職場の雰囲気を良くしたい時はどうすればいいか。経営コンサルタントの占部正尚さんは「ネガティブな発想をポジティブに変換する言葉がペップトーク(Pep Talk)だ。もともとアメリカのプロスポーツ界で生まれたものだが、ビジネスの場面でも役に立つ」という――。

※本稿は、占部正尚『心に火をつけるひと言 行動を生み出すペップトーク3つの物語』(ワニブックス)

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■「でも」以降の言葉だけが記憶に残る

ペップトークが効く理由のひとつは、「言葉の順番」にあります。私が研修でよく紹介しているのが、“BUT&YES”と“YES&BETTER”の違いです。

行動心理学の研究者として知られるニール・ラッカム博士の著書にも、相手の努力をまず承認してから提案を伝える“YES & BETTER”型の話し方が、成果につながるコミュニケーションだという事例が複数出てきます。

私たちがつい言ってしまいがちなのは、「よく頑張ってるよ。でも、ここが全然ダメだ」という話し方です。

前半で褒めているつもりでも、「でも(BUT)」のひと言でそれまでの肯定が打ち消され、後半のダメ出しだけが相手の心に残ります。これが“BUT & YES(否定+指示)”のパターンです。脳は危険や否定のサインを優先して処理するため、「でも」の後の情報を強く記憶し、前半のねぎらいはほとんど残らないのです。

■気持ちよくアドバイスを受け取ってもらえる

それに対して、ペップトークが大事にしているのは「YES & BETTER(承認+提案)」です。

「ここまで準備してきたのは本当にすごい。だからこそ、あとひとつだけここを工夫してみよう」という言い方に変えるだけで、受け取る印象は大きく変わります。

まず事実と努力をしっかり認め、そのうえで「より良くするための提案」をそっと添える。相手は、「否定された」のではなく、「味方として一緒に考えてくれている」と感じるので、心の扉を開いた状態でアドバイスを受け取ることができるのです。

もうひとつの理由は、脳が言葉の“枠(フレーム)”に非常に左右される、という点です。

■「10人が死亡する」=「90人が生きる」

一例を挙げてみましょう。手術の説明の仕方として、

「100人のうち10人が5年後に亡くなります」

と伝えるのか、

「100人のうち90人が5年後も生きています」

と伝えるのかで、同じ数字でも受け取る印象がまったく違ってきます。これが、行動経済学で活用される“フレーミング効果”です。

日常生活でも同じことが起きています。

「難しい仕事だな」とつぶやくのか、「やりがいのある仕事だな」と言い換えるのか。

「ミスしたらどうしよう」と考えるのか、「ミスしてもリカバリーすればいい」と考えるのか。

ほんの少し言葉を変えるだけで、あなたの中に湧いてくる感情や、気持ちの軽さは大きく変わります。

私は、「人は言い訳をいかに論理的に積み上げるかにかけては天才だ」と感じています。だからこそ、その論理的な力を、前向きな行動につながる言葉に乗せ替えていくことが大事なのです。「どうせ無理だ」「自分には向いていない」といったセルフトークも、言い換え次第で、行動を後押しするフレームに変わっていきます。

同じ出来事を見ても、「失敗してしまった自分」とラベリングするのか、「挑戦した自分」とラベリングするのかで、その後に思いつく選択肢はまるで別物になります。

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■いつでもポジティブ変換できる人に

ペップトークが効く理由は、以下のように整理することができます。

①最初に“YES”で受け止めることで、防御反応を弱めること。
②“BETTER”の提案で、行動の方向性を具体化すること。
③言葉のフレーミングを変えることで、感情と行動の流れを変えること。

この3つです。これは相手を励ますときだけでなく、自分自身を立て直したいときにも、そのまま同じ順番で使うことができます。

あなたが誰かに声をかけるとき、まず一度、「今の自分の言い方はBUT&YESになっていないか?」と心の中でチェックしてみてください。

そして、「同じことをYES&BETTERで言うとしたら、どう言い換えられるだろう?」と考えてみる。このほんの数秒のセルフチェックが、ペップトークの第一歩になります。最初はぎこちなくても、回数を重ねるほど、自然と口ぐせが変わっていき、周りに力を分け与えることができるようになるはずです。

■「ちゃんとやれよ」は圧力になるだけ

職場は、ペップトークの効果がとても分かりやすく現れる場所です。プレッシャーに弱い部下や、会議になると急に黙ってしまうメンバーに、どんな声をかけるか。そこで、その人のパフォーマンスとチーム全体の空気が大きく変わります。

――プレッシャーに弱い部下に

大事なプレゼンや商談の前になると、顔がこわばってミスを繰り返してしまう部下がいます。そんなとき、上司としてやりがちなのは、

「ここで失敗したらおしまいだからな」
「ちゃんとやれよ、期待してるぞ」

と、結果だけを強調する声かけです。これでは、本人の頭の中は「失敗したらどうしよう」というイメージでいっぱいになってしまいます。

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■「結果より挑戦に価値がある」と伝える

ペップトークに切り替えるなら、まずは緊張を認めます。

「大事な場面だからこそ、緊張するよね」
「それだけこの仕事に本気だってことだよ」

と、震える気持ちに意味を与えます。

次に、その人の準備や実績を承認します。

「ここまで資料を作り込んできたの、ちゃんと見てるよ」
「この案件に一番詳しいのは、間違いなく君だよね」

行動面では、「全部完璧にやれ」ではなく、「どこに集中すればいいか」を絞ります。

「今日は、最初の3分だけ、落ち着いて話すことを意識しよう」
「ポイントは3つだけでいい。そこだけしっかり伝えよう」

最後に、激励のひと言です。

「うまく話そうとしなくていい。伝えたいことを、素直に出していこう」
「失敗しても一緒にリカバリーするから、思い切ってやってごらん」

大切なのは、「結果を出さないと価値がない」というメッセージではなく、「結果がどうであっても、君のチャレンジには意味がある」と伝えることです。

――会議が止まるときのNG声かけ

会議で意見が出ないとき、つい、

「何か言ってよ」
「何でもいいから意見出して」

と言ってしまうことがあります。

ところが、この言葉をかけられた側は、「何を言ったらいいのか分からない」「変なことを言って笑われたくない」と、ますます口を閉ざしてしまいます。

多くの人は頭の中で考えを巡らせていても、「これで合っているのか」と不安になり、発言ボタンを押せなくなってしまうのです。

ここでも、行動のステップを具体化することがポイントです。

■「お通夜のような会議」が「活発な会議」に

私が研修でよく紹介する代案が、

「最初に私が意見を言います。そこにツッコミをください」

という言い方です。

このひと言には、いくつかの工夫が含まれています。

・ まず発言するリスクは自分(上司)が引き受ける
・ 「ゼロから意見を出す」ではなく、「出された意見にツッコミをする」という明確な役割を示す
・ 「正解を言う」必要はなく、「疑問や補足を伝えればいい」とハードルを下げる
・ 「安全に話していいんだ」と感じられるように、言葉で土台をつくる
占部正尚『心に火をつけるひと言 行動を生み出すペップトーク3つの物語』(ワニブックス)

他にも、

「A案とB案、どちらに近い感覚かだけ教えて」
「今の説明で、分かりにくかったところをひとつだけ挙げてくれる?」

といったように、「何でもいい」ではなく、「何を言えばいいか」を具体的に指定すると、発言しやすい場が生まれます。

職場でのペップトークは、「叱らないこと」ではなく、「動きやすい環境を言葉でつくること」です。プレッシャーをかけるひと言を、行動が明確になるひと言に変える。これだけでも、チームの空気と成果は大きく変わっていきます。

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占部 正尚(うらべ・まさたか)
経営コンサルタント
1962年生まれ、福岡県出身。早稲田大学政治経済学部を卒業後、経営コンサルタント・営業マン・研修講師の3分野で実績を挙げ、2008年よりマーケティングオフィス・ウラベを主宰。マーケティングやロジカルシンキングをテーマに、大手企業や地方自治体を中心に研修や講演会を行い、登壇実績は累計5000回を超える。近年は、従来の論理的なノウハウに加え、ペップトークによるモチベーションアップに注力し、全国で普及活動を展開中。著書に『ビジネス・ペップトーク “意識改革”の前に“言葉がけ改革”』(日刊工業新聞社)、『部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』(日本実業出版社)がある。
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(経営コンサルタント 占部 正尚)