消費減税か給付〈一本化〉か──「シンプル化」へ傾く“物価高対策”の制度設計【国際税務の専門家が解説】
現在、消費減税や給付付き税額控除の制度設計をめぐる議論が大きな転換点を迎えています。今年4月に開催された「社会保障国民会議」の有識者会議では、政府が3つの制度イメージを提示しましたが、会議では「給付に一本化すべき」との意見が目立ちました。本稿では、過去の実施政策の経験を踏まえながら、制度の簡素化と実務負担の軽減を重視した方向へと進みつつある議論の流れを確認します。
政府が示した3つの制度イメージ
消費減税や給付付き税額控除の制度設計を審議する「社会保障国民会議」の有識者会議が、2026年4月21日に開催されました。この場で政府は、「制度の執行イメージと論点」として、次の3案を提示しました。
第1の案は、雇用主が従業員の年末調整時に税額控除を適用し、控除しきれない分について公的機関が給付を行う仕組みです。自営業者などについては別途対応するとされています。
第2の案は、確定申告や賦課決定の際に税額控除を適用し、不足分を公的機関が給付するものです。
第3の案は、申告情報などに基づき、公的機関が給付のみを行う仕組みです。
これらの案に対し、有識者会議では「給付に一本化した方がシンプルである」との意見が多く、給付付き税額控除そのものへの賛同は限定的だったと報じられています。
過去の政策に見る「給付」と「減税」の違い
今回の政府案は、過去の経済対策を踏まえたものと考えられます。
2020年の新型コロナ対策では、全国民に一律10万円を給付する特別定額給付金が実施されました。減税ではなく給付に一本化されたこの施策は、約12兆8800億円規模に達しました。
一方、2023年の定額減税では、1人あたり4万円の税額控除が実施され、規模は約3.3兆円でした。ただしこの制度は、税額控除に加え「定額減税補足給付金」が設けられるなど、複雑な二本立てとなっていました。住民税非課税世帯など減税の恩恵を受けにくい層に対して、世帯主へ10万円、18歳以下の子ども1人あたり5万円が給付されています。
このように、給付のみの制度と、減税と給付を組み合わせた制度とでは、仕組みの複雑さに大きな違いがあります。
実務負担が浮き彫りにした課題
特に問題となったのが、制度運用に伴う事務負担です。
イメージ1および2のような税額控除を伴う仕組みでは、企業の経理担当者や自治体に大きな事務負担が生じることが想定されます。実際、2023年の定額減税では、この点が強い批判の対象となりました。
財務省も、企業や自治体に過度な負担を課したことが制度への不満につながったと分析しているとみられます。
その点、イメージ3の給付一本化案は、こうした実務負担を大幅に軽減できる可能性があります。ただし、給付対象者の所得制限などの具体的な設計については、現時点では明らかにされていません。
「給付一本化」で規模は縮小か
今回の議論の流れを見る限り、消費減税や給付付き税額控除の検討は後退し、給付に一本化する方向へと進む可能性が高まっています。
仮に給付一本化となれば、政策規模にも影響が及びます。食料品の消費税率をゼロにした場合、年間で約5兆円規模の減税効果が見込まれますが、給付方式であればこれより大幅に抑えられる可能性があります。
制度の簡素化と迅速な実施を優先するのか、それとも減税による広範な恩恵を重視するのか――。今後の制度設計は、そのバランスが問われる局面に入っています。
矢内一好
国際課税研究所
首席研究員
