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文化庁が2024年9月に公表した令和5年度「国語に関する世論調査」によると、1ヶ月に1冊も本を読まないと答えた人が全体の6割を占めていたそうです。そのようななか、ジャーナリストである清野由美さんは、「書店業界では『本屋さんがなくなる』悲観論ばかりが叫ばれている」と語っています。そこで今回は、清野さんの著書『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』から一部抜粋し、シェア型書店「ほんまる」など3軒の書店を経営する直木賞作家・今村翔吾さんへのインタビューをお届けします。

【書影】シビアな数字と希望を持って語る、書店業界の現状と再興の道。清野由美『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』

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開業も在庫管理も難しい書店ビジネス

―― 小売り店にはPOS(販売時点情報管理)システムが普及していますが、あれで管理はできないのでしょうか。

今村翔吾さん(以下、今村):もちろんPOSによってある程度は追えます。しかし、商品の行き来が激しいので、まちの書店では月次決算をきれいに出すことが難しく、日次決算はもっと難しい。

過去、まちの本屋さんが成り立っていた時代には、たとえどんぶり勘定でも雑誌や本ががっさがっさ売れて、在庫管理をしなくても、知らないうちに商売が回っていました。しかし、その時代が過ぎ去った今、この商売の怖さが前面に出てきています。在庫管理が難しいので、「ふと気が付いたら大赤字を食らっていた」というパターンが、普通にあるんですよ。

それで「もうあかん、閉店します」となる。在庫が1千万円あるはずだから、それを取次に戻して1千万円の現金に換えて、退職金代わりにしようと思う。すると、なぜか800万円しか換金できなくて、血の気が引く。そんなことが起きうるんです。

―― なぜ、そこで200万円が消えているのですか?

今村:要はどんぶり勘定と自転車操業の中で、たとえば誰かの給料を払わなあかんために、ちょっとずつ返品をして、現金を作っていた。それらが累積して200万円が消えていた、みたいな事態ですね。

本当は怖い書店ビジネス

今村:僕が事業承継したきのしたブックセンターも当初はそういう状態で、赤字を補填するために返品量を増やし、仕入量を減らすことを繰り返した結果、店の中がスカスカになっていました。店がスカスカなら、お客さんも離れて、ますます本が売れなくなります。ひとたび取次から「売れない書店」のレッテルを貼られてしまうと、配本が後回しにされて滞ります。どこかのタイミングで、銀行なりからつなぎ融資が得られ、挽回しようとしても、再仕入れができない事態に陥ります。

―― うーん。

今村:これって、点滴みたいにちょっとずつ、ポタポタと落ちていく感じなので、分かりづらいんです。それで気が付いた時には、取り返しのつかないほど出血しているんですね。

―― 本当は怖い書店ビジネス、なんですね。

今村:はい、ホラーです(笑)。そこには書店業界、そして書店と不可分の出版業界の構造的な問題があるのですが、そのような問題を30年、先送りしてきたツケが今、まさに来ているということなんです。

この業界が衰退するのを遅らせたい

―― ということは、まちから書店がなくなるのは、必ずしも日本人の本離れということだけではなく、システムの問題がある、と。

今村:僕はまず、システムの問題が大きいと思います。この業界は長年、そのあたりの誤謬(ごびゅう)があっても大ベストセラーの漫画や本が出ることで、だましだましやってこられた。だから、この先もだましだましでやっていける、という期待もありますが、現実として市場規模が縮小している以上、そうそうおいしいことが起きる時代ではなくなっています。


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で、ここからが肝心なのですが、市場が小さくなっているなら、その業界はいずれなくなっても仕方ないよね、というのが普通の考え方です。ただ、書店・出版業界には本を愛しているファンが根強くいることも事実なんです。

僕もそうですし、読者さんもそう、書店員さんもそう、編集者もそう、出版社もそう。この業界が好きで、なおかつ文化的にも、教育的にも意味があると信じていて、絶対につぶしたらあかん、と思う人たちがいっぱいいるんです。

―― 私もそうです。

今村:だから、本当なら全員が連合して反転攻勢をかけなければならないんだけど、ただその時期がいつなのか、どうやればいいのかもよく分かっていない。いずれ坂本龍馬、渋沢栄一のような天才が出てきて、出版社、取次、書店、作家、漫画家などの枠を超えて、反転攻勢を仕掛ける時が来る……と思うけど、それまでは僕がやれる延命措置をやる。1分でも1秒でも、この業界が衰退するのを遅らせたい。それが今、このビジネスを始めるもう一つの理由です。

書店のビジネスモデル全体を変えていきたい

―― ということは、シェア型書店はシステムの隙間を埋めるモデルなのでしょうか。

今村:これは決して本流ではなく、やはりニッチなものだと僕自身も思っています。逆にいうと、書店業界にシェア型、棚貸しという業態が出てきたということは、この業界がよほど追い詰められているという証左でもある。既存の業態だけで儲かっているなら、他の力を借りる必要はありません。

一方で、書店ビジネスは新規参入したり、参入しても継続したりするのが意外に難しい。でも、儲けるのは難しいけれど、本屋さんを愛する人、自分でやりたい人は、実はたくさんいる。これって、個人が書店を持つまでのハードルがあまりにも高過ぎるからで、そこらへんに市場のギャップが一つあります。

繰り返しになりますが、書店はまちに絶対必要な存在だと僕自身は思っています。シェア型書店の仕組みを通して、本好き、本屋さん好きの人たちが、いわば「ミニ本屋さんの経営」を楽しんでくれて、そこから「本当に書店を経営してみたい」という人が出てきたら、サポートできる仕組みまで整えていきたい。ほんまるに関していえば、それが一義的なゴールですが、さらにほんまるという仕組みを使って、書店のビジネスモデル全体を変えていきたい。それがもっと大きな目標です。

※本稿は、『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』(日経BP)の一部を再編集したものです。