「血液型で病気リスクがこんなに違う」O型の発症率が66%も少ない「世界で約100万人が命を落としてきた病気」
※本稿は、深瀬浩一『血液型でわかる 病気とケガのリスク』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■もっとも多くの命を奪い続ける病気
新型コロナウイルス感染症だけでなく、O型のリスクが低い感染症はほかにもあります。その代表格が「マラリア」です。
マラリアは、感染症のなかでも、世界でもっとも多くの命を奪い続けている病気の1つです。熱帯から亜熱帯の地域で多く見られることから、日本では非常に稀な感染症ですが、世界では今も年間3〜5億人が感染し、約100万人が命を落としています。
過去数千年にわたって人類の歴史に大きな影響を与えてきたことから、結核やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)とともに「世界3大感染症」に数えられています。
マラリアは、「マラリア原虫(プラスモディウム)」という寄生虫によって引き起こされる病気です。ただ、直接的にマラリア原虫がヒトに感染するのではなく、「ハマダラカ」という蚊を介して感染が広がります。
マラリアに感染している人の血を吸った蚊が自らの体内に原虫を取り込み、次に別の人を刺すときに、唾液とともにその原虫を注入して新たな感染が成立するのです。
マラリア原虫は、まず肝臓の細胞に入り込んで増殖し、赤血球に移動して再び増殖します。その後、赤血球を破裂させて外に出てきた原虫たちが、別の赤血球へと感染する――このサイクルがくり返されることで、体内で赤血球が次々と破壊されていきます。
■O型は重症マラリアが66%少ない
その結果、高熱や頭痛、吐き気などの症状が現れ、やがて赤血球の供給が追いつかなくなり、重度の貧血に陥ります。病状が進行すると、脳に障害が起きて意識が混濁したり、腎臓の機能が低下して腎不全に至ったりすることもあります。
また、マラリアにかかると脾臓が大きく腫れることも特徴です。脾臓は、古くなった赤血球を回収・分解し、新しい赤血球の材料をつくる役割を担っています。マラリアによって大量の赤血球が破壊されると、脾臓はその処理に追われ、次第に負担が増して腫れてくるのです。
マラリアにおいても、血液型によって重症化リスクが異なることがわかっています。2007年に発表された、アフリカのマリの子どもを対象とした研究においては、O型は非O型(A型・B型・AB型)に比べ、重症マラリアの発症が66%少ないことがわかりました。

また2023年には、血液型遺伝子の違いにも着目した研究が発表されています。O型の遺伝子型であるOOを基準とした場合、AOやBOよりも、O遺伝子を含まないAA・BB・ABで、マラリアの重症化リスクが高いのです。
また、OO以外の全非O型をまとめると、O型に比べ重症マラリアリスクが約1.49倍高いという結果も報告されました。このように、いずれの調査・研究でも、O型の人の重症化しにくい傾向がはっきりとわかる結果になっています。
■「ロゼット」――マラリア重症化の鍵
この違いの背景にあるのが、「ロゼット(rosette)」という現象です。マラリア原虫に感染した赤血球は、まわりの健康な赤血球を引き寄せて集合体をつくります。この赤血球の様子が花びらのように見えることから、ロゼット(バラの花)と呼ばれています。
赤血球の塊であるロゼットは毛細血管の中で詰まりやすく、血液の流れを妨げてしまいます。そう、ロゼットは血栓のようなものなのです。その結果、脳や腎臓、肝臓、肺などの臓器が酸素不足になり、多臓器不全を引き起こす原因となります。
そしてこのロゼットは、O型の人では形成されにくいという特徴があります。これは先ほど説明したように、O型の人がもつvWFの量が、ほかの血液型より少ないことと関係しています。
vWFが少ないと、赤血球同士がつながりにくくなるためにロゼットの形成が抑えられ、結果的に重症化リスクも低くなるのです。
■人類存続のために血液型の多様性が生まれた
ロゼットが形成されにくいことから、マラリアの重症化リスクが低いというO型の特徴は、アフリカや南ヨーロッパにO型の人が多いこととも関係していると考えられています。

マラリアは、現在では熱帯または亜熱帯の地域で感染しやすい病気です。これまでの歴史においても、「年中あたたかい」「湿地が存在する」といった、蚊の繁殖に適した地域で感染が広がっており、アフリカや南ヨーロッパはまさにそれに一致している地域といえます。
マラリアが流行しやすい地域では、長い歴史のなかで、マラリアによって非O型の人々が淘汰され、重症化しにくいO型が生き残ってきた――そんな進化の仮説が、現在は支持されつつあります。
また、かつては「人間の血液型はO型から始まった」と考えられてきましたが、分子生物学の分析によって、A型が最初に存在し、遺伝子の欠損および変異によってO型が出現、その後にB型が発生、そしてAB型も現れたことが明らかになっています。
人間の血液型がA型だけだった場合、A型にとってリスクの高い感染症が流行すれば、人類は滅亡に至ります。実際、マラリアはA型にとって高リスクな病気です。
A型ばかりの状態では、人類はマラリアに対抗できないため、O型などの血液型ができたと考えられています。つまり、人類を存続させるために、血液型の多様性が生まれたともいえるのです。
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深瀬 浩一(ふかせ・こういち)
大阪大学名誉教授
1960年、岡山県生まれ。大阪大学大学院博士後期課程修了・理学博士。大阪大学大学院理学研究科教授、理学研究科長、大阪大学理事・副学長、大阪大学総長参与を歴任。2025年、大阪大学名誉教授。専門は糖質化学、有機合成化学、生体分子化学。2025年4月より、大阪大学放射線科学基盤機構特任教授として、自然免疫活性化分子・ワクチン・新規免疫療法の開発ならびにがんの核医学治療研究を進める。
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(大阪大学名誉教授 深瀬 浩一)
