「すぐにでも旧姓に戻したい」「書類に名字を書くたび胸が痛む」…結婚を機に『妻の名字』に変えた“激レア男性”が語る後悔
〈高市政権で遠のく『夫婦別姓』、世界からは「明らかに人権問題」と批判が…“どちらかを選べる”のに、日本の夫婦がほとんど「夫の名字」を選ぶ残念過ぎるワケ〉から続く
法務省によると、世界の中で唯一「夫婦が同じ姓にする義務がある国」である日本。ここ数年は選択的夫婦別姓制度の議論が進んでいるものの、政府は「旧姓使用の法制化」を推進。旧姓のみを公的書類に記載できるようにする「旧姓単記」の法整備を目指すとされているが、実現性は不透明だ。
【写真】妻は「国内に500人」のレア名字…結婚で「妻の名字」へと変更した男性・金山さん
同じ姓にしなければならないことで、割を食っているのが女性だ。内閣府の調査によると、2024年に婚姻届を提出した夫婦(48万5092人)のうち女性が姓を変えているケースが約94%と大半を占めた。この数字は長年ほぼ変わっていない。
そんななかで、非常に稀少と言える妻の姓を選んだ男性たちは、何を思い決断したのか。 今回の記事では結婚を機に姓を変えた男性2人のインタビューをお届けする。

結婚を機に妻の姓に名字を変えた男性たち、中には激しく後悔している人も…… 画像はイメージ ©masamasa3/イメージマート
「全国に約500人」レア名字の妻と結婚した男性
30代の会社員、金山さん(金山は旧姓)は、「選択的夫婦別姓が可能だったら、私自身は別姓を望んだと思います。ただ、妻の考えは異なっていましたし、自身の改姓にはメリットもあると考えたんです」と話す。
2021年に結婚した金山さんは、結婚へのこだわりがなく、事実婚でもいいと考えていた。しかし、パートナーは子どもを望んでおり、法律婚をしたい意思があったため、結婚を決めた。
「私も妻も女兄弟しかいないため、お互いに『名字の存続』は自分次第という状況でした。妻でなく私が改姓したのは、『これまでの慣習に安易に従いたくない』『当事者意識を持つには、実際に体験するのが一番だ』といった考えが強いですね。男性に最適化された社会構造のなかで女性の気持ちを理解するのは非常に難しく、改姓を通じて女性が置かれている立場を少しでも理解できればと考えました」
それ以外にも改姓の決め手があった。妻の名字が金山さんと妻の思い出の場所である飛騨高山エリアの白川郷にゆかりがあること、2万5000人以上いる金山に対し、妻の名字は国内に約500人しかいないこと、そして、「改姓すると、どんな感じなのだろう」という純粋な好奇心があったことだ。
「実際に改姓してみて、どう感じたか?」と金山さんに質問してみた。すると、「実は、あまり改姓を意識する機会がない」と返ってきた。
「職場では旧姓を使っていますし、友人にもほとんど話していません。というか、男同士の会話だと、『結婚した』と伝えても名字の話にはならないんですよね。改姓に気づかれるのは、レストランを訪れた際に『予約した〇〇です』と新しい名字を名乗ったときぐらい。すると、友人から『え?』という反応が返ってきて、そこで初めて『結婚して名字を変えたんだよね』と話します。あとは友人の結婚式の席次表とか。改姓に対しては、『新鮮だな』という前向きな感情が今でもありますね」
最近、1歳半になる子どもが保育園に通い始め、保育士から改姓後の名字で呼ばれるため、意識する場面が増えてきたところだという。
「先祖への思いやりがない」と父に激怒されたケースも
2024年に結婚した30代の男性会社員、遠藤さん(仮名)の妻は、「どうしても名字を変えたくない」ひとりだった。結婚前の話し合いでは、「女性だからという理由で、慣れ親しんだ名字を変えたくない。だから事実婚にしたい」と希望していたという。
「正式なパートナーとして認められたい」という思いが強かった遠藤さんは、相手の思いを受け入れ、自身が名字を変えることを選んだ。しかし、それを両親に報告すると全く想像していなかった反応が。「父の言葉を聞いて愕然とした」と遠藤さんは振り返る。
「私自身も改姓に抵抗がなかったわけではありません。できるなら夫婦別姓にしたかった。ですが、それ以上に正式な結婚がしたかったんです。そうした思いを両親に伝えたところ、父親から『男性が名字を変えるなんてありえない。おまえは遠藤家を大事にしていない。先祖への思いやりが足りていない』と強い言葉で非難されました。父親に男尊女卑の価値観があるように感じられ、強いショックを受けました」
遠藤さんは、父親の反応を妻に伝えることができなかった。彼女は、日頃から「女性の人権」に対する問題意識を抱いており、遠藤さんもその価値観に強く共感しているのだという。
「私にも、女性の社会進出や自由を応援したい思いがあります。だからこそ『名字を変えたくない』という妻の思いもすんなりと受け入れられました。止むを得ず、半ば無理やり婚姻届を提出して両親に事後報告したのですが、父はある条件を突きつけてきたんです」
その条件とは、以下の3点だ。
1、公の場では「遠藤」を名乗り、改姓したことを周囲に言いふらさない
2、選択的夫婦別姓が導入されたら、即座に「遠藤」に戻す
3、子どもが生まれたら、子どもの名字を「遠藤」にする(遠藤家に養子縁組をする)
「会社では旧姓を使い続けていますし、できるなら別姓にしたかったわけで、1と2については問題ありません。ですが、3については断固拒否しました。私は一人っ子であり、遠藤家が途絶えることが悲しいという父の気持ちはわかります。しかし、子どものことを全く考えていない条件を突きつけてきたことに、非常に残念な気持ちになりました」
「すぐにでも旧姓に戻したい」「書類に名字を書くたびに胸が痛む」
最終的には、「理解してくれないなら親子の縁を切ることも考える」と伝えると、父親はようやくあきらめたというが、互いにしこりが残ってしまったという。
「父は、親戚に『息子を取られた』などと話しているようで、それを聞いて、また悲しくなりました。私自身も、改姓に納得はしているものの、書類などに新しい名字を書くたびに胸がズキッとするような複雑な思いがあります。夫婦別姓が実現するなら、すぐにでも旧姓に戻したいですね」
慶應義塾大学 文学部 阪井裕一郎と一般社団法人あすにはによる「選択的夫婦別姓、事実婚当事者の意識調査」によれば、改姓を負担に感じ結婚を待機している人数は、日本全国で58万7000人と推計されるそうだ。
選択的夫婦別姓の法制化に向けて活動する一般社団法人「あすには」の代表理事・井田奈穂氏によると、海外で結婚の手続きをすることで別姓のまま夫婦として認められているケースもあるという。
「高市総理が進めている『旧姓の法制化』は、夫婦別姓を望む人たちの思いを阻むことになります。海外別姓婚は現在の抜け穴的な方法ではありますが、資金力がないと難しい。さらに、医療や保険の分野で正式な家族として認められない事例もあります。本質的な解決策とは言えません」(井田氏)
海外では夫婦別姓を認めない日本の制度を人権侵害と見る向きもある。世界の極東で、歪な夫婦制度が咲き誇っている。
(小林 香織)
