日本に在留する外国人が増えている。関西国際大学客員教授の毛受敏浩さんは「移民は日本の労働人口減少や地方の過疎化といった課題を解決する可能性を秘めている。日本が将来にわたって発展していくためにも、移民をポジティブに受け入れるべきだ」という――。

※本稿は、毛受敏浩『移民1000万人時代』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mirsad sarajlic

■実はメリットだらけの移民受け入れ

定住する外国人、移民が日本にどのような効用をもたらすのかを考えてみます。移民受入れの効用として第一に考えられるのは、労働者不足の緩和につながることです。

少子高齢化が今後さらに進む日本では労働力人口が減少していきます。そこで外国人労働者により、介護、建設、農業、製造業など幅広い分野で深刻化する人手不足を補うことができます。さらに若年層の移民が増えることで、労働市場も活性化していきます。

実際、外国人受入れのあっせんをするための企業や、外国人の就職、再就職をあっせんする企業が、続々と立ち上がって活況を呈しています。

2つ目は地域経済の活性化に寄与することです。移民が地方に定住することで、過疎化の進む地域経済の活性化につながります。またそのことは、地域の税収や社会インフラの持続性を高めることになり、移民自身や移民と協力する日本人による、新たなビジネスの創出や消費の増加が期待できます。

また、外国人にボランティアやプロとして日本語を教える人たちも増えています。日本語や日本文化を外国人に教えることに生きがいを感じ、はつらつとして活躍する高齢者もいます。

また日本語を教えると同時に、外国人から異文化や料理などを知ることができ、中には帰国した外国人の教え子から結婚式に呼ばれて参加したり、教え子の案内で充実した海外旅行ができた、といった経験をする人も増えています。

外国人は地域活性の切り札になる

外国人たちは母国での祝日や祭りに合わせて、日本で大規模なイベントを開催し、数万人が集まる場合もあります。そこには外国人ばかりではなく、多くの日本人も珍しい食べ物や異文化を求めて集まります。こうしたイベントを自治体が誘致することも考えてよいのではないでしょうか。

また小規模な音楽やダンスなどのイベントや集まりも各地で開催されており、そうしたイベントに積極的に参加して異文化やエスニック料理を楽しむ日本人も増えています。

閉塞感が高まっている地方において、多文化共生が進むことでこれまでなかった新たな活動が生まれます。若い世代の増加は極めて貴重であり、移民を通して新たな活力が吹き込まれ、世界につながる地域となっていけば、大都市に流出していた若者も地域を見直し、流出の歯止めになる可能性もあるでしょう。

旧態依然とした雰囲気を活性化させる潜在力を、外国人の若者は持っているのではないでしょうか。それに気づいた地域は外国人を新たなリソースとして活性化に取り組むのではないでしょうか。

■「国保タダ乗り」疑惑の意外な真実

3点目は、社会保障制度の持続性への貢献です。とくに若年層の移民が植えると、年金制度の担い手が増えてその維持に貢献します。税収の面では所得税や消費税等による税収増につながるでしょう。

その一方、外国人社会保障にただ乗りしている、あるいは外国人のせいで社会保障が破綻するという極端な意見もあります。

法的には日本人も外国人も同等に扱われており、外国人も日本人同様に税金を払い、社会保障費を払っています。また日本に住む以上、社会保障費を払わなければ病気になっても保険でカバーされず、自分自身が困ることになります。

外国人について国民健康保険を乱用しているとの指摘もありますが、実際には2023年度の被保険者総数に占める外国人比率は4%である一方、総医療費に占める外国人比率は1.39%に留まります。これは在留外国人の年齢が日本人よりも若く病気にかかる率が低いからと推測できます。

また、外国人が十分日本の社会保障の制度を理解していない可能性もあります。日本で住民登録を初めて行う外国人に対して、日本の仕組みについての説明を法的に義務付ける改革も必要でしょう。問題が発生しているのであれば、それをただす立法や制度改革をすべきであり、そうした努力をせずに移民を受入れるな、と主張するのは乱暴でしょう。

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■日本の文化は異文化なくして発展しない

4点目はイノベーションの進展や新たなビジネスの創出です。移民が持ち込む異文化の影響により、飲食店やサービス業など新たなビジネスが生まれます。また高度な知識や技術を持つ移民が日本に定着することで、新しいアイデアが生まれ、技術革新が行われ、産業の競争力の向上につながります。

芸術、音楽面では日本の文化に新たな影響を与え、より斬新な発想に基づく進展が見られるでしょう。文学においても高度な日本語力を駆使する外国人作家も増えており、人気を集めています。移民がもたらす文化が日本の伝統文化と融合し、伝統文化の発展をもたらし、その持続性を高めることもあるでしょう。

スポーツでも大相撲を見れば外国人力士の存在感は際立っています。もし大相撲の力士が日本人だけであれば衰退の道をたどっていたかもしれません。

5番目は消費者としての貢献です。移民が生活することで食品、サービスなどの消費に加え、住宅など耐久消費財の購入も進み、国内市場の活性化につながります。

■移民こそが日本復活のカギ

6番目は移民による起業です。母国を飛び出し海外で生活しようとする移民は、そもそも意欲レベルの高い人たちです。彼らは日本でサラリーマンとして働くだけでは満足せず、さまざまな分野で起業するでしょう。

人口減少が急速に進む中で、これ以上日本は発展しないのではないか、あるいはまたたく間に没落するのではないかとの懸念を、多くの国民が持っています。

確かに移民の受入れは、戦後の日本が経験をしてこなかった新しい状況の出現で、不安を抱くことはあるでしょう。その一方で、さまざまな文化や背景を持つ外国人が日本に移り住むことは新たな時代が始まることを予見させ、またそこに対する新たな希望も生まれるでしょう。成功裡に移民を受入れることができれば、人口減少で衰退するとの見方は間違いで、日本は未来においても輝き続けるとの期待が高まるでしょう。

■在留外国人が生む「7兆円市場」

移民のもたらす効用を概観しましたが、あまり議論されることのない消費者としての移民の効用と移民の起業について、以下に詳しく見ていきます。

移民の経済活動を見るとき、消費者としての彼らの立場は極めて重要です。日本で生活している以上、国内でさまざまな商品やサービスを購入しています。

日本人と同様に、洋服や食料、さらに家具などの耐久消費財を含めて買います。若い世代が多いので、家族を持てば、日本人と同様に子どものための机や教材などを購入し、もっと収入が増えれば、車や家を購入していきます。

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国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)は「外国人の受入れに関する基本指針」を策定していますが、そこでは人口減少の問題として「労働力の減少のみならず、消費者の減少、税および社会保障の担い手の減少という重大な問題を引き起こします」としています。

国内の消費に重点を置く企業が中心の団体だけに、国内消費の縮小に危機感を持っていることが窺えます。その経済規模は、どの程度でしょうか。

シティグループ証券では、2019年の初めに、2018年末に在留外国人の人口は270万人前後に達した可能性があると指摘しつつ、在留外国人の支出額は年4兆9千億円規模と想定しています(「在留外国人、新たな投資テーマに」、2019年2月8日、日本経済新聞)。

この想定が正しいとして、在留外国人の人口は2024年12月末時点で377万人なので、単純に計算すれば6兆8千億円程度にまで膨らんでいることになります。

外国人向けのハンコが流通し始めたワケ

在留外国人は日本人に比べて低賃金の場合が多く、また自国に送金しているケースも多いため、日本での消費は日本人の平均値より少ないと思われます。しかし、今後も人口増加が続くこと、そして定住化が進みつつあることを考えれば、さらに有力な市場になっていくでしょう。

すでに日本に住む外国人のためのいろいろなサービスも始まっています。

その一つを100円ショップで見つけました。東京都内にある「ダイソー」のハンコ(印鑑)の収納棚です。外国人用の印鑑が外国姓(中国、韓国)として別枠で売られています。

わざわざそうしているのは、外国人が日本で暮らすにはハンコがないと不便だと感じ、そのニーズを店側がキャッチして、商品として販売したのでしょう。

ちなみに現在、日本に在住する外国人で一番多いのは中国人ですが、次はベトナム人です。そのうちベトナム人やそれ以外の国籍の人びとのためのカタカナのハンコも販売されるようになるのではないでしょうか。

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■移民をビジネスチャンスに変える

日本に在住する外国人の多くはさまざまな課題を抱えて暮らしています。自国と異なる習慣や煩雑な手続き、子どもの学校との連絡や医療など、生活においてあらゆる面で日本語や日本の仕組みへの理解が求められてきます。

毛受敏浩『移民1000万人時代』(朝日新聞出版)

新たに来日した外国人にとって住居探し、銀行口座開設、さらに携帯電話の契約は避けては通れないものです。留学生の場合は在学する学校側が一定程度、同行支援を行うことがあるものの、これらを日本語が不自由な外国人が1人で行うには、極めてハードルが高いものになっています。

裏返せば、外国人の日本での生活にはさまざまな壁があり、それはとりもなおさずサービス提供を求める膨大なニーズ、市場があるということです。外国人の数が増えれば増えるほどその市場は大きくなっていきます。すでに一部の企業は着手しているもののほとんど手つかずの市場にどう参入するかは、企業にとっての新たな挑戦の分野と言えるでしょう。

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毛受 敏浩(めんじゅ・としひろ)
関西国際大学客員教授
1954年徳島県生まれ。慶應義塾大学法学部卒、米エバグリーン州立大学公共政策大学院修士。兵庫県庁に入職後、(公財)日本国際交流センターに勤務し執行理事などを歴任。文部科学省中教審委員、外国人雇用協議会顧問。
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(関西国際大学客員教授 毛受 敏浩)