「たった1人だけを生涯愛しつづけること」は、すごく美しいけど、難しいと言われてしまうこともあります。

しかし、世の中には多重恋愛を認めあう「ポリアモリー」という生き方があるそうです。

今回は、「ポリアモリー」として生きると決めた、きのコさんにお話を伺いました。


【きのコ】1983年生まれ。福岡県出身。2011年に自身がポリアモリーであることをカミングアウトし、同じように悩みを抱えている人たちの居場所が広まるように発信の活動をつづけている。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』(WAVE出版)。浮気でも不倫でも二股でもない「誠実で正直な複数恋愛とは何か」について追求し、Webメディア『cakes』でポリアモリーの価値観について連載している

「ただの浮気性でしょ」と誤解されてしまうことも多いそうですが、「ポリアモリー」の恋愛観とは一体…?

〈聞き手=ほしゆき〉

「浮気」と「ポリアモリー」が違うのは、合意の有無

ほし:
きのコさん、今日は「ポリアモリー」についてくわしく教えていただければと思います! よろしくお願いします。

きのコさん:
ありがとうございます!

10年前と比べると「ポリアモリー」という言葉は一般的になってきてはいるんですが、まだまだ聞いたことのない人も多いですよね…


センシティブな話なので緊張してましたが、物腰の柔らかい方で安心しました

ほし:
きのコさんは、『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』(WAVE出版)という著書でも語られていたように、同時に複数人と交際をしていらっしゃる…ということですよね?

率直にきいてしまうんですが、「浮気」とはどう違うんでしょうか…?

きのコさん:
ポリアモリーは、複数人と同時に関係を持つことが大きな特徴なので、「浮気を肯定している」と言われてしまうことも多いんですけど…それは違うんです

浮気や不倫のように、パートナーに隠して他の人と関係をつくるわけではなく、全員から合意を得たうえで、複数人と交際をすることを大切にしています。

「本命」や「浮気相手」という優劣もありません。

ほし:
合意…って、「あなたと付き合っているけど、他にも好きな人ができたからもう1人恋人をつくってもいい?」と聞くってことですか?

きのコさん:
うん、そうそう。

ほし:
それで「いいよ」ってなるのか…!?

ポリアモリーの皆さんは、恋人が自分以外を好きになる気持ちを許せるということですか?

きのコさん:
ポリアモリーにもいろいろなタイプがあって、「自分は複数人と付き合うけど恋人には他の人を好きになってほしくない」という人もいますし、「お互いに複数の恋人がいてOK」という人もいるんですよね。

私は後者なので、恋人に「新しい恋人ができた」と言われたら「いいじゃん! おめでとう!」と応援しますし、まわりにも同じタイプの友だちが多いです。


すごい世界だ

ほし:
嫉妬してしまうことはないんですか?

きのコさん:
「自分以外と付き合わないで」という独占欲はまったくないんですが、嫉妬は日常的にめちゃくちゃあります!(笑)

ほし:
あるんだ。どういうことか、もう少しくわしくきいてもいいでしょうか…?

きのコさん:
ポリアモリーの世界では、恋人の恋人を「メタモア」と呼びます。

その、メタモアさん同士が仲良くできなくて揉めることが多いんですよ。「恋人が、新しい恋人、つまりメタモアさんとばかり遊んでいて自分が放置される」とか…

ポリアモリーとして生きるなかで、一番難しいのが嫉妬心との付き合い方だと思います。

ほし:
そういうときはどうしているんですか?

きのコさん:
まずは自分の感情を話して、寂しいならデートの回数を増やしてみるとか、メタモア同士が交流できる時間をつくるとか…具体的な解決策を一緒に見つけていきます。

私はメタモアさんと仲良くなったほうが嫉妬しないタイプなので、恋人抜きで2人で遊んだりもしていましたよ。

ほし:
(メタモアさん同士が交流…ちょっと想像できない…)


「そういうつながりができるから、ポリアモリーって幸せだなぁと思うんです」

不倫をくり返す自分に嫌悪しながらも、やめられなかった過去

ほし:
きのコさんは、どうしてポリアモリーとして生きることを決めたんですか?

きのコさん:
大きなきっかけは、離婚です。

子どものころから複数の人を同時に好きになることが多かったんですが、世間的には恥ずかしいことだし、誰にも打ち明けることができないまま大人になって…パートナーを裏切る行為だとわかっていても、どうしても浮気がやめられなかったんです。

さすがに結婚したら責任もあるし、他の人に興味は無くなるだろうと思って結婚もしてみましたが…不倫をめちゃくちゃくり返して、結局離婚することになりました。


ふ、不倫をめちゃくちゃ…

ほし:
あの…たとえば本命の人がいたとしても、他の人に惹かれてしまう瞬間って多くの人が経験してると思うんです。

でも大事なのは本命だから、その気持ちをなかったことにする。旦那さん以外への好意を抑え込むことは、どうしてもできなかったのでしょうか…?

きのコさん:
できなかった

私自身もですが、それがどうしてもできなくて、ポリアモリーとして生きることを決めた人たちは多いです。

不倫をくり返す自分自身が本当に嫌だったし、みっともないし、「心の病気だから治さなきゃいけない」とずっと思っていました。他の人への好意にフタをして、どうにかパートナーとの関係を守っていきたいと思って努力してみても、結局その我慢が後に爆発してしまって…

ほし:
なるほど…。一時期は我慢できても、結局またくり返してしまうんですね。

きのコさん:
一般的には不倫って一時的な気の迷いで、あくまで本命が大事というイメージがありますが…私の場合そういう軽さでは全然ないんです。

パートナーと優劣がつけられないくらい好きだし、大切になってしまう。



きのコさん:
離婚を経て「ずっと1人とだけ付き合っていくのは私には無理なんだ」と、痛感しました。

だけどもう相手を裏切る恋愛はしたくないから、お互いの合意のうえで複数の恋愛を認め合う、ポリアモリーとして生きられないかと思って…ポリーラウンジに行ってみたんです。

ほし:
ポリーラウンジ?

きのコさん:
ポリアモリーやポリガミー(※)に興味がある人たちが集まって、交流会をする場所です。

自分が本当にポリアモリーに当てはまるのかも明確にはわからなかったんですが…初めて自分と同じ苦しみや悩みを抱えている人たち話すことができて、本当に救われました。

こういう場所があるのなら、私は私の恋愛観のままで生きていてもいいのかな」と思えたんです。


(※)ポリアモリーは複数人と恋愛関係を持つこと、ポリガミーは複数人と婚姻関係を持つこととされています

恋愛から看取るまでのプロセスを、ずっと同じ人とだけたどらなくてもいい

ほし:
まだ法律的に日本では複数婚は認められていませんが、今後また結婚をしたいとは思いますか?

きのコさん:
うーん、今のところは考えていないですね。

日本の結婚制度をもう一度使いたいとは、とても思えなくて。

ほし:
それはどうしてでしょう?

きのコさん:
結婚制度を利用することで、税金の面で助けられる面はたしかにあったんですが、それ以上に面倒くさいことがすごく多かったんです。

社会的に「夫婦はこうあるべきである」というプレッシャーが強くて…たとえば名字。まだ男性側の名字に合わせるのが当たり前で、そうじゃないと「何かあったの?」と聞かれてしまう。

私は名字を変えるのが嫌で、当時の旦那さんは「俺がそっちの名字に変えるよ」と言ってくれていたんですが、旦那さんのご両親に反対されてしまって。



きのコさん:
当然のように「子どもはいつつくるの?」と聞かれるし、夫婦は一緒に住んでいないとおかしいと思われてしまうとか…

私は子どもを産む気はなくて、もしいつか子どもを持つのなら里親制度を利用したいなと思っているんですけど、そういうことを話してもスムーズに理解されることってほとんどなかったんですよね。

ほし:
法的に認められた「夫婦」になった瞬間、窮屈に感じてしまうことも多かったんですね。

きのコさん:
結婚制度が、いい意味で「使っても使わなくてもいいもの」になればいいなと思います。

今は自分が意識不明の重体になってしまったときに、法的に認められたパートナーでなければ手術の同意書にサインができないとか、事実婚では対応できないことも多くあるので。

逆に健康できちんとお金を稼げていれば、結婚制度を利用しないことによるデメリットはほとんどないんじゃないかな?



きのコさん:
日本で複数婚が認められるのはまだまだ先の話だと思うんですけど、そもそも私は、恋愛・セックス・同棲・結婚・出産・介護を一生同じ人とだけ乗り越えていく必要もないと思っているんです。

ポリガミーとして複数人で結婚関係を結ぶ場合、子育ても親の介護も協力できますしね。

ほし:
なるほど…

きのコさん:
SNSで発信していると、「ポリアモリーはポリアモリー同士で恋愛をしてろ」とか「自分の恋人がポリアモリーだったら耐えられない」というコメントが届くことがあるんです。

でも、私はそういう言葉を見るたびにもやっとしていて…

ほし:
傷つきますね。

きのコさん:
それもありますし…

ポリアモリーのコミュニティに興味を持ってくれる人のなかには、複数人に好意を抱くというわけではなく「将来的に1人で子育てをするのが不安だから」とか、「子どもが産めないから複数人で家族になりたい」といった思いを持っている人も増えてきているんです。

ほし:
へぇ…! 人生の選択肢の一つとして、ポリアモリー的な生き方を考えている人もいるんですね。



きのコさん:
そうなんです。恋愛対象を1人に限定する人のことを「モノガミー」と呼ぶんですが、実際、ポリアモリーとモノガミーのカップルもたくさんいるんですよ。

恋人が自分にだけ依存する関係が苦しいとか、愛しているけど1人とだけ体の関係を持ち続けることを苦痛に感じてしまう人たちも多い。

恋愛や結婚、人生に“生きづらさ”を感じる人にとって、ポリアモリーの考え方が救いになることもきっとある。だから、頭ごなしに否定されるともやっと感じてしまうんです。

ほし:
たしかにお話を聞いていると、人生の課題や悩みをうまく受け入れられるケースもありそう。

きのコさん:
日本ではまだまだ「1人を愛することだけが美しい」という考え方が多いですが、2人でいるのが苦しくなったときに、「複数人で関係を築いてみる」という選択肢が今よりフラットになることで、救われる関係もあるんじゃないかなと思うんです。



きのコさん:
もちろん、「ポリアモリーの価値観が素晴らしい!」とだけ主張したいわけではなくて、私は1人を想いつづけられることも、すごく尊いことだと思っています。

ただ、ポリアモリーという言葉自体を知らない人もまだまだ多いので、選択肢の一つとして広まっていけばいいなぁと考えています。

世の中には、まだまだ自分の知らないパートナーシップの形があるものだなぁと終始感じる取材でした。

きのコさんは「自分自身を否定せず、相手の気持ちも尊重したい」という強い思いを諦めず、長年の葛藤のもとにこの生き方にたどり着いたとのこと。

ポリアモリーを名乗って発信することで、排他的な言葉やバッシングを受けてしまうことも日常的にあるそうですが、以前のきのコさんと同じように1人で悩んでいる人たちにも「ポリアモリー」という居場所が届くように、応援していきたいと思います。

〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉