◆【エピソード2】朝の繁華街で始まった出勤前の攻防戦

 山本由香さん(仮名・20代)は、出勤前に職場近くのコインパーキングを探していた。雑居ビルが立ち並ぶ繁華街の細い道を進んでいたとき、前を走っていた黒いセダンが突然ハザードをつけたという。

「止まるのかなと思って減速したら、急にバックしてきたんです。ぶつかると思いました」

 慌ててブレーキを踏むと、セダンは山本さんの前方右手の駐車場に滑り込み、すれ違いざまに大音量のクラクションを鳴らした。

「鼓膜が“ビリっ”ってしたくらいの音でした。繁華街なので、正直、“その筋の人”かもって思いました」

 そのセダンは再び動き出し、今度は山本さんの後方に張りついた。車間を詰め、左右に車体を揺らしながら挑発してきたのだ。

◆軽自動車の機敏な動きで逃げ切った

「早く逃げたいけど、繁華街って道が狭いし人も多い。下手にスピードを出したら事故を起こすと思いました」

 焦る気持ちを抑え、山本さんは“あえて低速”を維持したという。そして、通勤ルートを変え、裏道へハンドルを切った。

「軽自動車のよいところは、小回りがきくことです。相手はセダンだから、狭い道ならついてこれないかもって思ったんです」

 角を曲がると、開店準備中の飲食店の前にワゴン車が止まっていたそうだ。スタッフが荷物を運んでおり、道幅はさらに狭くなっていた。

「バックミラーを見たら、黒いセダンは見えませんでした。通れなかったみたいで、後ろから別の車がきて詰まっていましたね」

 山本さんはそのまま路地を抜け、目的のコインパーキングへ到着。車を止めた瞬間、緊張がほどけたようだ。

「心臓はまだドキドキしてたけど、恐怖よりも“冷静でいられた”っていう安堵感のほうが大きかったです」

 勤務時間まで少し余裕のある時刻を確認し、ようやく落ち着いたという。

◆■ 「一発で免許取消」になる妨害運転罪の重すぎる代償

今回、老紳士の機転や山本さんの冷静な判断によって回避されたトラブル。もし警察が介入し、相手の行為が「あおり運転(妨害運転罪)」と認定された場合、その代償は単なる「反則金」では済みません。

2020年の法改正以降、あおり運転に対する罰則は極めて重くなっています。

【あおり運転(妨害運転罪)の主な罰則】

罰則: 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金
(※高速道路で停車させるなど、著しい危険を生じさせた場合は5年以下の懲役 または 100万円以下の罰金)

行政処分: 免許取消(欠格期間2年)

エピソード1の男性が警察を前に沈黙したのは、単なる気まずさからではありません。あおり運転は「交通反則通告制度(青切符)」の対象外であり、検挙されれば即座に刑事罰の対象となる「前科」と、生活に直結する「免許喪失」がセットで付いてくる。そのあまりに重い現実に直面したからに他なりません。

また、妨害運転罪に至らないまでも、車間距離を詰める行為自体が明確な道路交通法違反となります。

【車間距離不保持違反の反則金(普通車)】

高速道路:9,000円
一般道路:6,000円

さらに、エピソード2のケースで執拗に鳴らされた「大音量のクラクション」についても、意外な違反が適用されます。

【警音器使用制限違反の反則金(普通車)】

反則金:3,000円

クラクションは、危険を防止するためや「警笛鳴らせ」の標識がある場所以外で鳴らすことは禁止されており、威嚇目的で使用すれば明確なルール違反です。たった3,000円の反則金で済む話かもしれませんが、それがきっかけで「妨害運転」の捜査に発展すれば、前述の重い罰則が待ち構えています。

警察庁の最新の統計傾向によれば、あおり運転の検挙件数は一般道が高速道路を上回る状態で推移しており、その多くはドライブレコーダーの映像によって立証されています。

「急いでいたから」「道を譲らなかったから」といった自分勝手な理屈は、法廷では一切通用しません。老紳士が静かに諭したように、怒りに怒りで返さず、第三者(警察)の目線を入れること。そして山本さんのように、冷静にその場を去ること。

この「賢い回避術」こそが、GWのドライブを台無しにしないための、最も有効な護身術と言えるでしょう。

<取材・文/chimi86 再構成/日刊SPA!編集部>
(出典:「令和7年版 警察白書・交通統計」ほか警察庁の統計より)

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。