新型肺炎の集団感染が確認されたクルーズ船、そこにいたアメリカ人が「窓のない救援チャーター機」で、羽田空港を発ちました。機体は「カリッタ航空」という会社のものですが、どのような航空会社で、なぜ引き受けたのでしょうか。

クルーズ船乗客救援機「窓がないジャンボ」が選ばれたワケ

 アメリカ政府は、横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」において新型コロナウイルス集団感染が確認されたことを受け、同船に乗船していたアメリカ人旅客救援のためのチャーター機を手配、同機は2020年2月17日(月)に羽田空港を飛び立ちアメリカへ向かいました。

 チャーターされたのは、2機の「ジャンボジェット」ことボーイング747型機でした。そのうち1機は、羽田空港ではあまり見かけることのない白ベースに赤と金のラインが入ったもので、もう1機は真っ白な胴体のものです。これに加え2機とも、コックピットやアッパーデッキ(2階席)の一部を除き窓のないものでした。


カリッタ航空のボーイング747型機。元JALの「JA8171」(画像:John TaggartFollow [CC BY-SA〈https://bit.ly/2uYSdMu〉])。

 実はこの「ジャンボ」2機は、アメリカの貨物専門航空会社「カリッタ航空」が保有しているものです。つまりこれらは普段、航空貨物を運び、人を運ぶことはまれなので、窓が取り払われているのです。今回のフライトは、この機内に仮設の座席を配し実施されたそうです。

 貨物機での運航となった理由について公式的な見解は明らかにされていませんが、現地メディアなどの報道によると、機体の構造から乗客とパイロットなどの乗務員を完全に隔離することができるためという説が濃厚です。なお、カリッタ航空のこのようなチャーター便は、武漢からアメリカへも運航されています。

 とはいえ貨物航空会社であれば、フェデラル・エクスプレスやUPSなど大手の同業他社がアメリカにはあります。このカリッタ航空が、なぜこのチャーターを引き受けることとなったのでしょうか。

ユニークな側面を持つカリッタ航空が関わったワケ JALとの関わりも

 このカリッタ航空は、通常の貨物航空会社とは異なり、少し特殊な輸送業務を担うことがあります。アメリカ軍と契約を結んでおり、同空軍の部隊のひとつ、航空機動軍団のチャーター輸送を請け負うといった面も持ち合わせているのです。そのため日本でも、定期貨物便を運航する成田国際空港や中部国際空港のほか、横田基地や嘉手納基地にも飛んでくることがあります。

 今回のチャーターは救援のための輸送的な側面が大きく、行き先もアメリカの基地でした。このことから、軍との関わりが深い同社が担当したと見られています。


JALとのコードシェア初便となったカリッタ航空のボーイング747-400F型機(2019年8月、乗りものニュース編集部撮影)。

 なお同社のコンラッド・カリッタCEO(最高責任者)は、アメリカでは「伝説のドラッグレーサー」として知られているそうで、1967(昭和42)年に自らセスナを操縦し、クルマの部品を輸送したことから航空貨物輸送業を始めたといいます。

 この事業を拡大し、アメリカン・インターナショナル・エアウェイズを設立、1997(平成9)年に同社を退社したのち、新たに設立したのがカリッタ航空です。ちなみに、航空機と管制官で使われる航空会社の名称「コールサイン」は、同社CEOの愛称である「コニー」です。

 また、カリッタ航空は2019年より、JAL(日本航空)グループの9年ぶりとなる貨物便運航再開にあたり、コードシェア(共同運航)のパートナーを務めています。その初便のフライトを記念したセレモニーでは、カリッタ航空の日本代理店がカリッタCEOのメッセージを代読し、同CEOが初めて購入した「ジャンボ」ことボーイング747型機は、元JALのものであったと明かしました。

 2020年2月現在も、カリッタ航空は元JALの「ジャンボ」を保有しており、退役したJAL「ジャンボ」の再就職先のひとつとなっています。