湯割りみたいに?」
荒くれ者風に片手で、くいっと。
両手を添えると、お抹茶風に!?
ひいな「はい、どうぞ」テツヤ「あぁ、こりゃいいね。ぐいぐいいっちゃう」ひいな「もともとがしっかりした酒だから。こういうこともできちゃうんだよね。たとえば、疲れてる時とかは、そのまま飲んで沁みるもよし、でも疲れてるからこそ、軽快にお湯割りで飲むのもいいと思う」テツヤ「日本酒の飲み方のバリエーション、もっと増やしたいね。氷入れたり、お湯で割ったり。もっと広めるためにも」ひいな「蔵の人が造った完成された1本を、さらにおいしく飲むために、あえてお湯で割るっていうのも悪い考えじゃないと思う」テツヤ「あとは、茶碗で飲むっていう飲み方も楽しいね。お酒飲もうぜって、お茶碗で出てきたらかっこいいよ。これからはおちょこじゃなくてお茶碗を買ってこようかな。湯呑みとか茶碗で飲んでもいいんだっていうのが新たな発見だった。もっと自由でいいんだ!ってね。そういうイベントやったら? 参加者がみんなマイ茶碗持ってくるの」ひいな「おもしろいね(笑)」テツヤ「気分が出て、いいんじゃない?」ひいな「ひやおろし、三者三様でおもしろかったね」テツヤ「うん、こんなにも違うんだね。グラデーションがあってよかったな」ひいな「よかった。今回のセレクトはね、自信あったんだ」テツヤ「1本目はさらり、2本目は燗酒、3本目はこっくり重めでね」ひいな「どれが一番好きだった?」テツヤ「俺はね、2本目の『丹沢山』が好きだったけど、印象深いのは『天穏』かなぁ。最後に飲んだのもあるけど、余韻もすごい。秋にぴったりなお酒だと思うよ」
次回:11月15日(日)更新予定
【ひいなのつぶやき】皆様もぜひ、茶碗と素朴な味わいの食べ物を用意して飲んでみてください!ひいなインスタグラムでも日本酒情報を発信中

