ささやかな老後の夢、散る。〈小遣い月3万円〉真面目な62歳会社員、“家族のために働いてきた”はずが…妻が差し出した通帳「とんでもない中身」
家計は妻に任せ、自分は限られたお小遣いでやりくり。自作のおにぎりでランチ代を切り詰め、「真面目にやっていれば、安泰な老後が来るはず」と踏ん張っている会社員も多いのではないでしょうか。ところが、そんな“献身”の末に迎えるはずの「アガリ」を目前にして、すべてが崩壊することも。見ていきましょう。
真面目な会社員、月3万円のお小遣いで暮らす日々
都内の専門商社に勤める誠さん(仮名・62歳)の会社員人生は、残りわずか。28歳で結婚して以来、妻の美紀さん(仮名)は専業主婦として家庭を守り、2人の子どもを育て上げてきました。
誠さんは真面目な会社員でした。年収はピーク時で850万円ありましたが、自分のお小遣いは月3万円だけ。毎日、自作のおにぎり2個を持参し、水筒の茶で喉を潤す日々。服や靴はギリギリまで買い替えず、飲み会も断ってきました。そんな質素倹約を何十年も続けてきたのです。
60歳の定年を迎えると、年収は450万円へと激減。仕事の責任は減りましたが、モチベーションを保つのは難しいものでした。いわば、会社員人生の「アディショナルタイム(追加時間)」のような5年間。65歳の完全リタイアまで、平和に時が流れるのを待っていました。
「これだけ真面目に働いて、物欲も我慢してきた。静かな老後を送れるまで、あと少し頑張ろう」
この先、穏やかで経済的に困らない日々が約束されている。漠然とそう思っていました。
差し出された通帳、まさかの残高
「ちょっと、話があるの」
ある夜、神妙な面持ちの美紀さんが差し出した通帳。そこに記されていたのは、わずか150万円という数字でした。
「これが、うちの全財産です」
誠さんは言葉を失いました。家計管理は美紀さんにすべてお任せでした。2年前に出た退職金1,800万円の多くをローンの返済に充てたとはいえ、長年の貯蓄があるはず。問い詰める誠さんに、美紀さんは事実を告白し始めました。
子どもが手を離れた後、美紀さんは地域のサークル活動に参加するようになりました。そこで出会った仲間たちの楽しそうな暮らし。一方、夫は自分の殻にこもり、会話らしい会話もありません。
「私の人生って何なんだろう。子育てが終わったら、もう何も残っていない」
そんな虚しさを埋めるように、美紀さんは自分の身なりを整え、交際費にお金を使い始めたのです。ハイブランドのバッグやジュエリー、百貨店での買い物。「いつも素敵ね」と仲間に言われるたびに、自己肯定感が上がっていきました。
誠さんは、美紀さんの変化に気づきません。一方で、減り続ける残高と誠さんの収入が激減した焦りから、美紀さんは最悪の選択をしてしまいます。SNSで知り合った投資グループの言葉を信じ、退職金の残りと貯蓄を未公開株の詐欺につぎ込み、一瞬で溶かしてしまったのでした。
「私だって、この家のために増やそうと思ってやったのよ。あなたの稼ぎが減ったから……」
泥沼の応酬「私に興味なかったでしょ」
「なんで一言も相談しなかったんだ」と怒りで震える誠さんに返ってきたのは、謝罪ではなく、積年の恨みがこもった反撃でした。
「相談? あなたはいつも『任せる』って、家計を見ようとしなかった。私がどんな思いで毎日過ごしているか、一度でも気にした? 何一つ興味を持たなかったあなたに、私を責める資格なんてないわ」
「俺は稼いで、少ない小遣いでやってきた。家計を守るのがお前の仕事だったはずだ、俺のせいにするな!」
お互いが、“お前のせいで人生が壊れた”と主張し合うリビング。泥沼の応酬でした。
最後の希望は残されているが…「心の亀裂」の行方
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)」によると、二人以上世帯・60代の平均貯金額は2,026万円、中央値は700万円です。一方、誠さん夫婦の貯金はわずか150万円。このままでは、老後破綻は目に見えています。
しかし、二人には最後の希望が残されていました。「都内のマイホーム」です。すでにローンは完済。この家を売却すれば、まとまった現金が手に入るはずです。住み慣れた家を失いますが、金銭的な破綻だけは回避できる道は残されていました。
しかし、激しくののしり合った末にできた心の亀裂を、どこまで修復できるかは、まだわかりません。
「これからどうするか、ちゃんと話をしよう」
そう声をかけると、美紀さんは小さく頷きました。二人が残された家という資産を手に、もう一度本当の夫婦に戻れるのか。話し合いは始まったばかりです。
誠さん夫婦のように、妻(夫)が家計の手綱を握り、夫(妻)は毎月決まったお小遣いでやりくりするというスタイルは、昔からある家計管理方法の1つです。しかし、「片方に任せっきり」にしてしまうことが、取り返しのつかない状況を生むこともあり得ます。
相手を信頼していても、定期的な資産状況の共有は欠かさないこと。家にお金を運ぶことだけで役割を果たしたと思い込み、財布の紐と一緒に「家族への関心」まで丸投げしてしまっていないか。時々見つめ直す必要があるのかもしれません。
