(※写真はイメージです/PIXTA)

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家族からの「少し助けてほしい」という言葉は、断りづらいものです。特に親子関係では、「困っているなら支えたい」という気持ちが先に立ちます。一方で、年金生活に入った親にとっては、その支援が自分の生活を直撃することもあります。善意と現実のあいだで判断を迫られる場面は、決して珍しいものではありません。

「少し助けてほしい」娘の言葉に戸惑った夜

地方都市で一人暮らしをする和子さん(仮名・70歳)は、年金月12万円で生活しています。夫を亡くしてからは、持ち家で慎ましく暮らしてきました。

「贅沢はできませんが、なんとかやっていけるという感じでした。外食もほとんどしませんし、日々の支出はかなり気をつけています」

そんなある夜、娘の美咲さん(仮名・39歳)から電話がありました。

「お母さん、お願いがあるの…」

いつもより沈んだ声に、和子さんは胸騒ぎを覚えたといいます。

話を聞くと、美咲さんは夫の収入減と物価高の影響で、家計が厳しくなっているとのことでした。子どもは小学生が1人。自身は専業主婦で、パートもしていない状態でした。

「“一時的にでいいから、少し助けてほしい”と言われました。金額を聞いて、正直驚きました」

提示されたのは、月5万円の援助でした。

「私の年金の半分近い金額です。すぐに返事はできませんでした」

総務省『家計調査(2025年)』によると、高齢単身無職世帯の可処分所得は月約11.8万円、消費支出は月約14.8万円です。年金月12万円では、もともと収支は厳しく、そこからさらに支援を捻出するのは容易ではありません。

「娘が困っているのは分かります。でも、私自身も余裕があるわけではない。どうしたらいいのか分からなくなりました」

その場では「少し考えさせて」と伝え、電話を切りました。

翌日、和子さんは家計簿を広げました。毎月の支出を見直しても、削れるところはほとんどありません。

「食費を削るか、医療費を我慢するか…そんな選択になってしまうんです」

それでも、「1ヵ月だけなら」と思い、和子さんは一度だけ援助をすることにしました。

「これで少しは落ち着くだろうと思っていました」

しかし、その後も娘からの連絡は続きました。

「“今月もお願いできない?”と。最初は申し訳なさそうに言っていたんですが、だんだんそれが当たり前のようになっていきました」

数ヵ月が過ぎる頃には、和子さんの貯金は目に見えて減っていきました。

「このままでは、自分の生活が成り立たなくなると思いました」

「断れない気持ち」と「続けられない現実」…母が見た限界

ある日、和子さんは意を決して娘にこう伝えました。

「ごめんね、これ以上は無理なの」

電話の向こうで、美咲さんはしばらく黙っていました。

「“どうして?”と聞かれました。正直、言葉に詰まりました」

「あなたのことを助けたい気持ちはある。でも、このままだと私が立ち行かなくなる」

そう伝えた声は震えていたといいます。

「親なのに、助けてあげられない。そのことが一番つらかったです」

その後、美咲さんはパートを始め、夫婦で家計を立て直す方向に動き出しました。ただ、親子の関係には、どこかぎこちなさが残ったといいます。

「悪いことをしたわけではないのに、前と同じようには話せなくなってしまって…」

家族間のお金の問題は、単なる金額の話では終わりません。そこには期待や役割、そして遠慮が絡み合います。

「助けたい」と「守りたい」。そのどちらも間違ってはいません。ただ、そのバランスを崩したとき、関係そのものが揺らいでしまうことがあります。