@AUTOCAR

写真拡大 (全5枚)

「Fast」は「Fan」を構成する要素のひとつ

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

新しいケイマンGT4が最速のケイマンではないという事実は、ポルシェの本社、ヴァイザッハに伝わる魔法のひとつ。エンジンは新しい4.0Lの自然吸気フラット6で、カレラGTや918スパイダーなどの限定ハイパーカーは別として、ミドシップのポルシェとして400psを超える出力を獲得した初めてのクルマなのに、不思議に思えるだろう。

スペックシートをみると低回転域のトルクが太く、PDKパドルシフト・トランスミッションを搭載したことで、控えめなGTSの方が100km/hまでの加速は速く、162km/hまでの加速もほぼ同等。2.5Lの4気筒ターボを批判する向きもあるが、メリットもちゃんとある。だが、ポルシェの生み出す「GT」は、スペックがすべてではない。

ポルシェ718ケイマンGT4

モータースポーツ部門は、「Fast」はあくまでも「Fan」を構成するひとつの要素として考えている。直線スピードだけが速さではない。もし単純にスピードを求めるだけなら、自然吸気の4.0Lエンジンよりも強力なパワーをGTSに搭載されている2.5Lの4気筒ターボから絞り出すこともできたはず。トランスミッションもPDKのままとすれば、開発予算も抑えることができたはず。

しかしポルシェはそうしなかった。GTを名乗るポルシェに相応しいのはフラット6で、費用もかさむものなのだ。トランスミッションはマニュアルで、GT3と同じフロントサスペンションを備えている。ただし、PDKは追って選べるようになるだろう。

1.0L当たり100ps以上の自然吸気エンジン

インテリアはいつも通りのポルシェ的仕立てを得ている。アルカンターラで覆われ、GT4のエンブレムが配され、テスト車両にはオプションのカーボンファイバー製レーシングシートも備わっていた。だが、このクルマの真価はキーを捻って6気筒エンジンを目覚めさせるまではわからない。フラット4の心拍数ではないことに喜ぶかもしれないが、目覚めた一発目のブリッピングで、脳みそが吹っ飛ぶ可能性も少ない。

1.0L当たり100psを超える自然吸気エンジンだが、排気音は比較的静かで、パワー感もフレキシブルだから扱いやすい。回転音からは本気を出す前のモンスター的な迫力も感じられるが、このユニットのすべての力が解き放たれるのは、911 GT3に搭載されてから。ケイマンGT4の場合、9000rpmより1000rpm低い回転数に留められている。

ポルシェ718ケイマンGT4

仕上がりは、日常的な通勤快速として用いるのなら爽快に違いない。エアコンもクルーズコントロールも、デジタルラジオもひとしきり揃っている。時々、GTに乗っているということを忘れる快適性もある。

だが完璧でもない。4.0Lのフラット6を搭載したケイマンに期待する、尖った部分が薄いのだ。本来ならもっと訴えかけてきて欲しい。完全に満たされることがなく、なんとなく普通っぽくもある。先代のケイマンGT4を運転してからだいぶ間が空くから、その時の感覚や印象はだいぶ薄れているが、先代よりも特別感が少ないように思える。

その理由のひとつとして80kgの重量増にもあるはずだが、それ以上にクルマ全体として、より扱いやすい設定を獲得していることにもあるだろう。決して悪いことではないのだけれど。

情熱的で急進的な回転フィール

そんな気持ちのままパワーを解き放つ。ケイマンGT4の楽しさのひとつに、そのモヤモヤした気持ちを上書きできるところがある。パドルシフトとターボが外されたことによる仕上がりは驚くべきもので、最近まで忘れていた感覚が呼び起こされる。目立ったボディキットを備えているが、先代のGT4と比較して、ダウンフォースは半分程度に留まっている。

最大トルクはレブカウンターが5000rpmを迎えるまで発生しないから、スタートダッシュは猛烈というわけではない。振り返ればケイマンGTSの場合、1900rpmだった。このGT4はドライバーが積極的にドライブしなければ、鋭くは走らないということ。ギアを数段下げて回転数を上げて、パワーバンドを掴み、リアタイヤに蹴り出させる。ステアリング・ホイールの裏にはオートブリップのボタンが付いているから、助手席の同乗者には自分でスロットル操作をしているように見えるだろう。

ポルシェ718ケイマンGT4

エンジンは見事な仕上がりだ。8000rpmというレブリミットに当てるまでもなく、回転の高まりは情熱的で急進的で、驚かされる。回転数は8000rpmを超えて、さらに高まろうという勢いも伝わってくる。恐らく911ならそれが可能なのだろう。

マニュアルトランスミッションのレシオ設定は先代GT4と同様にロング過ぎるが、変速時のフィーリングは基本的に完璧。動作も速く滑らかで、機械的なアクションの重さ感が心地いい。こんなクルマで変速を繰り返す楽しさは、なんと表現したらいいのだろうか。

速く楽しく、極めて親しみやすい

MTと自然吸気のエンジンの組み合わせであっても、パワートレインはあくまでもケイマンの秀逸なシャシーを支える側にある。標準装備のミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2タイヤが生むグリップレベルは無限と思えるほどに高く、むしろオプションでより硬く滑りやすいタイヤが選べても良い。電動パワーステアリングも、現存する中で一番のできと思える。

これらが融合することで、どんなチャレンジングな道であっても扱いやすく、息を呑むようなスピードで、狙った通りの精度で、滑らかにGT4は駆け抜ける。アルピーヌA110を上回り、わたしが今まで運転したミドシップ・スポーツカーの中でもベストの振る舞いだと断言できる。

ポルシェ718ケイマンGT4

丁度いいリミテッド・スリップデフの効きが、コーナー進入時には穏やかにアンダーステアを生む一方で、コーナー出口では欲しいだけのオーバーステアを提供してくれる。リアエンドの動きは想像通りに過敏だが、挙動はリニアだから、捉えて補正もしやすい。

新しいケイマンGT4は、理想のポルシェGTへと導いてくれる、ほぼ完璧な入り口のクルマだ。速く楽しく、ありえないほどに親しみやすい。一方でポルシェとしては、それが優れたクルマであっても、さらにもっと優れたクルマが欲しくなるような味付けが必要となる。GT4のオーナーが走りを追求して卒業すれば、今度は911 GT3というさらに懐の深い受け皿が待っている。ポルシェならではの魔法で、良い仕事をしたといえるだろう。

ポルシェ718ケイマンGT4のスペック

価格:13万500ポンド(1696万円)
全長:4456mm
全幅:1801mm
全高:1269mm
最高速度:304km/h
0-100km/h加速:4.4秒
燃費:9.1km/L
CO2排出量:251g/km
乾燥重量:1420kg
パワートレイン:水平対向6気筒3995cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:420ps/7600rpm
最大トルク:42.7kg-m/5000rpm
ギアボックス:6速マニュアル