第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト・永濱利廣氏

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■給料を左右するのは海外要因

給料が上がる業界、下がる業界。それを占うために、まずは足元の経済環境を整理しておこう。まず認識すべきは、当面は国内より、海外要因の影響を大きく受けるということである。

米国の大統領選は世界経済に影響するビッグイベントだが、それより早く、大きなインパクトになったのが、ブリグジット、英国のEU離脱だ。ご存知のとおり、ブリグジットによる株価の大幅下落、円の急伸と、金融市場は混乱している。英国は日本企業にとって欧州における拠点であり、日本企業の進出先としてはアメリカに次ぐ数となっている。EU域内でのビジネスにおいて英国に拠点を持つことはメリットが大きかったが、それがなくなることを踏まえ、移転を検討すべきか、ではどこに拠点を移すべきか、英国に追随する国もあるのではないか……と、先行きには多くの不透明な要素がある。しばらく、日本企業は混乱が続くとみられる。

円の急騰も企業業績にかなりのダメージがある。日本企業はおおよそ110円前後を想定レートとしているが、7月8日現在の為替レートは100円と、想定レートを大きく上回っている。 アベノミクスでは金融緩和によって円安を誘発し、輸出企業が業績を伸ばしてきたが、円高によって利益が大きく削られる。円高はインバウンドにも逆風であり、円高になるほど、海外からの旅行者は負担が重くなり、旅行者数にも影響するし、爆買いも期待しにくくなる。

では、プラスの材料はないのか。

4年後に迫った東京オリンピックは、明らかにプラス材料である。1984年のロサンゼルス大会以降に先進国で開催されたオリンピックでは、開催が決まってから7年間の経済成長率はその前の7年間に比べて年平均0.3%押し上げられている。ブラジルは景気が冷え込んでいるという声も聞こえるが、オリンピックがなければさらに状態は悪かったのである。東京オリンピック五輪の経済効果は3兆円と推計されているが、インフラなど含めれば生産誘発額は13兆円程度が見込まれる。最も成長率が高くなるのは開催の前の年であり、今から3年後の2019年、ということになる。そこをピークに、開催の年には息切れするのが通例で、2020年には前年比で成長率が下がると予想される。

足元では円高による影響も避けられないが、インバウンドを取り込める業界にとって東京オリンピックはプラスの要素だろう。鉄道では「ななつ星」などの豪華列車が好調だが、国内需要のみならず、インバウンドの取り込みも期待できる。ただし、長期的にみると国内は人口減少という足かせがあるので、国内の需要の減少をインバウンドで補う、というのがせいぜいか。

■当面は外需より「内需に強い業界」

以上の要素を総合すると、当面は外需より内需、ということになる。

給料アップが期待できる業界を具体的に挙げれば、「建設・不動産」だろう。 東京オリンピックでも一定のインフラ整備が行われるし、熊本地震など、被災地にもインフラや住宅の需要がある。

政策関連でも、給料に関わる幾つかの業界が挙げられる。まず1点は、「介護士」や「保育士」。慢性的な人手不足で高齢者の受け入れ先がない、待機児童が解消できないといった構造的な問題に直面しており、政策的に賃金引上げが図られる。ただ、もともとの水準が低く、介護では40歳時平均年収が432万円と、ほかの業界と較べて低年収である(『会社四季報 業界地図 2016年版』より)。水準が低いところからの小幅な賃上げ、ということであり、必ずしも「給料が上がる=高収入になる」ということではない。

また先ごろ政府が閣議決定した一億総活躍プランでは、「同一労働同一賃金」が目玉になっている。非正規雇用であっても、同じ仕事をしているなら賃金を正規雇用者と同じにする、つまり、非正規と正規の賃金格差をなくす、ということである。これが進めば、非正規として働いている人の多くは給料が上がる、ということになるだろう。逆に、非正規の人の賃金を上げるため、正規雇用の賃金は上がりにくくなる、という側面は否めない。

■人口減少は人手不足より「需要不足」が深刻

長期的には人口減少が給料に響く可能性は非常に高い。

ここ数年、一部のサービス業では人手不足に悩まされており、飲食業などではアルバイトの時給を上げている例もある。人口が減れば仕事にあぶれないと考える人もいるが、それは一時的なことであり、人口減少によって消費が減ることのほうが遥かに問題は大きい。

消費が伸びなければ生産の必要性が下がるし、高齢者の割合が増えることで現役世代の社会保障費負担が増し、ますます消費は落ち込む……という負のスパイラルが待っている。日本では抵抗が強いが、移民を受け入れて労働力を確保し、その人たちにも消費してもらう、納税してもらう、社会保障費を負担してもらう、ということを本格的に考える必要がある。

では数年先の給料はどうなっているのか。次回お話ししたい。

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永濱利廣(ながはま・としひろ)
第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト
1971年、栃木県生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。95年早稲田大学理工学部卒業後、第一生命入社。日本経済研究センター出向などを経て、2000年より経済調査部に異動。16年より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、一橋大学大学院商学研究科非常勤講師、跡見学園女子大学非常勤講師などを兼務する。主な著書として、『経済指標はこう読む』『日本で一番やさしい「アベノミクス」超入門』『知識ゼロからの経済指標』など多数。

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(永濱利廣=談 高橋晴美=聞き手、構成)