退場処分「阪神・藤川監督」の猛抗議と「壁ドン」のウラにあった冷静な計算
「審議している時間が長かったですし」
阪神の藤川球児監督(45)は10日のソフトバンク戦で就任後初めて退場となった。リクエスト後のリプレー検証でも判定は覆らず、異議申し立てを行ったことで退場を宣告される形となった。リプレー検証後の抗議はご法度ゆえに、むしろ積極的に退場を狙った感もあるほどだが、藤川監督の狙いは何だったのか。
問題の場面は7回の攻撃で1死一塁から、熊谷敬宥内野手(30)が二盗を試みるもタッチアウト。藤川監督はリクエストを行ったがリプレー検証後も判定は覆らず。ベンチを出て抗議を行ったため退場が宣告された。
試合後、藤川監督はその場面を記者にこう振り返っている。

「審議している時間が長かったですし、アンパイアの方も迷いがあったと思うし、リプレーセンターの方も難しかったのかなと思いますけど、やっぱりグラウンド上の両チームは真剣にやっていますから、こういうことはチームの代表としてはね」「(異議はルール違反と承知の上でか、との質問に)勝負ですからね。みんなが全力で真剣に戦っているのがプロ野球の舞台ですから。そういう時も時にはあるでしょうし。冷静ではありましたけど、審判の方に侮辱であるとかそういうつもりは一切ありません」
審判団は相当迷っていた
スポーツ紙デスクによると、
「連敗中ということもあって藤川監督の表情はこの日すぐれませんでしたが、だからと言ってイラついただけの抗議ではなさそうです。あの形で抗議を行えば退場になるということは織り込み済みでベンチを出て行ったようです。退場宣告後にベンチ内のホワイトボードを右手で殴って行きましたがそれも含めてチームを鼓舞する意図があったことは事実でしょう。が、それよりも明確な狙いがあったと聞いています」
とのこと。狙いとは?
「藤川監督の試合後のコメントにある“審議している時間が長かったですし、アンパイアの方も迷いがあったと思うし、リプレーセンターの方も難しかったのかなと思いますけど”がヒントになると思います。リプレー検証の結果が出るまでにかかったのは5分ほどで、これは通常より相当長い。審判団は相当迷っていたこと、もう少し踏み込むと当初のアウトの判定を覆すだけの根拠を見つけられなかったのではないかということが推察されます」(同)
藤川監督としては
交流戦前に日本野球機構(NPB)と12球団による理事会、実行委員会が開かれ、今季から導入されたリプレーセンターについて「交流戦前の5月25日までで、リクエストは179件で約2分かかっていた平均検証時間が約30秒短縮された」との報告があった。1分半に対して今回の5分というのは確かに長い印象は否めない。
センターには各試合の中継映像を見ることができる画面が設置され、現役の審判員2名が常駐する。リプレーセンター設置の主旨は「公平性の確保」「判定精度の向上」「審判員の負担軽減」などとされる。センターにはモニターが並んでいるのだが、1つの試合を多くのモニターで監視するわけでも、センターの審判員の側から各試合に介入するわけでもない。
「藤川監督としては判定基準を明確にしてほしかったということのようです。“アウトかセーフか判断がつかなったから”レベルでももちろん良いのですが、責任審判がヘッドフォンでセンターとそれなりの時間やり取りし、その内容は可視化されないということはファンあってのプロ野球として問題ではないかという異議申し立てですね」(同)
岡田ルール
監督退場の翌日、阪神の嶌村聡球団本部長はNPBにアウト判定の理由を求める確認書を提出したことを明かした。嶌村氏は取材に対して次のように述べている。
・球団として下された判定について異議申し立てるということではない。
・検証に時間が長くかかったことも含めてアウトの根拠を教えてほしい。どういう映像を見たのかも。
・藤川監督が退場処分になるのを承知の上で抗議しているのだから、球団としても重く受け止めて、確認書を出せていただいた。
阪神のこうした形の抗議には先例がある。後に「岡田ルール」とも呼ばれるレギュレーションができるきっかけになった当時の岡田彰布監督の抗議がそれだ。
その当時を振り返っておこう。2023年9月、阪神・熊谷は2盗を試みた。遊撃手はバランスを崩し、足が2塁ベースを完全にふさぎ、熊谷のスライディングをブロックするような格好になった。一旦はセーフ判定とされたが、相手チームのリクエストでアウトに。岡田監督は納得できず、猛抗議したが実らなかった。
ルールの空白地帯
NPBではコリジョン(衝突)を防止する「コリジョン・ルール」はすでに採用されていたが、当時は本塁のみの規定で、送球を野手が処理しながらのブロックは故意ではないなどと判断されれば走塁妨害とはならなかった。
審判団による「故意ではないから走塁妨害には当たらず、走者アウト」というのはもちろんルールに基づいた説明ではあったが、接触する余地がないほどブロックされたベースにどうやって到達しろと言うのか? 体当たりで野手を力づくで弾き飛ばすしかないのでは?……などといった指摘に抗弁する余地もまたなかった。いわば、ルールの空白地帯が露呈したケースと言えるかもしれない。
岡田監督の抗議を受け、阪神はセ・リーグに対して意見書を提出した。その後、タイミング的にセーフなのにベースにタッチできずにアウトとなった場合、「ブロッキングベース」という形でセーフとされるルールが適用されることになった。
責任審判が根拠を明示するくらいの
「『岡田ルール』とは事情が違いますし藤川監督が大きな改変を求めているということはないでしょうが、球団本部長が話したように責任審判が判断の根拠を明示するくらいの変更はあるかもしれないですね。固唾をのんで見守っているファンに何ら説明をしないままゲームを進めることを是として良いのかという話につながっていると思います」(同)
サッカーのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)やラグビーのTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)はVARやTMO側からの能動的な介入がある。「介入が多すぎる」などの批判はあるし、誰もが納得する判断が下るわけではもちろんないが、フィールド上の審判員とセンターの画面の前にいる審判員とのやり取りなどディスクローズされる部分が大きければそれだけファンもいくらか納得するはずだ。野球に限らないが、相手チーム、審判、そしてファンがいなければ成立しないというのは間違いない。
デイリー新潮編集部
