森の暮らしの執筆スタイル――作家・小川糸のとっておきの話
〈「私のいとしきキッチン」――作家・小川糸のとっておきの話〉から続く
『いとしきもの 森、山小屋、暮らしの道具』の刊行を記念して開かれた未来屋書店須坂店でのトークイベントで、都会から森の生活へ移った小川さんがどのように執筆しているのか、お伺いしました。
【写真】この記事の写真を見る(5枚)
◆◆◆

執筆中でも、ゆりねちゃんに「抱っこして」と言われたら断らないようにしている。撮影:榎本麻美
太陽の動きとともに暮らす
――ダイニングルームのすみっこにデスクがあるんですが、こちらでご執筆されるのですか?
小川 そうですね、仕事はだいたいここでやっています。
――仕事をされる時間は決まっていますか?
小川 はい。午前中だけです。午後は家の雑用的な仕事をしています。基本的には、太陽の動きとともに、暮らしたいなと思っています。
――東京から長野へ移って、執筆するのに集中しやすくなったというような変化はありましたか?
小川 時間の使い方や流れ自体はそんなに変わっていないんですけれども、ただ、すぐ一歩外に出れば、森の自然があるので、気分転換がしやすくなったな、と思います。
作品誕生につながる森の暮らし
――ここで、せっかくの機会ですので、会場の皆さんの中で小川さんに質問がある方はいらっしゃいますか?
観客 森での生活をする中で、執筆されているときに、いいインスピレーションを受けたといったエピソードがありましたら教えてください。
小川 そうですねぇ。周囲の自然は常にいろんなものを見せてくれるんです。一日に1回はどこかで「うわぁ! きれい」と思わず叫びたくなるような感覚になります。それは山や空を見ても同じで、いやなことやモヤモヤした気持ちも本当にそれですべてが吹っ飛ぶ。そういう意味では、日々、美しさを見せてもらっているなっていう気がします。そしてそれが作品につながっていると感じます。
観客 作品に出てくる主人公は身近にいる方だったり、糸さんご本人だったりするのでしょうか?
小川 身近にいる人をそのまま書くってことはあまりないんですけど、この面白くて素敵な人が、こういう仕事をしたらどういうふうになるかな、と人物像を膨らませたり、こんな人が傍にいてくれたらいいよね、という理想的な人物を主人公にすることがすごく多いです。
観客 ご著書の中で、『ファミリーツリー』が好きなんです。開運堂(長野県松本市)の「白鳥の湖」というお菓子が出てきたので、自分でも頂いてみたらとても美味しかったんですが、長野の地元のお菓子を作品に盛り込むことをされているんですか?
小川 はい。私は最初、友人から「白鳥の湖」をお土産でいただいたんですけれども、なんて品がいいお菓子で、見た目もかわいらしいし、すごくいいなと思って、作品の中にも登場させました。
そして今はせっかく長野県に住んでいるので、おやきを広めたいと思っていて、その研究をしているところです。
――ご自身でおやきを作っていらっしゃるんですか?
小川 たまに作ります。今日も来るときにおなかがすいたので、買ったおやきを食べてきました。おやきの世界は、蒸したり、焼いたり、あるいは蒸したものを焼いたりと、地域によって作り方に違いがあって奥が深いし、簡単に食べられていいものだな、としみじみ思います。
――小川糸さん、どうもありがとうございます。
「いとしきもの」についてお伺いできて充実した時間でした。本書にも森の美しい写真がたくさん掲載されておりますが、自然豊かな地元・長野の良さに、皆さま改めて思いを馳せられたのではないでしょうか。
この本を読んで、ぜひご自分の「いとしきもの」を見つけていただけたら嬉しいです。最後に、小川さんからメッセージをいただけますでしょうか。
小川 はい。同じ県内で、長野の方にお会いするのを楽しみにしていました。同じ地域に住んでいて、共通の部分で感じたりできる皆さんとお会いできたということを嬉しく思っています。本当にありがとうございました。 (拍手)
(小川 糸,「文春文庫」編集部/文春文庫)
