Photo: 長谷川賢人

「もうすぐCP+ 2026ですね」なんてギズモード編集部でおしゃべりしていた時、ふと「そのレンズ、なんすか?」と聞かれました。

僕の手元にあったのは、2020年に買ったFUJIFILM X-Pro3と、1954年製といわれるドイツ生まれのSchneider-Kreuznach(シュナイダー・クロイツナッハ)のシネレンズ。レンズとカメラの間にはマウントアダプターが2段重ね。うち1段目のアダプターは3Dプリンターを用いて作られたものです。

Photo: 長谷川賢人

しゃべりながら、約70年の時間がこの1台にまとまっているんだなぁ、と。

新しいカメラと古いレンズが、また新しいテクノロジーでつながって、現代で活かすことができる。カメラって、つくづく面白いガジェットだと感じたんです。

ということで以下、「そのレンズ、なんすか?」と聞いてくれた編集部員へ僕が話したことをまとめてみながら、こういった「古いレンズ(=オールドレンズ)の遊び」の面白さを書いてみようと思った次第です。

「マウントアダプターって、なんすか?」

Photo: 長谷川賢人

カメラのレンズとボディは「マウント」と呼ばれる規格で接続しています。

FUJIFILMならXマウント、キヤノンならRFマウント、といった具合に、メーカーや時代によってその規格は異なります。

マウントアダプターは、規格の違うレンズをボディに取り付けるための変換端子ですね。極端なたとえですが、異なる文明同士を繋ぐ通訳のようなものともいえます。「あなたの言葉はこちらでは通じません。でも、私が間に入れば大丈夫!」という存在です。

もう一つ、マウントアダプターが解決している課題が「フランジバック」です。 フランジバックとは、マウント面から撮像面(イメージセンサー)までの距離のこと。レンズが「ここにセンサー(もしくはフィルム)がある」と想定して設計された距離です。

フランジバックの値はマウントの規格によって異なります。ざっくり言うと、マウントアダプターはこの「規格による差」を物理的に埋めることによって、異なる規格のカメラとレンズの組み合わせでも撮影を可能にしてくれます。

たとえば、Xマウントのボディに、RFマウントのレンズを付けることもできるわけですね。電気信号を必要としないマニュアルフォーカスのレンズなら、物理的に規格さえ合えばほぼ何でも繋がります。

おかげで数十年前に作られたレンズでも、最新のデジタルカメラで使える。 マウントアダプターがオールドレンズ遊びのつなぎ役になってくれるのです。

「シネレンズって、なんすか?」

Photo: 長谷川賢人

シネレンズは、映画撮影用に設計された交換レンズのこと。一般的に、静止画写真を撮るための「スチルレンズ」とは設計思想が異なります。

映画は連続する動きを撮らなくてはなりませんから、ピントリングの回転角が大きく取られていて、滑らかなフォーカス送りがしやすいのが特徴。F値の変更をする際もクリックはなく(撮影中にカチカチ音がしたら邪魔ですし)、無段階でぬるーっと操作できたりと、撮影の現場で使うことを前提とした仕様です。

そして、こうしたシネレンズ、特にフィルム時代やヴィンテージ調を意識したものを写真用カメラに装着すると、現代のスチルレンズが追求してきた「端正でカリッとした解像感」とは異なる描写が得られることが多いです。

ハイライトが柔らかくにじんだり、ボケがなめらかに溶けたり。周辺光量が落ちる、撮像が流れることで「特殊効果」っぽくなったり。どこか、昔の映画が持っていた空気感と繋がっているような描写に感じられるのです。

Photo: 長谷川賢人

僕が使っているレンズは、ドイツのSchneider-Kreuznach(シュナイダー・クロイツナッハ)が作った「Cine-Xenon(シネ・クセノン)」です。「Lens made in Germany」の刻印もいい感じですね。

Schneider-Kreuznachはドイツで1913年に創業したメーカーで、映画産業が黎明期を迎えた時代から、プロ用の映像機器向けレンズを作り続けています。

Photo: 長谷川賢人

Schneider-Kreuznachのレンズは、本体に刻印されたシリアルナンバーからおおよその製造年がわかるようになっています。たとえば、このCine-Xenonは「4600411」なので1954年10月。

絞り羽根の枚数や形状が製造年代によって異なるのも特徴。戦争の影響による物資不足やコストカットなど、様々な要因が絡んでいるといわれます。

年代や形式の違う「Cine-Xenon」たち。絞り羽根の形状もさまざま。
Photo: 長谷川賢人

だから、同じ名前で同じスペックのレンズのはずが、それぞれで違う「顔」を持っていることも。こういうところはコレクター魂をくすぐられるポイントですね。

僕は主にオークションで入手しました。eBayの取引履歴を見るとドイツ、ポーランド、ハンガリーから届いたことも。遠いヨーロッパの地でひっそり眠っていたものが空や海を越えて日本にやってくる。その歴史と旅路を想像するだけでも、なんだか特別なモノのように感じられます。

(どの出品者も丁寧に梱包してくれ、ノートラブルで届いてラッキーでした)

「3Dプリンター製のマウントアダプターって、なんすか?」

左から、レンズ、マウントアダプター、マウントアダプター
Photo: 長谷川賢人

さて、どんなに良いレンズがあっても、先ほどお話したようにマウントアダプターがなくては自分のカメラで使えません。

このCine-Xenonは「Arri Standard(アリ・スタンダード)マウント」という規格です。ドイツのカメラメーカー「アーノルド&リヒター(通称ARRI)」が映画カメラ向けに設計したもので、ふつうのスチルカメラとは当然、規格が合いません。

レンズを横から見るとわかりますが、マウントも筒型です。スチルカメラでは見かけない形ですよね。そして、市販のマウントアダプターも全然なかったりします。そりゃ、需要があまりなければ供給もないのは仕方ないのです……。

Photo: 長谷川賢人

そこで大活躍するのが、横浜・関内にあるmukカメラサービスが手掛ける3Dプリンター製マウントアダプターたち!

Arri StandardマウントからライカMマウントへ変換するアダプターを独自に設計し、受注生産してくれています。

他にも、mukカメラサービスでは数々のニッチなマウントアダプターを手掛けています。まさに、レンズの歴史をつなぐ語り部であり、光学遺産たちへ「第二の人生」を授ける存在でしょう。ありがたすぎる。

マウントごとに形状を分析、実物のレンズと確かめながら3Dプリンターで作っているそう
image: mukカメラサービス

とはいえX-Pro3はXマウントですから、これだけではまだ使えません。そこで、焦点工房の既製品アダプター(ライカMマウント→FUJIFILM Xマウント)を重ね付けします。つまり、Arri Standardマウント→ライカMマウント→Xマウントという「変換の変換」ですね。

もちろん、どこかにArri Standardマウント→Xマウントが可能なアダプターがあればいいのですが……こういう「変換の変換」はマウントアダプターあるあるなので気にしないことです。使えることが万々歳。

「そんな苦労して使えても、写りはどうなんすか?」

Photo: 長谷川賢人

これが、良いんです…!。

僕の腕前によってしまうところはあるのですが、せっかくですし、作例を出してみますね。

使ったレンズは1959年5月製目安の「Schneider-Kreuznach Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4」で、フィルムシュミレーションは「CLASSIC CHROME」のJpeg撮って出しです。電子記録がないので細かいF値はわかりませんが、概ねF1.8〜F5.6の間くらいが多いです。完全開放より少し絞ったほうが好みです。

条件が揃えば、いわゆる「ぐるぐるボケ」にも近い表現も。
Photo: 長谷川賢人

開放で撮ると、中央のピントが合った部分はしっかり解像して、現代レンズに引けを取らないと思うほど。全域をシャープに解像する今どきの写りとは対極で、ソフトフィルターほどのにじみはありませんが、光がふわあっと広がるような柔らかい印象を受けます。

Photo: 長谷川賢人

スチルレンズとは狙いが違うこともあってか、あえて光を取り入れるように映すと、画面にはハレーションが起きるのですが解像感の低下はあまり起きていないように思えます。光の中に対象が活きているような感覚が得られます。どこか夢の中のトーンのように思えることも。

Photo: 長谷川賢人

猫を撮ってみたら、毛並みの質感もよく出ます。ただ、ハイライト部分がわずかにブルーが乗ることもあります。これもこのレンズの癖で、画作りの一つとして捉えています。

Photo: 長谷川賢人

F値をグッと絞ると印象も一変します。コントラストが高まって、厚みのある画作りに。同じレンズなのに、絞り値ひとつでこんなにも表情が変わってしまうのも面白いところ。

Photo: 長谷川賢人

信号待ちのとき、街角にさぁっと太陽が指した瞬間を撮ってみました。

Photo: 長谷川賢人

ちなみに、同じ場所からスマホ(iPhone SE3)で写したときが、こちら。

Photo: 長谷川賢人

まぁ、比較対象にするのも違うとは思いつつですが……どちらにも良し悪しはあれど、こういった「画作りの差」を意図して楽しむというのが、スマホカメラが高性能化している今だからこそ感じたいことなのかも、と。

Photo: 長谷川賢人

「正しく」処理されたきれいな画像とは違う、「このレンズを通さなければ見えてこない世界や風景=私とは違う“眼”の体験」が確かにある。カメラとレンズを組み合わせて使う面白さの一つだなぁ、ということを改めて感じるのでした。

伝説のシネレンズを蘇らせたレンズが気になります

Photo: 長谷川賢人

さてさて、CP+2026が2月26日から開幕しますが、ここでもマウントアダプターや面白いレンズに出会えそう。

たとえば、焦点工房では「Mega dap M2RF」という「ライカMマウントのレンズを、キヤノンRFマウントのカメラでAF駆動できる電子マウントアダプター」が出るとのこと。これ、焦点工房調べでは商用品としては初めてらしいので、キヤノン党の方は気になるアイテムになるかも。

もう一つ焦点工房で気になる展示が、3月1日にプレオーダー開始予定の「Light Lens Lab M 75mm f/2 SPII」です。1940年代の映画用レンズ「Cooke Speed Panchro Series II」の光学設計を現代に蘇らせた、ライカMマウント用の単焦点レンズ。

元になった「Cooke Speed Panchro」といえば、1930〜50年代のハリウッドを席巻した映画用レンズの系譜です。『カサブランカ』『サウンド・オブ・ミュージック』『ゴッドファーザー』といった名画の撮影にも使われたとされ、「Series II」はその改良版にあたるもの。

こちら現品は残存数も少ないからか、オークションで数十万円の値が付いているのもよく見ます。

個人的に「Cine-Xenon」のヘリコイドにも付いているうさぎの耳みたいな謎パーツ(たぶん操作性を上げるためなんだろう…)が可愛くて好きで、こちらにもしっかりあるのが嬉しい。このレンズ、めちゃくちゃ気になります…!」

以前から50mmのバージョンはあったのですが、75mmだとCMOS機なら中望遠になりますし、ポートレートにも良いですよね。実は僕も「Schneider-Kreuznach Arriflex Cine Xenon 75mm F2」はもっていて、その写りもレンズもすごく好きなんですが……あぁ、ちょっとこれはまたいつかの機会に。

マウントアダプターをはじめとした周辺機器も含めて、カメラというガジェットには「もっと遊べる!」をずっと思わせてくれる懐の深さがありますね。CP+ 2026の会場で、新しい世界を見せてくれる良き「眼」との出会いがありますように!