「老後資金は2000万円不足」という金融庁の報告書が話題になったのは、2019年6月のこと。これをきっかけに、この先どうやって資産形成をするのか、真剣に考えた方も多いはず。だが、この超低金利時代。コツコツと銀行に貯金をしたところで、利息は雀の涙……。

 そこで、選択肢のひとつとして知っておいて損はないのが、“AI投資” だ。

「これまで専門性の高い知識が必要だった資産配分を、ロボがやってくれる、新しい形の投資です。初心者でも、簡単に始められます」

 そう話すのは、ファイナンシャル・プランナーで、消費生活アドバイザーの丸山晴美氏。

「業界では一般的に、『ロボアド投資』と呼ばれています。ロボというのは、金融アルゴリズムを利用したシステムのことです。『ロボット』による『アドバイス』で、銘柄選びから配分まで、全部おまかせでやってくれます。

 これまで数十年、一生懸命投資の勉強をしてきましたが、『その努力はなんだったのか』と思えるぐらい、よくできたシステムです」(丸山氏)

 ロボアド投資には、資産配分をロボに提案してもらい、運用は自分でおこなう「アドバイス型」と、運用まですべてまかせる「投資一任型」がある。丸山氏のおすすめは、投資一任型だ。

「自分で運用するとなると、どうしても個人の感情を挟むことになります。これが大きな問題で、一時的な銘柄の値上がり、値下がりに左右されて、合理的な判断ができなくなってしまう可能性が高いのです。

 その点 “ロボット” は、感情抜きで自動的に運用してくれるので、結果的に収益が上がる可能性が高い。あれこれ悩む必要がなく、時間と労力を省けることも、大きなメリットといえます」(丸山氏)

 国内の代表的なロボアド投資サービスには、「WealthNavi(ウェルスナビ)」と「THEО(テオ)」がある。ウェルスナビは預かり資産が多く、安心感ある。一方テオは、始めやすさが売りだ。

 ロボアド投資を始める際にまずおこなうのが、「WEB診断」だ。年齢や年収などの質問に答え、各自のリスク許容度に合わせたプランを提示してくれる。そして実際に投資をおこなうとなれば、最初に一定額以上を預け、あとは月々に積み立てていく、というのが一般的だ。

 はたして、AIを使えば “勝てる” のか。丸山氏が実際におこなっている投資の現状を見せてもらった。

丸山氏の実績

 丸山氏が利用しているのは「テオ」。運用開始は2018年8月。グラフは投資額に対して、運用実績がプラスかマイナスかを示している。2018年12月は米国株が暴落、8%のマイナスまで落ち込んだ。2019年8月もマイナスだったが、一気に持ち直していることがわかる。

 15カ月間、毎月2万円の積み立てで、現在までで合計30万円を投資。11月5日時点での資産残高は31万7300円、1万7300円=5.77%の “勝ち” だ。

「全部おまかせの “ズボラ投資” です。配当金なども、自動で再投資されます。

 いまはプラスとはいえ、投資というのは10年単位でやるべきもの。始めて1年しかたっていないので、私は現段階での勝ち負けは気にしません。実際、8月の時点ではマイナスでした。今後も気長に続けるつもりです」(丸山氏)

あっきん氏の実績

 運用実績の実例をもうひとつ紹介しよう。ツイッターで2万人近いフォロワーを持つ、人気ブロガーのあっきん氏(36)は、「ウェルスナビ」を利用している。

 投資開始は2017年3月。初回入金100万円と月の積み立てが3万円。2019年1月の時点で、一時的に約6万円のマイナスに。その後は元本を割り込むことなく、順調な運用が続いている。これまでの投資額は193万円だが、 10月12日の時点で206万円、13万円のプラスとなっている。

「ロボアドのメリットは、全自動で長期国際分散投資ができ、スマホひとつで瞬時に最新の運用状況や取引履歴を把握できること。

 そして、自動積立機能があり、相場が下がったときでも冷静に買いつけをしてくれるので、後で相場が回復したときに利益を伸ばしてくれます。

 初心者の方は、ロボアド投資を始めることで、自分の資産の値動きに慣れたあと、個別の銘柄を自分で買ってみるのもいいでしょう」(あっきん氏)

 あっきん氏は運用状況をブログで公開しているので、興味がある人はご参考あれ。

 ところで、ロボアド投資に批判的な意見で多いのが、「手数料が高い」ということだ。「ウェルスナビ」も「テオ」も、投資した金額に対して、1%程度の手数料を取られてしまう。

「私も最初は高いと思いました。しかし、ロボアドの運用実績を考えれば、無視できる金額だと考え直しました」

 そう語るのは、ロボアド投資関連の著書もあるファイナンシャル・プランナー・松岡賢治氏だ。

「たとえば『ウェルスナビ』の公式サイトには、初期投資100万円、月積み立て3万円で、30年後には元本1180万円が、50%の確率で2433万円になるというシミュレーションがあります。あくまでシミュレーションとはいえ、まったくの嘘ではない数字。それを考えれば、1%など微々たるものです。

 国内外のさまざまな株式や債券で金融商品のポートフォリオを組んで、すべて自動でやってくれる。投資に詳しい人が自前でおこなえば手数料はかかりませんが、普通の人にそんな知識も時間もないでしょう」(松岡氏)

 ロボアド投資では、最初にいくつかの質問に答え、「リスク許容度」を判定し、それに応じたプランが設定される。松岡氏は、「リスク許容度がもっとも高くなるようにしたほうがいい」という。

「いちばんハイリスク・ハイリターンになるように答えておくのです。ハイリスクといっても、ロボアドの投資先を全体として見れば、十分ローリスクなんです」(松岡氏)

 ちなみに前出の丸山氏、あっきん氏ともにリスク許容度はいちばん高い「5」だ。

あるけみ氏の実績

 ここまでロボアド投資のメリットを中心に説明してきたが、最後に、ロボアド投資をやめたという人物も紹介しよう。金融系サラリーマンで、ブログ「me company」を運営するあるけみ氏は、2018年2月1日から「テオ」を利用して投資を開始。

 黒い折れ線と連動するように動く、薄い折れ線は、米ドル換算した場合の評価額を示す。海外投資をおこなうので、為替レートに影響を受けることも、念頭に置いておく必要がある。

「100万円を入金して、すぐに大きな損失が出ました。その後7月に、ようやく元本を回復したので、その時点ですべて売却したのです。損失の原因、は米国NY市場のダウ平均株価の暴落。リスク許容度をいちばん高い5にしていると、米国株の割合が高くなるので、まともに影響を受けました」

 一時は、最大で9%の元本割れを起こしていた、あるけみ氏。最終的には損をしたわけではないが、引き分けに近い幕引きとなった。だが、けっして「ロボアド投資に否定的なわけではない」という。

「私は、お金の流動性を高くしておきたいのでやめましたが、長期的に積み立てていく方には向いていると思います。もし私のように、投資開始後にマイナスになっても、焦って解約はしないほうがいい。

 大事なのは、『ダウ平均株価が最高値のときに始めない』こと。逆に、ダウ平均が暴落しているときがチャンスです」

 11月に入りダウ平均株価は最高値を更新している。少し待つべきか。今すぐ始めるべきか――。

(週刊FLASH 2019年11月26日号)