元気に長生きするために、何を心がけるべきか。生物学者の池田清彦氏は「現代人は食べすぎが当たり前になっているが、『食べない時間』を意識的につくることが老化を遅らせる。週1〜2回、16時間断食するだけで健康状態が良くなるという報告もある」という――。

※本稿は、池田清彦『老いと死の流儀』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/pain au chocolat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pain au chocolat

■長生きの鍵は「食べすぎないこと」

哺乳類である人間が「より長く生きる」ことを目指すのは、はっきり言えば、「自然の仕組みに反する試み」です。

とはいえ、「できるだけ老化を遅くして、できるだけ長く生きたい」というのは、発達した脳を持つ人間の個人として当然のパトス(感情)でしょう。

かくいう私だって、まだまだやりたいことはいろいろありますし、当分死なずに済むのであればもちろんそうしたいですから、その願いを否定するつもりはありません。

そして完全に止めることは無理だとしても、うまく対処することで、多少なりとも老化を遅らせられる可能性はもちろんあります。

さまざまな動物実験のデータから、長生きに寄与する可能性が高いことのうちの一つがカロリー制限です。

現代人はいつでも食べられる環境にあるせいで、食べすぎが当たり前になっていますが、人間も含めて、野生動物というのはギリギリのカロリーで生きるようにもともとできています。

つまり、食べすぎというのは体にとっては大きな負担なのです。

■総カロリーをギリギリまで落とすと代謝の負担が減る

実際、アメリカのデータでは過食してる人たちがカロリー制限をすると長生きする可能性が示唆されています。要するに、食べすぎだったぶんを減らすだけで体の負担が減って、生活習慣病にもなりにくくなり、そのぶん、健康に生きられる期間が長くなるというわけでしょう。

もちろん、栄養まで不足するような極端な制限はダメですよ。それだと逆に体を壊してしまいます。

大事なのは、必要な栄養はちゃんととったうえで、総カロリーをなるべくギリギリまで落とすことです。そうすることで代謝の負担も減りますし、「オートファジー」もよく働くようになりますから、それが老化を遅らせることにつながります。

写真=iStock.com/Doucefleur
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Doucefleur

■細胞を若返らせる「オートファジー」

オートファジーというのは、細胞の中で古くなったり壊れたりして使えなくなった「部品」を分解して、再び使える形にする仕組みです。

ここで言う「部品」とは、たとえばエネルギーをつくる装置(ミトコンドリア)や、タンパク質を加工・輸送する設備(小胞体)、不要になった酵素や構造タンパク質、形が崩れて正しく働けなくなったタンパク質などのことを指しますが、これらを分解して材料として再利用することで、細胞は新しい部品をつくり出し、機能を保っているのです。

ちなみにこの仕組みを分子レベルで初めて解明したのは東京工業大学の大隅良典名誉教授です。この功績が評価され、2016年にはノーベル生理学・医学賞を受賞されています。

そんなオートファジーは、エネルギー供給が控えめな状態のときほど活発になります。だから、「カロリー制限がいい」というわけですね。

それによってオートファジーが活性化されれば、壊れた部分の修復が促されますから、老化のスピードを緩めてくれるのです。

さらに言うと、オートファジーはDNAを傷つける原因を減らし、修復がスムーズに進む環境を整える作用がある可能性も指摘されています。

■16時間断食が健康状態を改善させる

カロリー制限よりもっとオートファジーの活性度が高くなるのは、食事の間隔をしっかり空ける断続的断食です。体が「しばらくエネルギーが入ってこない」と判断することで、オートファジーのスイッチがより強く入るのでしょう。

実際、動物実験では18時間くらいの断食で寿命が延びるという結果が出ています。

人間だとそういった実験はなかなかできないのですが、それでも16時間くらい食べない時間をつくると、健康状態がよくなるという報告はいくつもあります。

また、一週間に1〜2回でも十分な効果があるそうです。毎日ではないほうが続けやすいぶん、効果が出やすいという面もあるのでしょうね。

16時間断食というとものすごく大変そうですが、たとえば夜8時までに夕食を食べ終えたら、翌日の昼12時まで何も食べないようにすれば、16時間の断食ができますね。

英語で朝食を意味する「ブレックファースト(breakfast)」という言葉は、本来「断食(fast)を破る(break)」という意味です。

この言葉が示すとおり、夜寝ている間は誰だって多かれ少なかれ、断食しているはずです。だから、その時間を少し長くするだけだと考えればそこまで難しくないかもしれません。しかも毎日やる必要はなく、週に1日とか2日でいいのなら、なおさらハードルは下がるでしょう。

■「なんとなく食べる」をやめてみる

とはいえ、私の場合は夜の8時以降もお酒を飲むので、無理なんですけどね。水とかお茶とかなら飲んでもいいことになっていますが、お酒はカロリーがありますからダメなんですよ。ただ、なるべく夜はお酒だけにして、つまみはあまり食べないようにしているので、オートファジーがまったく働いていないわけではないと思います。

食べ物がいつも手の届くところにあるせいで、お腹がすいていなくてもなんとなく食べてしまうという人は多いのではないでしょうか。

だから、16時間断食に無理にこだわらなくても、そういうのをやめて、「食べない時間」を意識的に延ばすだけでも、オートファジーをそれなりに働かせることはできるのではないかと私は思いますよ。

■適度なストレスが体を鍛える

カロリー制限や断続的断食というのは、体にストレスをかける行為です。

ストレスというと「健康の敵」というイメージがありますが、必ずしもそうではありません。最近では「適度なストレス」はむしろ老化を遅らせる可能性があることがわかってきています。

過剰なストレスはもちろんダメですが、まったくストレスがないというのもそれはそれでよくないんですね。

実際、軽いダメージや負荷は、体が自らを修復しようとするスイッチを押すきっかけになります。このような少量のストレスが、逆に体を直そうとする仕組みは「ホルミシス効果」と呼ばれています。

運動したあとに筋肉痛が起こったりしますが、それは筋肉の細胞が運動という負荷(ストレス)によって一度壊れたサインです。

一方で体はそれに対抗しようとして修復作業を始めます。そして、壊れたぶんを取り戻そうと体が頑張った結果、以前より代謝機能が高まったり、筋肉量が増えたりもするんですよ。だから、適度な運動をするのが大事だと言われるんですね。

■家が寒すぎると体に良くない

そのほか軽い寒冷刺激(冬に外を歩くなど)も、体にとってはほどよいストレスになると言われています。

池田清彦『老いと死の流儀』(扶桑社新書)

ただし、居住空間が寒すぎると逆に健康を損ないます。

イギリスの住宅の健康・安全評価システムでは、「室温が16℃以下になると、健康リスクが高まる」とされていますし、慶應義塾大学理工学部の伊香賀俊治教授らの調査では、冬に寒い家に住んでいると、脳の神経細胞の質が悪くなることがわかったと言います。

ですので、寒冷刺激は「外に出てちょっと寒さを感じる」程度にとどめ、家の中はWHO(世界保健機関)が推奨する18℃以上に調整しておくのが、賢い方法だと言えそうです。

ホルミシス効果というのは、「少量であれば体に良い影響を与える物質や刺激が、大量になると有害になる現象」のことですから、運動にしろ、寒冷刺激にしろ、過度な負荷は体に悪影響を及ぼします。だから、どちらもほどほどが大事ですよ。

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池田 清彦(いけだ・きよひこ)
生物学者、理学博士
1947年、東京都生まれ。生物学者、評論家、理学博士。東京教育大学理学部生物学科卒業、東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻単位取得満期退学。山梨大学教育人間科学部教授、早稲田大学国際教養学部教授を経て、山梨大学名誉教授、早稲田大学名誉教授、TAKAO 599 MUSEUM名誉館長。『構造主義科学論の冒険』(講談社学術文庫)、『環境問題のウソ』(ちくまプリマー新書)、『「現代優生学」の脅威』(インターナショナル新書)、『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)、『孤独という病』(宝島社新書)、『自己家畜化する日本人』(祥伝社新書)など著書多数。メルマガ「池田清彦のやせ我慢日記」、VoicyとYouTubeで「池田清彦の森羅万象」を配信中。
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(生物学者、理学博士 池田 清彦)