流行りは「キラキラ」ではなく「読めない」…2025年版「赤ちゃんの名前ランキング」からわかる令和の親の傾向

■法改正で「キラキラネーム」は…
今年(2025年)5月に改正戸籍法が施行され、私たちの氏名の「ふりがな」が戸籍に登録されることになりました。改正された戸籍法では、
? 氏名の振り仮名を戸籍に記載する
? 氏名の読み方は一般に認められているものでなければならない
ということが定められました。そのため、いわゆる「キラキラネーム」が規制されるかのような報道があふれ、そのように受け取った人も多かったようです。
じつはそれは誤解であり、この2つのことはまったく別の話なのです。それが戸籍法13条の中に一緒に書かれたので、深い関係があるように思われてしまったのだと推測されます。
おもしろいことにその誤解は良い結果も生んでいて、「やっぱり勝手な読み方の名前はいけないんだ。気をつけよう」という気運も生まれています。ベネッセコーポレーション「たまひよ」のアンケート調査によると、「名づけをするにあたって改正戸籍法を意識したか」という質問に対して、「はい」と回答した人は45.3%だったということです(調査対象数1704人)。
ただし、そのことが名づけの流れを変えた、という形跡も今のところありません。
名づけの傾向については毎年いろいろな企業や団体が人気順位を発表しており、内容に違いもありますが、ここで「たまひよ」が10月30日に発表した「赤ちゃんの名前ランキング2025」(調査対象数16万6011人)をみてみます。

この中には辞典にない強引な読み方の名前が4つあります。そのうち蒼空(そら)は前年より順位が下がっていますが、陽葵(ひまり)は順位が変わらず、湊斗(みなと)、心都(こと)は順位が上がっています。
そして同じ文字の名前でも実際はいくつもの違う読み方でつけられていますから、全体として正しい読み方の名前が増えているのかどうかは、このランキングからはわかりません。
はじめに述べたような誤解をさけるために、「名づけ」そのものの話と、「ふりがなの登録」の話を分けて解説していきます。
■戦前には「武良温」「利茶道」「六十里二」
名づけには、その時代、その社会に足りないもの、求めて得られないものが表現されます。
わかりやすい例では、人が信じられなかった戦国の時代は、信長、信玄、謙信などのように「信」の字が好まれました。勝ち目のない泥沼の戦争をしていた時は、勝、進、勇などの字が大人気でした。また戦前戦後の食糧難の時代には、実、稔、茂、豊など収穫をあらわす字が多く使われました。
平成以後は、動植物、太陽、空、海などの自然界に関係する字が名前にあふれています。これは自然が破壊されていくことに対する不安感のあらわれとみることができます。
ところで平成の時代に話題になった「キラキラネーム」というのは、決まった定義はありませんが、一般的には、
といった珍しい、奇抜な名前をさします。これは平成の新しいトレンドのようにも言われましたが、じつは古くからある名づけの一種で、森鴎外や与謝野晶子が子供たちに奇抜な名前をつけたことも有名です。また、
などといった名前が昭和の初期にもつけられています(荒木良造『名乗辞典』東京堂出版)。ただ昔は、それを多くの人がマネすることはありませんでした。
■「奇抜な名前」が流行した背景
ところが平成の時代は、珍しさにこだわった名前が増え、多い時期には全体の3割近くを占めるようになり、ひとつの流行になりました。
その流行は何を意味するのでしょうか。それはその親たちがどんな環境で育ったのか、時計をさらに20年ほど戻してみると見えてきます。

当時は右肩上がりの高度成長期で、経済的には恵まれた、安定した社会でした。しかし言いかえれば全国の中高生が有名大学、有名企業といった同じ人生目標を与えられ、同じような教材を使って同じ受験競争を強いられていて、自分自身で自分独自の道を切り開くという発想は起きにくかったのです。
そんな空気の中にいた人たちの一部が、のちに親になって、自由と個性を盛んに口にし、奇抜な名前にあこがれたのです。それは、「もう管理されるのはうんざりだ」という無意識の叫びであり、わが子の名づけだけが「人との違い」を示し、管理社会への抵抗を示すチャンスだったのだろうと思われます。まさに自主性、個性の欠乏感という何とも気の毒な背景があったわけです。
■「スマホの普及」の意外な影響
令和の時代になってからは、極端な、悪ふざけのような「ギャグ名前」はほとんど姿を消しました。ただし、
などのように、耳で聞けば普通の名前で、漢字で書かれると読めない名が多いのです。男女不明、男女さかさまの名前も増え続けています。ただしこれはほとんど男の子につけられています。先の「たまひよ」のランキングでも、女の子の中にはなく、男の子のよび名には、あお、あさひ、なぎ、はる、そら、りつ、など6つも見られます。
これらの物理的な要因としてはスマホの普及があげられます。名づけとなるとスマホをいじる、というのは普通の光景になっています。スマホの名づけのサイトには、読めない名前、男女を間違える名前があふれ、その中から名前をさがす人も多いわけです。

■なぜ「読めない名前」が増えているのか
しかし無意識の世界で起きている心理的な背景となりますと、これもやはり何かの欠乏でしょう。
今、名づけをしている親たちは、高度成長期と逆に、平成不況の中で育っています。受験競争でがんばってみてもバラ色の未来など約束されず、災害も多発し、予想外の生き方を強いられた人も多いのです。一人一人が自らの生き方を模索しなければならず、生きざまも多様になっていて、奇抜な名づけで個性を示すという発想はありません。
それよりも個人情報がどこでどう使われるかわからず、詐欺という言葉が誰にとっても他人事ではなく、皆が内心ビクビクしながら毎日をすごしています。
こうなると名前のほうも、個人が割れやすいキラキラネームではなく、友人知人にしか読めない、正体のわかりにくい名前のほうが安心感があるわけです。平成以後の社会で欠けているものは「安全」「安定」であり、令和の名づけの背景にあるのは、不安感、警戒心ではないかと思われます。
■「ふりがな登録」の目的は、行政の効率化
では氏名のふりがなの戸籍への登録の話にうつります。これはひとえに行政の効率化のために行われたものです。
2007年のこと、当時の社会保険庁のずさんな業務のため、何千万人もの年金の記録が不明になるという、いわゆる「消えた年金問題」が起きました。
また2020年に、新型コロナの感染拡大で10万円の給付金が支給された際、全国の役所で大混乱が起きました。
こうしたことの原因のひとつに、私たちの氏名の読み方が公式に決まっておらず、個人の特定や照合がしにくいことがありました。
このままでは日本社会が機能不全に陥ってしまうというので、公共機関、金融機関、電話会社、病院などの間で情報のやりとりをしやすくするため、氏名の読み方も一つに確定し、公証することになったのです。
そこで同じ2020年の末には「デジタル・ガバメント実行計画」が作られ、戸籍における読み仮名の法制化が決められました。
翌2021年に戸籍法改正のための法制審議会がスタートします。会議が重ねられて、2023年になって改正戸籍法が公布され、そして2025年の5月に施行されたわけです。
ふりがなの戸籍への登録はこうした流れによるものです。キラキラネームは関係ありません。それはマイナカードの普及と連動したものです。
ですから私たちにのしかかる課題は、人に読めない名前をつけられるかどうかではなく、セキュリティなのです。多くの個人情報とヒモづけされたマイナカードをもち歩くことで、紛失、盗難、詐欺などに対する厳重な注意が必要になったのです。
■「キラキラネーム規制」という誤解のワケ
ところで改正された戸籍法では、「氏名の読み方は一般に認められているものでなければならない」という一文が加えられ、そのためキラキラネームが規制されるかのような誤解が広まりました。
ではこの一文はいったい何のために書かれ、そしてどういう意味なのでしょうか? じつはそれは誰にもわからず、明確な説明がどこにもないのです。まさに謎なのです。
まずこの規定は適用範囲が決められていませんので、何となく私たち全国民の氏名が対象になってしまうのです。それは奇妙な話です。
私たちがふだん使っている名字、そして名前(実在名前と呼ぶことにします)、また新たにつけられる子供の名前(新規名前と呼ぶことにします)の3つは、はっきり区別しなければならないものです。

名字はもちろん先祖から伝えられ、子孫も使い続けるもので、その読み方に規定を作って審査するなどもってのほかです。
■「個人の名前」に立ち入っていいのか
「実在名前」もそうです。その読み方は、出生届に書いて出した時はだまって受けつけられ、本人も、周りの人もずっと使い続け、預金通帳、診察券、パスポートをはじめ、保険契約やいろいろな申込書など、多くのところに書かれています。
名字や「実在名前」の読み方(よび方)というのは、私たちはそれを耳で聞いて、「あ、私のことだ」とわかるのです。つまり自分自身の象徴です。それは役所も住民基本台帳にのせて、いろいろな事務処理に使ってきました。
その読み方に対して役所が「一般に認められていませんから変えなさい」などと言っていいのでしょうか? あとから作った規定をふりかざして、すでに使っているよび名を変えろと言ったら正気の沙汰ではありません。
言われた人は、免許証、証明書、カードなどに書かれた読み方をすべて変えなければなりません。学校、職場、親戚、友人知人によび名が変わったことを知らせたあげく、「役所によび名を変えさせられた人」という目でみられます。これは本人にとって大変な屈辱、負担になるばかりか、社会の秩序をこわし、大混乱を招くことです。
■法務省は「すでに使用している読み方を尊重」
そもそも名字や「実在名前」の読み方に、新たな条件をつけて審査をすることは不可能です。たとえば紅玉(るびー)、夢追(ろまん)、大熊猫(ぱんだ)などのようなキラキラネームを、読み方がいけないと言ってみても、ではどう変えれば一般に認められている読み方になるのか、答えはないのです。どんなふりがなにしようが人に読めないことは同じです。
そういうわけで、読み方の規定を作るなら新規名前だけが対象でなければなりません。しかし改正戸籍法では、名字、実在名前、新規名前の3つが区別されていませんから、誤解や混乱が広がってしまうのです。
そこで困った法務省は、「一般に認められていないような読み方でも、すでに使用している読み方を尊重します」とつけ足しています。ですから実際には私たちの氏名の読み方が変えさせられる、ということはないわけです。

■法律はあっても「基準」がなければ審査できない
では新たに生まれる子の名前については、どうなるのでしょうか? 新しい規定は、どのように関わってくるのでしょうか?
「読み方は一般に認められているものでなければならない」という表現は、あまりに観念的、抽象的で、どういう状態のことなのかわかりませんし、日本語としてヘンです。世の中には難読の名字や名前も多いですが、本人が名乗ったら他の人は反対などできず、認められている、いないという区別などないのです。
これについては、法務省のホームページや、法務省が発表した『一問一答・戸籍法』という資料(非常に複雑でわかりにくい内容ですが)を見ますと、はっきりいけないと言っている読み方は次のものです。
・漢字の意味と反対の意味になる読み方(高をヒクシ)
・読み違い、書き違いかどうかわからない読み方(太郎をジロウ、サブロウ)
・関連性を認めることができない読み方(太郎をジョージ、マイケル)
・健をケンサマ、ケンイチロウ
・別人と誤解される読み方(鈴木をサトウ、佐藤をスズキ)
■結果的にキラキラネームが「公認」された
もちろんこんな特殊な例だけ示されても、ほかのたくさんの氏名を判断することはできません。さらに法務省が示した指針では、心愛(ここあ)、桜良(さら)、彩夢(ゆめ)、美空(そら)などの読み方はOKだそうです。辞典にのっていませんので間違った読み方になるのですが、これらは一般に認められている範囲だ、としているのです。
そうなると規定だけあっても、具体的に何を基準に考えればいいのかわかりません。明確な基準がなければ、全国の役所も厳格な審査などできないでしょう。
今回の戸籍法の改正にあたっては、いろいろな意見が法務省に寄せられましたが、中でも多かったのが次のような意見でした。
採用されなかったとはいえ、これこそが世の中に多いまともな意見ではないでしょうか。
なまじ意味のわからない規定など作れば、役所は読み方の審査義務だけ生じて実際の審査ができず、たとえでたらめな読み方でも、「役所が認めました」というお墨付きだけを与えることになります。それはキラキラネームの規制どころか、公認になってしまうでしょう。
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牧野 恭仁雄(まきの・くにお)
命名研究家
早稲田大学理工学部卒。一級建築士。名づけの研究を40年以上続ける。これまでに受けた命名相談は12万件、鑑定した名前の数は100万以上。著書に『赤ちゃんの名前辞典』(主婦の友社)、『子供の名前が危ない』(KKベストセラーズ)などがある。
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(命名研究家 牧野 恭仁雄)
