“アニメ絵”にもされる人気のワケは

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 就任二ヶ月を経た今も高い支持率を維持している高市早苗総理だが、人気があるのは日本国内だけではない。中国の不興を買った「台湾有事発言」で高市氏は台湾人の心をすっかり鷲づかみにした。台湾メディアは国会中継や高市氏の一挙一動を報道しており、その関心の高さは、これまでの首相の時とはケタ違いとなっている。問題の核となった「台湾有事」議論の只中にある台湾人の本音はどこにあるのか。詳細を追った。

【画像】別バージョンもある「高市チョコ」 人気の背景には“台湾アイデンティティ”の高まりがある? ほか

中国当局への反感を「日本観光促進」で援護射撃

 台湾有事が「存立危機事態」になり得るとの高市氏による国会答弁。結果、日中関係の緊張は高まったが、この発言を受け、台湾では政府から民間人に至るまで高市氏を評価している。

“アニメ絵”にもされる人気のワケは

 与党・民進党の印象操作も見え隠れするものの、頼清徳総統は日本産の海鮮ネタで握った寿司を食すSNS投稿を行った。中華航空(台湾の航空会社)傘下のタイガーエアは「(中国人が日本へ行かないなら)台湾人はもっと日本へ観光に! 空席を出さないように」とキャンペーンを打った。このほか旅行会社各社は、日本への旅行パッケージを展開し、人々は進んで日本へ旅行するなどして、中国政府への対抗意識を見せつつも、陰に日向に日本へエールを送り続けている。

地方自治体も表明「高雄市は高市氏を支持」

 高市氏就任で、真っ先に動いたのが南部の台湾第三の都市、高雄市だった。「高市挺高市(高雄市は高市総理を支持する)」というキャンペーンを行い、観光へ行くなら日本へ! と高雄市民の旅行ムードを盛り上げている。高雄市が時に「高市」と略称されることにちなんでの企画だ。

 更に台湾の老舗メーカー義美食品は、高市首相の就任記念として、関係者に向け「高市内閣誕生記念台日友好チョコレート」を製造配布した。高市首相へのお祝いの言葉がプリントされたバージョン、流行語になった「働いて働いてまいります」を印字したイラスト版も製作する力の入れようである(ちなみに過去には安倍晋三首相版も製造している)。当初は非売品だったこの「高市チョコ」は、ニュースやSNSなどで関心が高まったことで、12月頭からは義美食品の直営店で注文販売を開始している。

台湾人バッジ」が雨後の筍式に広がる

 韓国で「中国バッシング」旋風が起こった際に、台湾人が中国人と間違えられて不当な扱いを受けないよう制作された「我是台湾人(私は台湾人、中国人ではない)」バッジがある。現在、海外に行く台湾人の間で、このバッジを荷物や胸に装着することが流行になっている。中台関係に詳しい識者はこう話す。

「たとえば『我々は天安門を忘れない』等のバッジを胸にすることは、この事件を歴史から葬りたい中国当局の方針に合わないので、大陸中国人にはできないはず。だから台湾人にとっては有効な手段なのです」

 高市人気の背景には、こうした台湾人意識の高まりがある、と見るべきだ。

高市人気と日本へのエールは今後も続く

 以上のように、高市氏の発言を好意的に受け止めた台湾社会だが、反面、度重なる中国からの圧力を受けてきた経験から、過度に中国を刺激することは、日本のためによくないとも思っている。

 台湾政府からすれば、安倍晋三元首相の後継と目される高市氏が、就任早々に台湾重視の発言をしたことには歓迎の立場である。蔡英文前政権(2016〜2024)以来、与党・民進党は中国の武力行使抑止のため、日米連携強化に注力してきただけに、今後の日中関係の行方を注意深く見守っている。

 現在の頼清徳政権は、2025年に国民党へのリコール運動を仕掛け、少数与党から脱却することを目指したが失敗。勢い付いた野党は、多数議員を擁する立法院(国会)で頼政権を追い込んでいる。中国当局はこの「内輪もめ」がどう展開するかを外から眺め、布石を打つ構えだ。

中国当局への警戒は、日台ともに

 さらに言えば、日米連携重視の与党・民進党と、中国との対話を基調とする国民党とは外交面でも逆の立場だ。台湾内に全く異なる2つの外交方針があるので、有権者は先が見通せずに、次の選挙(2026年に首長選挙、2028年に総統選挙が予定されている)でも難しい選択を迫られることになるわけだ。

 中国当局は、こうした点も考慮して、軍事力ではなく認知戦を仕掛けて台湾の孤立化を図ってくることだろう。同様に、日本へも色々な形で圧力を加えてくる事を日本政府、民間人は警戒するべきである。特に、中国に拠点を持つ日系企業は自覚を持ってリスク対策を急ぐことだ。

 実弾やロケットが飛ぶ戦争ではなく、コストを抑え「戦わずして勝つ」ことを目指す中国政府が、周辺国、隣国をどのように揺さぶるか。「台湾有事」の折には「転ばぬ先の杖」を仕込んでおく事が肝要なのである。

広橋賢蔵(ひろはし・けんぞう)
台湾在住ライター。1965年生、1988年北京留学後、1989年に台湾に渡り「なーるほどザ台湾」「台北ナビ」編集担当を経て、現在は台湾観光案内ブログ「歩く台北」主宰。近著に『台湾の秘湯迷走旅』(双葉文庫)などがある。

デイリー新潮編集部