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【これは2025年度話題の記事を再掲載・再構成したものです。クマの出没、対応が今後も課題になる中で、大きな問題となっている案件です。】

【写真を見る】【独自】命がけのクマ駆除、抜け落ちたハンターへの補償 誤射事故で大ケガした男性が語る「事故の詳細」と「1600万円の誤解」(山形・小国町)【2025年度話題の記事】

2023年4月に山形県小国町で起きた、クマ駆除中の痛ましい誤射事故。

被害者が町を訴え、また今年1月には町が誤射したハンターとそのハンターが加入していた保険会社を提訴するという異例の事態に発展している。

TUYは今回、誤射事故の被害男性(40代)に取材。生涯消えない傷を負った男性への取材から見えてきたのは、報道やネット上の憶測とは異なる、過酷で複雑な現実だった。

■「1600万円もらった」が独り歩き

取材の中で、男性が肉体的な痛みとともに深く心を痛めていたのが、世間に広まった「受け取ったカネ」に対する誤解だった。男性は受け取った金額が記された資料を示した。

報道などでは「町は被害者に約1600万円を支払った」とされている。TUYも町への取材から、この数字を引用してきた。「それだけもらっておきながら、さらに町を訴えるのか」と批判的なことを言う人もいたという。しかし被害男性は全く違う内実を話した。

「金額を発表する時は内訳を出してほしいと町に再三申し入れたのに、総額だけが発表されてしまった」と男性。

実は、この1600万円という金額のうち、1000万円以上は町から直接医療機関に支払われた「医療費」なのだという。実はこの話はTUYが町に聞いて、はじめて町が開示した内容だ。

こうした事故の医療費や休業補償は、通常加害者が加入するハンター保険から支払われる。しかし今回は「非常勤公務員(鳥獣被害対策実施隊)の活動中」という理由で、保険会社から支払いを拒否されてしまったのだという。保険が出ない以上、加害者も支払うことはできない。

■町は保険に入っていなかった

一方で、使用者の立場である町は、当然加入するべき保険に未加入だった。その結果、町は税金から医療費を支払うことになった。TUYの取材に、町はこの事実を認めている。加えて、この事故後保険に加入している。

実際に男性が受け取ったのは、後遺障害が残り仕事を失ったことへの補償金などの約380万円と、休業補償などを合わせた計約680万円だという。

「まだ一円ももらっていないうちから、一部地方紙で1200万円支払われるとの報道があり、抗議しても訂正してもらえなかった」

まるで巨額の慰謝料を受け取ったかのように誤解され、少なからず冷ややかな目で見られたそうだ。男性はたまらなかったと吐露する。

■男性が明かす「誤射事故」と奪われた「仕事」

十分な補償がなされない一方で、男性の人生は変わってしまったという。事故の詳細を聞いた。

事故現場は急な崖で、体温低下に見舞われる中、山岳救助隊の懸命な処置とヘリコプターの引き上げにより一命を取り留めた。しかし、右大腿骨の開放骨折という重傷を負い、鉛の摘出や骨・筋肉・皮膚の移植など、5回にも及ぶ大手術を受けた。

4ヶ月の入院と18ヶ月の通院を経た今も膝は40度ほどしか曲がらない。半月板も損傷していて、損傷の激しさから人工関節を入れることもできないということだ。

男性の本来の職業は、農業、製炭業、造林業、山菜採取などの自営業だという。しかし「膝に負荷のかかる仕事ができなくなってしまった」。造林の仕事は完全にできなくなり、製炭業や山菜採取もできる状態ではない。農業も縮小せざるを得ない。

「今は妻の仕事の手伝いをしながら、膝をかばうことで出る他の部位の痛みを和らげるため、週に一度鍼灸マッサージに通っている」子育て中。老後のことを考えても、到底生活していける状態ではないと訴える。

■苦渋の決断だった「町との裁判」

現状の補償額では生活が立ち行かないため、男性は損害賠償を求めて町を相手に裁判を起こしている。ここでも「なぜ誤射した男性ではなく町を訴えるのか」という誤解があったという。

男性も当初は誤射した男性のハンター保険に請求しようとしたが、先に述べた通り拒否された。残された道は、国家賠償法に基づき、使用者である町を訴えることしかなかったというのだ。

「裁判のことも世間にさらされてしまい、知り合いもたくさんいる役場を相手取っての訴訟なんて、本当にやりたくはない」決して町を攻撃したいわけではなく、生きていくための苦渋の選択だとした。

(町の都合はこちらの記事で詳しく。ただしこの記事の段階では被害男性に支払われた金額が約1600万円となっているため、誤解のないようご覧いただきたい。→【クマ問題「なぜ町がハンターを訴える?」批判殺到の小国町“1660万円請求”裁判…第一回口頭弁論、その裏にある「法の仕組み」(山形)】https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2436979?display=1)

■浮き彫りになったクマハンターの課題

「これは小国町だけの問題ではなく、全国の市町村で活動するハンター全体の問題だと思う」男性のこの言葉が、印象に残る。

同じ非常勤公務員の扱いである消防団に存在するような補償制度が害獣駆除隊にはない場合があること・・・。危険を伴うクマ駆除活動を十分な補償制度がない人たちが担わざるを得ない現状は、なんとかしたいという。

「第二、第三の自分を出さないためにも、平等な補償の仕組みづくりを」

世間の誤解に晒されながらも男性が発した言葉だ。春になり、クマの出没が増えることが容易に予想できる今、考えるべきことはある。