【小林 拓矢】オワコンと呼ばれた多摩ニュータウンに光…子育て世代が住みやすい街「多摩センター」に起きている大転換
「郊外のニュータウンは衰退し、人は都心に集中している」という話が、最近あまりに言われすぎてはいないだろうか。
確かに豊洲などタワーマンションが林立する地域には、子育て世代をはじめ人があふれている。だが、東京圏では郊外でも多くの人が生活しており、ファミリー世帯が多く居を構えるエリアは決して少なくない。多摩センターも「衰退した」と言われながら、実態としてはむしろ繁栄している街のひとつである。
その繁栄ぶりは、印象論だけではない。多摩センター駅周辺の地価は2013年まで下落が続いていたが、2014年から上昇に転じ、2026年の公示地価(平均)は1平方メートルあたり26万2166円、前年比+4.14%という上昇を記録している。十年以上続く上昇トレンドは、多摩センターが単なる懐古的なニュータウンではなく、いま選ばれている街であることを示している。
子育て世代を意識したまちづくり
ある土曜日、実際に多摩センターを訪れると、駅周辺の人通りは多かった。とくに印象的だったのは、ベビーカーを使う親子連れの多さである。「住民の高齢化」が課題になっているという話がウソのようだ。
駅を出ると、京王電鉄・小田急電鉄の多摩センター駅からパルテノン多摩へ向かって、レンガ敷きの坂道が続いている。段差のある箇所にはスロープが設けられ、迂回できるよう配慮されている。
多摩ニュータウン自体は1971年から人が住み始め、1974年10月に京王多摩センター駅、75年4月には小田急多摩センター駅が開業した。これにより、都心で働きながらニュータウンで暮らすというライフスタイルが定着していった。このモデルはすでに50年以上の歴史を持つようになったが、当初に入居した世代の高齢化という課題ばかりが、現状では強調されすぎている。
現状の多摩ニュータウンは少しずつリニューアルを重ねてきている。とくに街の中心である多摩センター駅周辺は、地元自治体である多摩市と東京都がまちづくりに力を入れており、その結果、子育て世代が集まるようになった。
市はとりわけ多摩センター地区の活性化に力を入れている。2022年7月には「パルテノン多摩」の大規模改修を完了させ、2023年7月には多摩市立中央図書館が開館。多摩中央公園のリニューアル事業も続いている。周辺には高層住宅が多く立ち並び、自動車道路と交差することなく、住宅から公園・商業施設・駅へと移動できる構造になっている。
ただし、「多摩ニュータウンは衰退している」という指摘そのものが完全に的外れというわけではない。東京都自身、初期入居地区では団地の老朽化、住民の高齢化、近隣センターの活力低下といった課題が顕在化していると認めている。
「初期入居地区」とは、1971年の第一次入居開始以来40年以上が経過した諏訪・永山・愛宕・和田・東寺方・貝取・豊ヶ丘などのエリアを指す。
ただ、これらの地区でも近年、団地の建て替えが進行中だ。UR都市機構の諏訪団地では老朽化した住居棟の解体・建て替えが進み、2025年には新棟への入居が始まった。都営住宅でも諏訪四丁目団地や東寺方団地などで建て替えが進められている。
多摩地方全体は急速な高齢化が進み、2023年には高齢化率が29%まで急上昇、23区に比べて大幅に高齢者が増えている。2020年時点では多摩市の年少人口(14歳以下)割合は11.3%と周辺市より低いというデータもある。
商業・文化施設が集積する多摩センターエリアは、ある種多摩ニュータウン全体の中でも異なる位置づけにあり、駅周辺で進む再投資と、初期入居地区が抱える課題とは分けて見る必要があるだろう。
ファミリーへのアピールに熱心な多摩市
多摩市はいま、子育てがしやすい街であることを熱心にアピールしている。市のホームページによれば、多摩市は一人当たりの公園面積が都内で最も広い自治体だという。
サイトでは「ご家族で公園を散策したり、広い公園でお子さんと思いっきり遊んだり」と紹介されており、夏には水遊びも楽しめる。都市と緑が調和し、街全体が公園のようになっていることを前面に押し出している。さらに、歩行者と車道を分離したニュータウンならではの利便性も、アピールポイントのひとつだ。
実際に多摩センター駅周辺を歩くと、メインストリートは歩行者が中心で、信号がなく自動車を気にしなくていいのが非常に快適だった。ベビーカーが多くみられるのも納得がいく光景である。多摩中央公園には多くの子どもたちが集まっており、子育て世代を意識したまちづくりは、すでに成功しているといえるだろう。
こうした環境整備は、行政面でもあらわれている。認可保育所の待機児童数は、2019年4月時点で77人だったが、計画的な定員増員により2024年4月には7人まで減少した。さらに2022年4月には「多摩市子ども・若者の権利を保障し支援と活躍を推進する条例」を施行し、子育て支援を「サービス」ではなく「権利」として位置づけた。
空き家・空き室数の推移にも変化が表れている。市が2024年度に実施した調査では、市内の空き家・空き室数は2016年度から13%減少した。市によると、20〜30代の子育て層を中心に転入が増加しており、利便性と自然環境が共存する住環境が評価されているという。
もっとも、多摩市の人口増は自然減を上回る社会増によるもので、その社会増は過去の大規模マンション建設に連動して動いてきた。となると、京王プラザホテル多摩跡地の再開発のような次の一手が、今後の人口動態を左右し続けることになりそうだ。
ユニクロ、無印、ニトリ…「理想のチェーン」がそろう街
多摩センターは、文字通り「多摩の中心」として、拠点性のある地域をめざしてきた。
それゆえに京王プラザホテル多摩があり、百貨店もあった。百貨店のビルには1989年に多摩そごうが開業したが、2000年に閉店。同年11月には、その跡に三越多摩センター店と大塚家具多摩ショールームが入った。2010年末に大塚家具が立川郄島屋へ移転して閉店すると、翌2011年4月にその跡地(3〜5階)が専門店街として整備され、現在の「ココリア多摩センター」がスタートした。
ココリア多摩センターは、いまや約110店舗で構成される地域密着型ショッピングセンターとして運営されている。地下1階が食品フロア、1〜5階は無印良品・ユニクロ・GU・ニトリ・丸善書店などの大型専門店が並ぶ。イトーヨーカドー多摩センター店が近くにあることを意識した食品構成となっており、「北野エース」などの高品質スーパーも入居している。
2023年9月にはリニューアルを実施し、無印良品が売り場面積を従来の約3倍に拡張してリニューアルオープン、GUが新規出店した。無印良品には一部店舗のみ取り扱う冷凍食品コーナーも新設され、生活者向けの品揃えがさらに充実した。三越や大塚家具があった時代と比べると、現在のショッピングセンターのほうが普段使いに便利なのではないかと感じる。
さらに、7階には「CoCoプレイス」という保育室付きのコワーキングスペースがある。子どもを隣の保育室に預けながら作業できる設計で、2018年の開設以来、子育て中の親世代から支持されている。かつての百貨店フロアにこうした施設が入っているという事実は、多摩センターが消費する場所から生活の拠点へと転換したことを象徴している。
この間、多摩モノレールの整備で多摩地域南北の移動が容易になり、もともと拠点性の高い立川エリアに人が吸われる構造が生まれた。多摩センターが百貨店を維持できなくなった背景にはこうした都市構造の変化がある。一方で多摩エリアには大学が多く、多摩センターには学生が集まりやすくもなった。
なお、京王プラザホテル多摩の跡地は、商業施設と分譲マンションからなる複合施設に建て替えられる予定だ。京王電鉄の発表によると、「多摩センター駅前に新たなランドマークを開発することで賑わいを創出し、新たなファミリー層・若年層を流入させる」という。ニュータウン外からの流入や、ニュータウン内での住み替えを意図したもので、2028年度の開業を予定している。
多摩センターエリアは商業地域というより「生活の中心」へと変化していくことで、街を新しくしようとしている。だがそれが可能なのは交通網の利便性が非常に高いからだ。多摩センターをめぐる交通網とは、どんなものなのだろうか。
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【つづきを読む】『激変する多摩ニュータウンを支える3路線…京王・小田急・モノレールが生んだ「多摩センター」の強さ』
