則本昂大に5イニング。星野監督の「捨て身の采配」は吉と出るか
2勝2敗で迎えた日本シリーズ第5戦。今シリーズ初の延長戦となった一戦は、2−2で迎えた10回表に楽天が銀次、A・ジョーンズのタイムリーで2点を勝ち越し、試合を決めた。ただ、この試合の最大のポイントは、楽天2点リードの6回裏からマウンドに上がった則本昂大への継投だろう。則本は、巨人の村田修一に本塁打とタイムリーを許して同点に追いつかれたが、5イニングを投げ抜き勝利投手となった。第1戦に先発した則本をリリーフで起用した星野監督の采配は、評論家の目にどう映ったのか。かつて星野監督のもとでプレイし、第2回、第3回WBCで日本代表の投手コーチを務めた与田剛氏に解説してもらった。
「星野監督は捨て身の采配」に出た。楽天が接戦を制した第5戦の投手起用を見て、そんな印象を強く持ちました。この日の楽天のキーマンは2点リードの6回からリリーフに立った則本です。第1戦に先発し、田中将大に次ぐ柱である則本をできれば間隔を空けて先発で使いたい。だが、今シリーズの楽天投手陣を見ると、リードした試合でリリーフを任せられるのは則本しかいない。それが6回から5イニング、79球のロングリリーフになってしまいました。
戦前から楽天のリリーフ陣の不安は指摘されていました。だから、先発の中から誰かがリリーフに回ることはある程度予想できました。その中で、星野監督が最も信頼を寄せている田中がその役を果たすだろうという声が多かったのですが、星野さんが指名したのは則本でした。
これには、田中が投げる試合は絶対に落とせない、万全の状態で先発として使いたいという星野監督の思いが強くあったはずです。そこで則本をリリーフ待機させて、試合展開によって登板させるという結論になったと思います。
そしてもうひとつ挙げるとすれば、則本のリリーフの適性です。今シーズン、則本は早い回にKOされた翌日にリリーフで登板したことがありました。これは中日時代から星野監督がときどき使うやり方で、戒めの意味も多少あったと思いますが、球数の少ないまま次の登板を迎えるよりも、少しでも投げた方が肩も張っていいんです。それに、その投手の回復力を知る判断材料にもなる。そうしたことから出た結論が、則本のリリーフだったのでしょう。
星野監督の過去の日本シリーズの戦い方を振り返ると、比較的シーズン中の戦い方にこだわってきた印象があります。それが今年は違う。日本シリーズだけでなく、リーグ優勝決定の試合や、クライマックスシリーズでも田中、則本をリリーフで使いました。とにかく勝ちにいく試合は、先発の柱をリリーフに回してまで絶対に取る。こうした起用にはちょっと驚きましたが、それだけ今シーズンの短期決戦に期するものがあったのでしょうね。
結局、第5戦は、巨人が星野監督と楽天の気迫に押されたような試合でした。9回裏に同点に追いつかれた直後の10回表の攻撃。この回の先頭打者は投手の則本でした。普通に考えれば、この場面は代打でしょう。でも、星野監督は則本をそのまま打席に立たせました。おそらく、いちばん驚いたのはマウンドにいた西村健太朗だったと思います。代打が出てくると予想していたところに、投手がバットを持って出てきた。「絶対にアウトにしなければならない」という気持ちが力みを生み、コントロールを乱して四球になってしまったんだと思います。
その西村ですが、9回から登板してこの回が2イニング目。先頭の則本を歩かせ、バントで進められたあと、2番の藤田一也にも死球を与えるなど、明らかに動揺している様子でした。でも、巨人ベンチは交代に踏み切れなかった。
その理由として挙げられるのが、日本シリーズは延長15回までということです。巨人は、すでに澤村拓一、山口鉄也を使っており、もし西村を交代させれば信頼できるリリーフはマシソンしかいない。しかも、10回裏の攻撃では投手に打席が回るため、代打を立てなければならない。そう考えれば、10回は西村でいくしかありませんでした。
セオリーにとらわれず捨て身の勝負に出た楽天と、リスクを冒さなかった巨人。これが明暗を分けましたね。
場所を再び仙台に移して行なわれる第6戦は、第2戦で投げ合った田中と菅野智之が再戦します。前の試合の結果から考えれば楽天有利にも思えますが、追い詰められた巨人は総動員で来るはず。もし7戦までもつれれば、則本が第5戦で79球を投げたことが響いてくるかもしれません。まだまだシリーズの行方はわかりません。
阿部珠樹●構成 text by Abe Tamaki

