55歳・役職定年で「年収1,000万円」から半減の絶望も…60歳再雇用で「定年前の年収」を抜き去ったサラリーマンの逆転劇
定年後も継続して働く高年齢者が増加しています。しかし、再雇用時の賃金体系は一律の減額規定を設けている企業が多く、意欲の減退が課題となっています。一方で、定年時以上の報酬を得るケースも存在します。ある男性の事例を見ていきましょう。
「あの5年間は何だったのか」……再雇用初日の給与明細に震えた理由
中堅メーカーで営業部長を務めていた高橋明宏さん(61歳・仮名)。55歳での役職定年は、会社員人生の中でも大きな転換点だったと振り返ります。年収は1,000万円から500万円へと急降下しました。部下を持たないアドバイザーへ転換となり、次世代のサポート役に回ることになったのです。
「役職定年からの5年間は、正直、惰性で働いていました。60歳の定年を迎えたら、さらに給料は下がり、年収400万円を切る嘱託職員になる。それがこの会社の規定でしたから」
しかし、定年を半年後に控えたある日、高橋さんに転機が訪れます。社内で新設された「海外販路開拓プロジェクト」への参画を打診されたのです。条件は、定年後の「スペシャリスト再雇用」でした。
「提示されたのは、年収600万円。従来の再雇用と比べて1.5倍以上です。しかも、現役時代のような部下管理の雑務はなく、私の持つ海外人脈と交渉術だけに集中してほしいという条件でした」
会社側は、役職定年でくすぶっていた高橋さんの「営業スキル」が、外部のコンサルタントを雇うよりも遥かに安価で確実な資産であることに、ようやく気づいたのです。再雇用初日。高橋さんの手元に届いた契約書には、成果に応じたインセンティブ報酬もしっかりと明記されていました。その後の活躍により、支給額は現役時代の1,000万円を上回ることになります。
「50代後半、あんなに惨めな思いをして耐えた日々が嘘のようです。肩書がなくなったからこそ、自分の『腕一本』で会社に貢献できている実感が持てる。60歳を過ぎてから、現役時代よりも好条件で、しかも高い評価と報酬を得られるなんて、想像もしていませんでした」
現在、高橋さんは海外販路開拓の専門職として、培った交渉術を用い、新規顧客との折衝業務に邁進しています。
高年齢者の処遇改善とスキル活用の現状
日本の労働市場では、少子高齢化に伴う労働力不足を背景に、高年齢者の就業継続が加速しています。厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」によると、65歳までの雇用確保措置を講じている企業の割合は99.9%に達しており、さらに70歳までの就業確保措置を講じている企業は令和7年度報告で34.8%と、上昇傾向にあります。
一方で、定年後の給与減は、主に雇用形態の変化によるものです。定年後(60歳以降)の再雇用では、「嘱託・契約社員」が6割ほど、「正社員」が3〜4割ほどとされています。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、男性正社員の場合、50代後半の平均年収は753.8万円ですが、60代前半では590.5万円となり、60歳を境に約2割減少します。さらに非正規社員の場合は60代前半で460.7万円。正社員時代からの減少幅は4割にも及びます。
これに対し、定年後の賃金設計において、一律の減額ではなく「個人の能力や成果を反映する仕組み」を導入している企業は、大企業を中心に増加傾向にあります。今後は、従来の「年功序列」や「一律再雇用」から脱却し、個人の持つスキルを「資産」として再定義する職務給(ジョブ型)の導入が、労働力確保とシニア層の活性化を両立する解決策として求められています。
