特定の人のための、欲と偽善だらけの「グリーンドリーム」。資金力のない人は数にも入らない

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環境保全は誰のため? リサイクル、再生可能エネルギー、カーボンオフセット―。

すべて超富裕層が潤うための虚偽、巨大マネーのためのグリーン・ビジネスだった!

「サステナビリティ・クラス」とは、高学歴で可処分所得と意識が高い「いい人」たち。エコや倫理的正しさをSNSでアピールし、「環境」を意識した高額商品を買う余裕がある中流階級だ。彼らが「地球の未来のためだ」と思ってやっていたことは、実はグリーン・ビジネスに加担し、弱者を追いやり、格差を広げる原因になっていた……。新たな植民地主義ともいえる「グリーン・ビジネス」の実態を、豊富なデータをもとに明らかにした著書『欲と偽善のサステナビリティ』。サステナビリティの名のもとの「欲と偽善」を、気鋭の研究者が暴くセンセーショナルな意欲作より、一部の章をピックアップしてご紹介。

グリーンランドをめぐる野望

要するに、現在の世界から無重力のグリーンユートピアに飛び出すということだ。ちょうど宇宙船が地球の大気圏を突破して、雲一つない無重力の再生可能な未来に向かうように。THE LINEのようなサステナブルな都市こそ未来の中心になるだろう。少なくとも地球では。月や火星や小惑星帯の計画も温められている。

NEOMのように完全に「スマート」な都市型ビルを建設するには、セリウムやテルビウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、プラセオジムなど数多くの特殊な鉱物が大量に必要になる。地球の亜鉛とプラチナ、銅、ニッケルの埋蔵量はあと40年分ほどしかないが、月にはまだたっぷり残っているようだ。調査によると、レゴリス(月の砂)は鉱物採掘が可能であり、水素エネルギーが含まれている可能性もある。それに、「グリーン水素」がNEOMの再生可能エネルギーとして使われるのであれば、水素を無限に見つけ出すのに月ほど最適な場所はない。

グリーン・ゴールドラッシュを始めよう。新型コロナの感染が拡大し始めた頃、当時の大統領ドナルド・トランプは、米国の州および民間の企業が月の資源を採掘する権利を確保できるように大統領令に署名をしていた。しかも、月はスタートラインにすぎない。米国の各企業は現在、1967年に発効された時代遅れの宇宙条約を改正しようと取り組んでいる。これは、宇宙の軍事利用の拡大を推し進めるためであり、ロシアや中国のような国々との争いを防ぐためでもある。空の上で、新たな「西部開拓時代」が幕を開けたのだ。こうした取り組みはグリーンな未来の一部でもある。アトランティックカウンシル・スコウクロフト戦略安全保障センターの上席研究フェローらにしてみれば、宇宙開発競争が「環境のサステナビリティ」にプラスの影響を与えてくれるのは間違いない。特に、「これから30年余りで真の安全保障と繁栄を手に入れるためには……宇宙ビジネスを促進させるしかない」のだ。

しかし、グリーンな未来を探求するために宇宙まで行く必要はない。「スマート」なグリーン未来の構築に必要な鉱物を採掘するなら、実際のところ、氷河を融かすほうが簡単だ。世界屈指の富豪には、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾス、マイケル・ブルームバーグなどのように、カリフォルニアの採掘スタートアップ企業に資金支援する人たちもいる。このスタートアップは、グリーンランドのディスコ島とヌースアク半島に目をつけている。世界最大レベルの埋蔵量を誇るニッケルとコバルトを利用するためだ。再生可能エネルギーの貯蔵用バッテリーと電気自動車の生産にこうした鉱物が必要なのだ。氷河がない夏季は、重機で鉱物を採掘する際の手間も、企業がその鉱物を船で運ぶ手間も少なくなる。

たとえ気候変動が新たなビジネスチャンスをもたらすとしても、「関係者は皆、公共の利益のために行動している」という話になっている。採掘は「サステナブル」に行うことが求められているのだ。要するに、基本的に資源の埋蔵量はサステナブルな量を守らなければならないし、採掘の経済的メリットはグリーンランドの民に利益をもたらさなければならない。ただそれはあくまでも、氷河が融けて海面が上昇し、この土地が海に沈むまでの話だ。

起業家、裕福なヴィーガンが夢見る「グリーンな未来」

グリーンランドの起業家らはすでに時代を先取りしている。2024年、スタートアップ企業アークティック・アイスは、融け出した氷河の氷をアラブ首長国連邦のカクテルバーに向けて出荷を始めた。「グリーンランドでグリーンへの移行を支援することこそ、私がこの世に生まれてきた理由だと信じています」と同社の共同創業者マリク・V・ラスムッセンは語る。確かにアークティック・アイスは、完璧なカーボンニュートラルを約束している。炭素回収・貯留技術を駆使して、大気中から炭素を隔離し、地中に注入すれば、氷を石油王に輸送する際の炭素排出量が相殺できるので、炭素をさらに排出しても、罪の意識が少しは軽くなるというものだ。いずれグリーンランドは名実ともにグリーンな土地に変わり、世界にちらばる「グリーン」エネルギーの犠牲の地に数えられるようになるだろう。融け出した氷河(ラスムッセンいわく「地上最もきれいなH2O」)は、NEOMのカクテルバーのフローズンダイキリに使われる予定だ。

鉱物採掘方法は他にも、映画監督ジェームズ・キャメロン(ベニスビーチにあるプラント・フード・アンド・ワインの常連)が大胆に提案するように、深海に潜り、希少鉱物を採掘するという方法がある。ただしこれには、欧州アカデミー科学諮問委員会も、深海の採掘は海洋生態系に「悲惨な結果」をもたらすことになるだろうと警告している。地球の海底はわずか10%しか地図化されておらず、割合で見れば、月や火星や水星で明らかになっている表面積よりもはるかに少ない。明らかなことは少ないものの、キャメロンは、海底の状態について明確に述べている――「そこに延々と続くのは、泥だけだ」。

1989年に大ヒットしたSF映画『アビス』では、(以下、ネタバレ注意)海底に生息する未知の優れた知的生命体が冷戦と海洋汚染の問題を単独で解決するが、彼はそのとき思い描いた深海への憧れを捨て去ってしまったようだ。海底にあるのは泥と鉱物だけ。だったら、あとは掘り始めるしかない!

裕福なヴィーガンたちはどうかというと、月にある高級マンションの水耕栽培タワーで野菜を育てる日を夢見ている。少なくとも、THE LINEに移り住むか、ベニスビーチに150万ドル程度の無難な別荘を買うか(それがベニスビーチの平均的な住宅価格)、そのくらいは実現したいと考える。一方、給料日の前日に銀行口座の残金がゼロになる大半の人は、サステナブルの影響どころか、「サステナブルでありたい」と思う億万長者の壮大な宇宙観を考えることすらできず、取り残されるだけだ。

ただし、「夢を抱けない」「仕事をしたくない」といった気持ちはいったん忘れて、体に良い食事を取るためにお金を払い、健康ブームに乗り、気合と自己責任で立ち直ろうとすれば、状況は変わるものだ。一方、そうした人たちをサステナブルに取り込むには、押しつけがましくなったり、説教臭くなったりしてはいけない。ヒップで、スタイリッシュでなければ。それに、売り物として価値があることや希望を叶えられることも不可欠だ。そうして初めて、明るい「新しい未来」に目覚めてくれるのだ。

テックの大富豪やサウジ王家が提案する「ブレークスルー」も従来と変わらない。ただし今回は、業界の利益を最も享受する人たちのための、健全で「気候変動に強い」世界の話になる。彼らはそれを「気候変動適応」と呼ぶ。世界最大の産出量を誇る原油の利益を原資とした、サウジ国王の豊かな資金がなければTHE LINEが立ち行かなくなるのと同じように、「グリーン」なサステナビリティへの移行は、不動産や工業型農業や石油・ガス採掘への投資で支えられることになる。

エコとエゴ

この時点ではっきりさせなければならないのは、危険が少なく気軽なライフスタイルを貫こうとする姿勢そのものには何の問題もないということだ。世界をより良い場所にしようとする行為を高く評価されたいと思うのも全く問題ないし、より大きな大義の一端を担うことで「自分は重要な人物だ」「価値のある人物だ」と思うのも全く問題ない。

そもそも僕たちはサステナビリティ・クラスに対して悪意を持っていない。何せ僕ら2人も同類なのだ。だから、都会に暮らす若手専門家として、倫理にもとる生き方をしないようにしている。僕らも極力努力して、リサイクルしたり、自転車に乗ったり、肉や乳製品を食べる量を減らしたりしているし、飛行機に乗るときにはカーボンフットプリントを考えて憂鬱にもなる。「来たときよりもきれいにして帰りなさい」「自分よりも不幸な人や不利な立場にいる人には思いやりを持ちなさい」「できるだけ地球に優しくしなさい」と教えられてきたのも皆と同じだ。

それに、グリーン屋を含め、多くの人が求めているものに本質的な違いはない――誰だって、自分の価値やつながりや自分の居場所が欲しいのだ。チャックやジェシカ、マシュー・ケニー、ビル・ゲイツ、そしておそらくカレド・ビン・アルワリード王子もそうだと思うが、彼らを突き動かしているのは、まさに目の前にある問題なのだろう。世界をより良い場所にしたいという彼らの思いは、正直なところ、何かが大きく間違っているという懸念から生まれているのかもしれない。

懸念しているのは僕らも同じだ。気候変動や、花粉を媒介する生物の減少、抗生物質に対する耐性、ウイルス性パンデミックのリスク増大、森林破壊や砂漠化、海洋酸性化、大量絶滅について僕らも心配している。暴風、熱波、洪水、干ばつ、森林火災も見過ごせない。実際、気候があまりにも急速に変化するので、書籍『欲と偽善のサステナビリティ』で取り上げている温度などの更新記録も、出版される頃には破られているだろう。それに、極右の運動も脅威だ。彼らは住民の強制移動や経済不安、健康不安を煽り、女性やトランスジェンダーの団体を躍起になって操ろうとする。それに、移民の犯罪者化や労働者の権利の抑制といった脅威も侮れない。

「今はいつも危険にさらされている」

執筆時点で、産業革命で膨大な量の化石燃料を燃焼し始めてからの地球温暖化がすでに1.0℃を超えている。気候科学者によると、温暖化が1.5℃を超えれば、作物収穫量の削減、海面の上昇、氷床の融解に加えて、何十億人の人々が前例のない耐えがたい高温にさらされ、甚大な被害を受けるという。

2023年の夏は、観測史上、最も暑い夏になり、1年のほとんどで世界の平均気温を1.5℃近く押し上げた。2024年は年が明けたばかりの1月に観測史上最高気温を記録している。これまで何億年という歳月をかけて生じてきた気候変動が、ここ数十年で一気に加速し、増加した大気中の二酸化炭素量全体の半分がこの30年間で生じている。現在の二酸化炭素上昇に匹敵する速度が観察されたのは最も近くて5500万年前の暁新世終盤だ(人類誕生はわずか200万年前)。当時、現在よりも少ない量の二酸化炭素の増加によって引き起こされた気候変動から、地球が回復するまでには10万年以上を要した。

スコットランドの詩人キャスリーン・ジェイミーはこう書いている。「今はいつも危険にさらされていると感じる。干からびた大地のようにひび割れている感覚、これまで安全だと思っていた生活のうわべにひびが入る感覚。気温が上がる、世界の森林が燃える、氷河が融ける、パンデミックが襲う。そして今、海鳥たちが死んでいく」

書籍『欲と偽善のサステナビリティ』では、いわゆる「サステナビリティ・クラス」が推し進めるグリーンドリームが、彼らの基準で照らし合わせてもうまくいかない理由を示していく。その進歩のビジョンでは、ホリスティックな暮らしとイノベーションによって、現実の別次元、より高次の存在領域へと自分たちを押し上げる「ブレークスルーの瞬間」が訪れるとされている。

けれど、そのグリーンドリームが進めば、環境破壊は加速する。それに、そもそもこのビジョンは構造的に排他的でもある。「サステナビリティ」を購入できる経済力に依存しているため、特定の人にしか開かれていないのだ。つまり、資金力がない人は、枠組みの外へと追いやられて、もはや数にも入らない。ほんの一握りのエリートのために働くことは可能だが。グリーン屋や、彼らが約束するハイテクでサステナブルな未来が示す「グリーン」という新たなブームは、ちっともグリーンではない。確かに使われている色はグリーンかもしれないが、エコロジカルではない。「グリーン」とエコロジカルを一緒くたにするのは命取りになる。つまり、この2つの違いを明確にするのが本書の目的なのだ。(翻訳:保科京子)

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