大谷翔平は10時間、あなたは何時間?朝型夜型も遺伝 自分に必要な睡眠時間の調べ方
「春眠暁を覚えず」。春の夜は心地よく、朝が来たことにも気が付かないほど、ぐっすり眠ってしまう……中国の詩人・孟浩然はそう詠んだ。しかし今、その春ですら心地よい睡眠を得られていないのでは?と悩む人が増えている。未だ解明されていないことが多くあるそうですが、睡眠とは何か、快眠には何が重要なのか、睡眠不足の先に待っているものまで。まずは筑波大学で睡眠についての研究を行う、柳沢正史教授に話を伺いました。
【快眠のA to ZZZその1】柳沢教授、教えてください。よい睡眠はなぜ必要なんですか?「よい睡眠は健康の一丁目一番地なんです」
筑波大学にある研究室。
「こんにちは。今日はこの取材の後、学生たちと飲みに行くので、今日の睡眠は捨てています。一日くらいどうってことないです。人生そんなものでしょ。はははは」と世界有数の睡眠学者である柳沢教授が豪快に笑いながら登場しました。
教授、さっそくですが古来より、”春眠暁を覚えず”、と言いますけれど、この時期はぐっすりと眠りやすいのでしょうか。
「それは結構難しい質問ですね。生物学的にわかっているのは、季節ごとに人の睡眠は変化すること。冬は長く寝て夏は短いんです。夏は早くから明るくなるのが、その理由です。睡眠学の観点からいうと”春眠の時期”の問題は花粉症。鼻が通ってないと睡眠は悪くなります。花粉症対策をしましょう」
さて、寝てしまうのは気を失うのと同じこと。よく眠れている、眠れていない、質がよい、悪い、何をもってしてわかるんでしょうか。
「まず私が言いたいのは、睡眠に関しては主観と客観は時に大きく乖離するということ。むしろ感覚はまるであてにならないという論文を、昨年出しました。
主観/客観の問題で、いちばんまずいのは睡眠時無呼吸症候群。4分に1回(=1時間に15回)以上止まる潜在患者が、日本には900万人いるとされます。一度は医者に行ってもらいたいレベルなんです。無自覚でも命懸けで眠っています。
重症の睡眠時無呼吸を放置した場合の心血管障害による致死率は、下手なガンより高いのです。脳波を測るとすぐにわかるので、多くの人に客観データを測ってほしいです」
睡眠時間は遺伝が決めるって本当ですか!?
「質がよい睡眠」の定義とは、主観的には
1.寝つきがよい
2.朝までぐっすり
3.起きたときにスッキリ
客観的には
4.深睡眠(ノンレム睡眠N3)もレム睡眠も長く取れている
5.睡眠の推移が安定している
6.中途覚醒が少ない
と柳沢教授は言います。
ところが、「質を上げる、とよく言いますが、私に言わせればまず量が足りてない。質でどうにかなると思わない方がいいレベル」と警鐘を鳴らします。
お言葉ですけど教授、では何時間寝ればよいのですか。大谷翔平選手は大人なのに10時間寝ると聞きますが、寝過ぎじゃないんですか?
「まず、親の身長を受け継ぐよりも、睡眠時間や睡眠パターンは遺伝の要素が大きいことがわかっています。朝型か夜型かというものがあって睡眠相と呼びます。これはその人がどの時間帯に活動するのが向いているかですが、遺伝で決まります。ネットで『朝型夜型質問紙』と検索すればQ&Aが出てくるのでやってみてください」
遺伝ならしょうがないですね。
「その上で、自身が何時間寝ればちょうどよいのか知るための実験があります。やり方は簡単で、4日間、眠れるだけ眠ってください。家族に邪魔されず、誰にも起こされず、目覚まし時計もかけない。自然に起きるまで眠り続ける実験です。1度目覚めても眠たければ2度寝、3度寝をしてください。これ以上無理なところまで眠り続ける。その時間を書き留めてください。
そうすると、初日は、働き世代の多くは睡眠負債(日々積み重なった睡眠不足の総量)を抱えていますので多く眠ります。そして、だんだん短くなり、3〜4日目に同じくらいの時間に落ち着いてきます。この落ち着き先こそが、あなたにとって十分な睡眠時間というわけです」

睡眠量や睡眠パターンは、遺伝の要素が大きい
己を知るために、やってみる価値は大いにありそうです。
「ぜひ。そして大谷選手は、私のアセスメントでは、少しロングスリーパー寄りの人だと思います。加えて、トップアスリートとして、むちゃくちゃ体を使っているので、睡眠欲求が増えるんです。肉体疲労がありますので。それが相まって1日10時間くらい眠っているんでしょう。平均よりはかなり長めだと思います。
ちなみに昨今流行のショートスリーパーは、実際には極めて稀な遺伝子変異で、人数はとても少ないのです。”自称ショートスリーパー”は単に無自覚な睡眠不足ですし、人体には全くよくないです」
「都市伝説化」を信用せず、情報は更新しましょう
ひと晩のうちに、すやすや眠る「ノンレム睡眠」と、夢を見る睡眠である「レム睡眠」が交互に現れることをご存知の読者も多いことでしょう。
ラピッド・アイ・ムーブメント睡眠(目玉が速く動く睡眠)の頭文字REMと、それがないという意味の「ノン」がついてできた言葉です。人は入眠するとドーンと深いノンレム睡眠となって、グラフはジグザグと浮かんだり沈んだりしながらも、睡眠前半戦はノンレムが多い。後半戦(朝方)はレム睡眠が増えてきてノンレムは浅くなる。これが人体。
最初の深い眠りのときに成長ホルモンが出ることも知られていて「寝る子は育つ」の諺の由来もそこだし、骨、筋肉や皮膚の修復&メンテが行われ、記憶の整理も行われます。
ただし、最新理論では「かつてよくいわれた、最初のノンレムの間に成長ホルモンがドバドバ出る『ゴールデンタイム』は都市伝説で、ひと晩の睡眠すべてが大切です」と教授は言います。
「睡眠は、深い睡眠だけじゃダメ。回復できない。浅い睡眠も含めて、全部大事だとわかってきました。それと、90分サイクルで刻むのがいいというのも都市伝説です。睡眠リズムは1時間や2時間は平気で揺らぎます。1時間半の倍数で寝起きしても意味はないです。残念ながら」。
浅い睡眠とされてきたレム睡眠の最新研究の注目点は、「そんなに浅くない。かなり深いです。この状態のときに骨格筋の力が全部抜けるんです。そういう意味では筋肉はレム睡眠中にいちばん休んでいるとも言えます」

睡眠は質よりも量が大切です。とにかく睡眠を
ところで、レム睡眠時は夢を見ることが知られてますが、夢を見ちゃうとぐっすり眠れてないってことでしょうか。
「違います。レム睡眠時は、呼吸筋と眼筋を除く全身の骨格筋が脱力します。目がキョロキョロ動くのは夢の情景に応じているからとされています。そして、夢は8割がネガティブな夢(悪夢)です。その値打ちは、現実に起こりうるやばいシチュエーションの予行演習で、それによってストレス耐性がつくと考えられています」。
ネガティブな夢はポジティブだった。これも奥が深い言葉ですね。
「夢を見るのはぐっすり眠れてないのではなくて、十分にレム睡眠が取れている証拠です。いいことかもしれない。レム睡眠が5%減るごとに死亡率が13%上昇する研究結果もあります」
ともかく、いい睡眠なくして健康なし、というメッセージは強く伝わってきました。
「睡眠は未病の一丁目一番地なんです。全ての健康要素の最上流にあるのが睡眠です。0次予防です。社会の制約もいろいろあり、起床時間を遅らせることは難しいでしょうけれど、ぜひとも質よりも睡眠量の確保を意識していただきたいです。みなさん、眠らなさすぎです!」
まだまだ睡眠について教えてください!
Q.深睡眠が長く続けばよい眠りと言えますか
A.睡眠負債が溜まっていて脳が悲鳴をあげ、深睡眠(ノンレム睡眠N3)が増えているのかもしれません。また、鮮明な夢を見つつ全身の脱力が起こるレム睡眠も重要なのです。
Q.夜たっぷり眠れないと昼寝をしていいですか
A.大人は長い昼寝を取らないほうがいいと思います。昼に寝ると、夜眠れなくなりますから。パワーナップ(短い仮眠)は、あくまでも夜の睡眠時間が確保できない時の緊急避難です。一般的に昼の方が入眠に時間がかかります。すぐに眠れる人は、それだけ昼間の睡眠プレッシャーが溜まっているわけで、寝つきのよさは自慢になりません。またパワーナップは20分くらいを目処に。それ以上だと深い眠りに落ちるので、目覚めが悪く、しばらくボーッとしてしまうことも。昼寝前にコーヒーを一杯飲むのは有効な手段で、効いてくるころに目が覚めます。
Q.柳沢先生は日頃、どれくらい眠っていますか
A.睡眠コアタイムと定めているのは0時から7時で、ショートでもロングでもないですね。私の密着番組を作った若いテレビディレクターが、寝る間を惜しんで朝4時まで編集作業をしていましたが、私と時間を過ごして8時間眠るようになったところ、編集作業が半分の時間できるようになったそうです。社会生活上、起床時間はなかなか自由になりませんから、みなさまが入眠時間を早くできることを期待します。
Q.ベッドでのスマホは厳禁なのでしょうか?
A.光は睡眠の大敵なので、入眠に向かって部屋全体を暗くしていく必要がありますが、スマホは、ナイトシフト(夜モード=ブルーライトをカットして画面が黄色めになるモード)を使えば問題ないです。とはいえ、ゲームやSNSなど双方向のもの、ショート動画のような交感神経を刺激するものは絶対NG。かくいう私も、つまらない論文のPDFを読むと最初のパラグラフで眠くなるので(笑)、入眠時にスマホを使っています。
睡眠学者:柳沢正史教授

睡眠学者:柳沢正史教授
柳沢正史(やなぎさわ・まさし)/1960年、東京生まれ。医学博士。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(略称IIIS)機構長。株式会社S’UIMIN取締役会長。
1998年に、覚醒を司る脳内物質「オレキシン」を発見。睡眠/覚醒の仕組みや突発的に入眠する睡眠障害ナルコレプシーの解明に貢献する。TV、YouTubeの出演も多いほか、『今さら聞けない睡眠の超基本』(朝日新聞社)を監修・出版するなど、より良い睡眠への社会発信を続ける。
中国の詩人・孟浩然(もうこうねん)

中国の詩人・孟浩然(もうこうねん)
689年〜740年。唐時代を代表する詩人。襄州に生まれ各地を放浪しつつ、李白、王維といった詩人たちとも交流を深めた。日本では”春眠暁を覚えず”で始まる五言絶句の「春暁」が有名だ。
【Column】脳波を測定、解析し睡眠を計測してみよう!

脳波の測定
柳沢教授が代表を務めているS’UIMINでは、インタビュー内に出てくる睡眠時の脳波を計測、AIで解析。専門家によるアドバイスを加え、利用者の睡眠状態の改善に努める睡眠計測サービス「inSomnograf(インソムノグラフ)」を実施中だ。
睡眠検査は専門家が診る本格検査で、医療機関での申し込みが必要。簡易体験はwebで申し込みとなっている。その後は、いずれも筑波大学と共同で開発した計測器を使い脳波を計測という流れだ。まずはweb で計測体験をし、不安がある場合は本格検査とするのがよいだろう。検査機はレンタルなので、気軽に計測してみては?
[詳細]HP:http://suimin.co.jpまで
撮影/鵜澤昭彦、取材/輔老心、イラスト/倉本トルル
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
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※月刊情報誌『おとなの週末』2026年4月号発売時点の情報です。
