1985年頃のアーノルド・シュワルツェネッガー。ボディビルの世界チャンピオンに7度も輝いた【写真:Getty Images】

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連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』33限目」

「THE ANSWER」の連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』」。現役ボディビルダーであり、「バズーカ岡田」の異名でメディアでも活躍する岡田隆氏(日体大准教授)が日本の男女の“ボディメイクの悩み”に熱くお答えする。33限目のお題は「シュワちゃんの凄さ」について。前後編でお届けする。

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 Q.若い頃、筋トレにハマったという父は、神と仰ぐほどのアーノルド・シュワルツェネッガーの大ファンです。全盛期を知らない僕にはピンとこないのですが、シュワちゃんって何がそんなにスゴイんですか?

 まず、ビルダーとしてのアーノルド・シュワルツェネッガーをリスペクトするガチビルダー勢力は、「アーノルド」と呼び、愛称である「シュワちゃん」とは呼びません。ここでは皆さんに愛されている呼称であるシュワちゃんとはあえて呼ばず、畏敬の念を込めて「アーノルド」と呼ばせていただきます。話がそれた感がありますが、これは避けては通れない部分であるため、冒頭に書かせていただきました。

 みなさん、是非、80年代のアーノルドの映画を借りて観てください。見れば全てわかります(笑)。実は今の若い人たちの間でも、アーノルドに憧れて、筋トレを始めたり、ボディビルディングの世界に踏み込んだりする人は結構な割合でいます。

 私自身も体を鍛えることに目覚めたのは、小学生の時に映画「コマンドー」を観たのがきっかけです。激走するシュワちゃん(この頃、私にとってはアーノルドではなく、まだシュワちゃんでした……笑)のめちゃめちゃ揺れている大胸筋に衝撃を受け、それ以降、「アーノルドに近づきたい」と、筋トレにハマっていきました。

 我々ボディビルダーとって、彼は父のような存在です。筋肉の父。彼を知らない今の若い人たちも、アーノルドの影響を受けた僕らに影響を受けていますから、孫みたいなものですね。そう考えると、彼は筋肉の元素と言ってもいい。筋肉に魅せられた我々は「アーノルド・シュワルツェネッガー」という一つの原子からできているといっても、過言ではありません。

 では具体的に、アーノルドの何がスゴイのか?

半世紀前に人類の理想形として完成した肉体を作り上げたアーノルド

 彼は7度もボディビルの世界チャンピオンになりましたが、まず体のバランスが完璧です。活躍したのは、1970年代と今から約半世紀も前ですが、当時、すでに人類の理想形として完成した肉体を作り上げています(バズーカ的には)。現代はトレーニング器具の性能も上がり、体に与える影響もだいぶ進化しています。しかし、アーノルドは今のような器具がないなかで、そしてサプリメントも、研究による情報も圧倒的に少ないなかで、完璧な、美しい体を作り上げている。今まさに取り組んでいる私からすると、「自分は一体どうしたらいいんだ? なんて情けないんだ!」という気持ちです。

 現代のトップクラスのビルダーが彼より圧倒的に勝っているのは、脚です。脚の筋肉量は今のビルダーの方がかなり大きいですからね。でも、残念ながらデカすぎてちょっと気持ち悪い。もちろん、ビルダー的には「よくつけたな」と感服しますが、美しくはないんですよね(バズーカ的には)。一般的な美の感覚でいうと、アーノルドの筋肉の付き方がかっこいい。人類が求める筋肉美はアーノルドがとっくに極めてしまったなと感じます。

 もう少し細かく言うと、まず上半身の形がすごくカッコいい。彼の上半身は理想的な「Vシェイプ」、つまり逆三です。しかも、「V」の形も美しい。逆三角形を作るには、肩、広背筋のアウトラインが重要です。腰から肩からに向かってしっかりワイド感があり、背中もものすごく広い。肩の丸さも理想的です。

「Vシェイプ」は、ある程度、条件が揃っている恵まれた体でないと綺麗には実現できません。アーノルドのような低い位置から広がる背中をローラット(高い位置の人はハイラットという)といいますが、ウエストからグーッと斜め上に広がり、マントを広げているようなシルエットになる。トレーニング方法の成果もありますが、広背筋の付着部が下までこないと、どうやってもこのシルエットにはなりません。

 さらに、体の正面を見ると、ボディを構成する大胸筋から、それに連なる腹筋の輪郭が「V」の字を刻んでいる。上半身全体もV、パーツもVと二重の逆三体形なのです。

 そして、幼い私が衝撃を受けた大胸筋です。まず、面積が広い。まさに「北斗の拳」のキャラクターや「仮面ライダー」と同じスクエアで、大きな面積を持つ大胸筋です。逆に彼らの大胸筋は、アーノルドをモデルにしたんじゃないか!? と思うぐらいに、かっこいい。大胸筋が(左右に)すごく長いという体の才能もありますが、昔のアーノルドのトレーニング映像を見ると、横に広がるトレーニングもやっている。やはり才能だけでなく、努力の賜物です。

まさに国士無双、「筋肉の形」の才能を全部持っていたアーノルド

 また、アーノルドの力こぶを見ると、二頭筋のピーク(盛り上がりの頂点)が異常なほど高い。ピークが高すぎて尖がっているという、他ではほぼ見たことのないインパクトがある二頭筋です。日本だと、ジュラシック木澤選手、相澤隼人選手ぐらいでしょうか。

「筋肉の形はトレーニングで変えられる」。これが私の基本的な考え方です。しかし、体のすべてを塗り替えられるような変化はさすがにありません。アーノルドは、「こんなんだったらいいなー」という「筋肉の形」の才能を全部持っています。肩と腕のバランス、胸の形、腕の二頭のピークの高さ、そして下から大きく広がる背中。“筋肉の形の才能”というカードがこれだけ配られ、しかも配られた才能を完璧に磨き上げている。今のトップクラスの選手でも、2、3枚のカードは持っていても、彼のように5枚揃っているような人はほぼいません。ポーカーでいったらロイヤルストレートフラッシュ、麻雀でいったら国士無双です。

 体の才能がないと絶対に作り上げることができない究極の肉体美を持ち、ポージングで見せる技術も高く、しかも顔までいい。そして、政治家で活躍するほどの知性もあり、カリスマ性まで兼ね揃えている。全ての男は、アーノルドに憧れて、自分磨きをするべきです。

 なるべくしてなったレジェンド。それがアーノルドなのです。

(後編に続く)(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。

岡田 隆
1980年、愛知県生まれ。日体大准教授、柔道全日本男子チーム体力強化部門長、理学療法士。16年リオデジャネイロ五輪では、柔道7階級のメダル制覇に貢献。大学で教鞭を執りつつ、骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名でテレビ、雑誌などメディアでも活躍。トレーニング科学からボディメーク、健康、ダイエットなど幅広いテーマで情報を発信する。また、現役ボディビルダーでもあり、2016年に日本社会人ボディビル選手権大会で優勝。「つけたいところに最速で筋肉をつける技術」「HIIT 体脂肪が落ちる最強トレーニング」(ともにサンマーク出版)他、著書多数。「バズーカ岡田」公式サイトでメディア情報他、日々の活動を掲載している。